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転生者殺しの第九騎士〈ナイトオブナイン〉  作者: アガラちゃん
十二章「追放勇者の復讐劇/顛末に下る罰」
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12章-(10)ムラマサ追放の真実

……彼らの話によると、こういう経緯があったらしい。


 転生し、この世界に初めて訪れて呆然と立ち()くすムラマサへ、初めて声を掛けたのがオリヴァーであった。


 冒険者として一旗揚(ひとはたあ)げようとしていた彼にとって、強大な力を持つ転生者の存在はまさに渡りに船といえる。オリヴァーはすぐに彼に話し掛け、パーティーを組んだ。


 初めは二人で旅をした。攻撃魔法を使う術士を希望していたオリヴァーにとって、ムラマサの“薬効特化”は正直なところ期待外れであったが……それでも彼の回復薬の効果はやはり別格。


 どんな怪我も瞬時に治してくれる彼の存在は心強く、安心して背中を任せられる相棒としてムラマサを信頼していた。


 転機が訪れたのは……女性メンバーを加入させたあたりであった。


「はじめは男のアタッカーを(つの)ったが、人手不足だったようでな……仕方なく、というわけではないが、腕が立つと噂になっていた2刀使いのジーナをパーティーに迎えた」


 ――そっちのミレノアって人を(めぐ)ってイザコザ起こしたんじゃないのか? というか、どうしてそんな性別にこだわる?


「決まっている。男女混成(こんせい)のパーティーは冒険者にとって禁忌(きんき)だからだ」


 ――なんで?


 俺が尋ねると、隣のマーリカがやれやれとため息交じりに答える。


「決まってんでしょ。男女で旅してたら間違いなくヤッちまうからよ」


 ええ……


「単なる性欲処理として割り切ることができりゃ問題ないんだけどね。けどまあヤッちまうと情とか湧いてきちゃうし、複数人のチームだと愛だの恋だの嫉妬だのでぐっちゃぐちゃのグダグダになる。これが本当に致命的」


 くくく、と他人の不幸をほくそ笑むようにマーリカが笑う。


「冒険者ってのは明日も知れないサバイバルがデフォでしょ? そんな状況で恋敵を蹴落とそうとしたり、意中の相手のためにでしゃばったりしたら連携もクソもない。

昔聞いた話だと、ある冒険者パーティーが魔獣の群れに囲まれて、仲間の一人を(おとり)にして逃げようとした。その時、逃げていたメンバーの男が突然囮の仲間の元へ戻っちゃったのよ。そいつ、囮の子の事が好きだったみたいで、見捨てることができなかったんだってさ」

 

 ――いい話、じゃないのか?


「うんにゃ全然! 戻った男は広域探知能力持ちで、戦いのほうはからっきし。だから囮の子の所に来られても戦力にならないし、そもそも囮の子は身軽で隠れるのが得意だから初めから囮役としての要員でもあったの。一人なら逃げられたのにねえ……男の方が戻ってきたばっかりにそいつを守るために逃げられず、二人揃って魔獣のエサ。

 んで、探知能力持ちが抜けたチームも逃げ道がわからず窮地(きゅうち)(おちい)る。しかも探知野郎が戻る前にリーダーをボロクソに貶めたおかげでメンバー間に不信感が芽生え、絶体絶命の状況でパーティーが離散(りさん)するとかいう最悪の結果になったワケ。

 結果6人パーティーの内、生き延びたのは偶然他の冒険者パーティーに拾われた火炎術士の男だけで、残りは誰一人山から下りてきませんでしたとさー。めでたしめでたし」


 ――めでたくねえ。


「……本当に笑い話ではないぞ。ギルドの調べでは、異性同士のパーティーの約8割は離散か全滅するといわれていてな……」

 

 オリヴァーが深刻そうに口を開く。


「勇者パーティーとして活動することは気楽ではない。常に生きるか死ぬかの極限の状態にあるといってもいい。恋愛なら引退後に好きなだけすればいい。だがそれを戦いの場にまで持ち込まれてはたまったものではない。

 だからパーティーを組むときは同性同士が基本なのだ……ジーナを引き入れた時は迷ったが、当時は戦力の拡大が急務だったからな……」


「……私とてお前達のパーティーに誘われた時は正直困惑した」


 これまで黙って聞いていたジーナも当時のことを振り返る。


「断ろうかとも思ったが、“メンバー間での恋愛厳禁”“異性間で二人きりにならない事”“平時(へいじ)に異性への接触禁止”など、面倒事にならないよう取り決めをしてくれたのでな。こちらとしてもソロの活動が厳しくなってきた頃合(ころあ)いだったので、了承(りょうしょう)した次第だ」


 オリヴァーは腕組みをしながら1つ(うなづ)いた


「うむ。パーティーメンバーは寝食を共にする、いってみれば家族のようなもの。規律正しく生活すれば妙な気は起きないだろうと考えた。現に俺は一切起きなかった」


 自信満々に言い放つオリヴァー。


 それを聞いていた女性メンバー達は全員「でしょうね」という顔で頷いていた。


「だが……誤算だった。奴は、ムラマサはまだ少年。子供だったからな……」


 オリヴァーは腕組みをしながら、深くため息を吐いた。


「初めは小さな異変だった。昔のような連携(れんけい)が取りづらくなっていた……まあこれは加入したてのジーナの動きに慣れていないせいだろう。じき馴染(なじ)むはず……そう思っていたが、一向に違和感は解消されず、なんなら(ひど)くなる一方だ。

 原因はすぐにわかった。ムラマサだ。あいつがやたら前に出るようになってな」


 ――あいつは回復役だろ? なんで前に出る必要が?


「“いつまでも守られているだけは嫌だ”だとか言っていたよ。私としては守ってやっているつもりはなかったんだが……」

 

 今度はジーナがため息。


「ヒーラーはパーティーの柱の1つといってもいい。各々(おのおの)が各々の役を完璧にこなすことで、互いに信頼や尊敬の念が生まれよう。だが奴は、何を勘違いしたのか、やたら私の前に出たがってな」


 苦々しい様子で、オリヴァーが肩を落とす。

 

「女の後ろで縮こまっているのが我慢ならなかったんだろう。男とはそういうものだ。奴の気持ちはわからんではないが……それでもヒーラーがアタッカーの前に出るのはありえない。

 しかも知らない間に武器屋で剣と盾を調達し、自分も前線で戦うと言い出した。奴は転生者だから(きた)えれば前線でもやっていけるだろうが……ヒーラーが回復せずに武器を振るってどうするというのか……」


 ……初め俺はムラマサから、このオリヴァーという男が女性メンバーにちょっかい掛けたのが原因だと聞かされていた。


 ムラマサが俺達に接触したと聞き、(あわ)てて俺達に取り(つくろ)おうとしてきたのかと思っていたが……雲行きが怪しくなってきたな。


 ムラマサの言った事とこいつらの言っていることは、どちらが正しい……?

 

「テイマーのリインが加入すると、奴の行動はさらにエスカレートしてな。リインが敵を探知すると即座に剣と盾を持って迎撃するようになったよ」


 ――あいつ、ヒーラーだったよな?


「そうなの。リインさんがまだ敵遠いから行っちゃダメだよって言っても聞かなかったの」


 俺の問いに、リインという少女がポワポワした口調で答えた。


「傷を回復させても痛みは消せない。だから敵から攻撃を受けさせないことが本当のヒーラーの仕事だって言ってた。よくわかんなかったの」


「回復役がチームから離れてどうすると何度も注意してやったが、一向に俺のいう事は聞かなくてな。しかも転生者ゆえに前線でも結構な活躍をしてしまい、その事実が拍車(はくしゃ)を掛けてどんどん暴走していった……」


 深刻そうに語るオリヴァーとは対照的に、リインはゆらゆらと体を左右に揺らしながら、のんびりとした口調で話す。


「ほんとに毎日ピリピリだったよね。やっちゃダメだよってオリヴァーが怒っても、“自分はチームのために柔軟に行動しただけ”“戦略的には自分の方が正しかった”“誰も俺の苦労を知らないくせに”とか言い返しちゃうから、もうオリヴァーもみんなもムキーってなるの」


 ……すげえ可愛く言ってるけど、相当な修羅場(しゅらば)だろそれ……


「決定的となったのはミレノアの加入だ。全くの素人の彼女が来たことで、ムラマサは彼女を守るために後方支援(こうほうしえん)(てっ)するようになった。

 一時は暴走が収まったと胸をなで下ろしたのだが……甘い考えだったよ」


 当時のことを思い出したのか、オリヴァーは苦虫をかみつぶしたように顔をしかめた。


「恋愛は厳禁といったのに、奴はミレノアに恋心を抱いてしまったようでな。平時での接触や異性間で二人きりになるなど、俺が()した禁止事項をことごとく無視するようになった……ミレノアには故郷に婚約者がいるというのに」


 ……は!? 婚約者!?

 

 愕然(がくぜん)とミレノアの方へ振り返ると、彼女はこくりと頷いた。


 ――なんでそれをあいつに言わなかった?


「……それは」


 言いにくそうにするミレノアに変わり、オリヴァーが答える。


「プライベートな話題は口にするべからず。以前彼女が自分の身の上をうっかり語ったことをたしなめたのが(こた)えたようでな。どうしても奴に打ち明けられなかったそうだ」


「無理もない。あの空気感ではな。ムラマサの行動によりメンバー間での禁止事項の重みが増し、あの時はメンバー同士がお互い監視するかのようにギスギスしていた。私がミレノアでも、みだりに打ち明けることはできなかっただろうさ」


 ジーナは落ち込むミレノアをフォローするようにそう言った。


「うむ。ムラマサの気持ちはミレノアも分かっていた。だが下手に断ればあの男がどんな行動を取るかわからない。いっそ婚約者のことを言えれば良かったがそれも叶わない……精神的に相当まいっていたようでな。

 耐えかねてリーダーであった俺に相談してきたが、運悪くそれを奴に見られたようでな。それからだ。奴が俺を敵視するようになったのは」


「全部わたしが悪いんです……わたしが」


ミレノアがうつむいたまま、ぽつりと呟く


「彼の気持ちを知っていながら、知らないフリして、うやむやに先延(さきの)ばしにして……わたしがもっと早く言っていれば、ムラマサさんを追放することなんて……」


「それは違う」


「ミレノアちゃんだけのせいじゃないの」


 即座にジーナとリインの二人が否定し、オリヴァーも二人に頷いた。


「ああ……誰のせいだのと、そういう問題でもない。俺の責任でもあるし、お前達の行動にも間違いがあったのかもしれん……結果的に奴ひとりを追い出す形になってしまった。

 他にもっと良い手立てはないかと考えたが、俺の力不足だ。こんな最悪な形で決着をつけてしまい……すまない。」


 目を固く閉じ、オリヴァーは三人に頭を下げた。


 と、その時。


「相変わらず女の前だと紳士だな。謝るべき相手は他にもいるんじゃないか?」


 唐突に声。振り仰ぐと――潰れた石造りの教会、その屋根の上に人影が1つ。


 灰色の曇天(どんてん)を背景に、緑のフードを被った男。ムラマサであった。


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