2章-(3)戦いの鍛錬
「おーい! デカい音しよったが、武器に触れたかソウジ!?」
遠くでダンウォードの声がした。
改めてその斧を見る。
全長は俺の背と同じくらいで、170センチ近い。全体は艶のない銀色で石突きの部分がトゲ状に尖っている。
印象的なのはその刀身。三つの斧の刃が組み合わりなんとなく巴の紋様を彷彿とさせる、車輪状の刃。
刃と柄の間は鎖で繋がっており、柄の先端には巻き取り装置のようなものがついていた。もしかしてこれ、刃の部分が取れたりするのか? 変わった武器だな。
……たしか、最初に触った武器なら大丈夫なんだよな……
恐る恐る手に取り、両手で持ち上げてみる。
すると――ゴツい見た目に反し、プラスチック製かと思えるほど軽い。
とはいえ大型で重心が取りづらいため、すぐに肩に掛けるスタイルに変えた。
……異常なほどに馴染む感覚。まるで、ずっと昔からこうして持っていたかのように。
これが、魔剣。
人の心を壊す……という話も嘘ではないのかもしれない。そう思えた
「ほう……! “ホイールアックス”か!! 久々に見たわい!!」
斧を持ち帰ると、ダンウォードが目を丸くして驚いた。
「……“戦塵のライゼル”。旧ビスティール国の猛将……あいつの斧、だな」
「〈戦場を睥睨する銀の眼〉、か。懐かしいのう。
あの国が滅びた後、あやつの消息も途絶えてしまったからな。またなんぞ、どこぞの戦場で出会うものかと思っておったが……そうか。あやつは逝ったか。もうあのバーサーカーの顔を見んで済むとはうれしい話よの」
イルフォンスとダンウォードが斧を前になにやら昔話に花を咲かせている。
よくわからないが、この斧の前の持ち主を知っているらしい。
「よし、構えい、ソウジ」
言われた通り斧を両手で持ち、刀でいうところの正眼の構えを取る。
……?
ざわり、と首筋になにかが走る感覚。
なんだ? 何か妙だ……
「わかるか? その斧は〈怒り〉の感情を食らう。
斧に取り込まれたくなければ、常に冷静に立ち回ることじゃな」
……仰々しい話だが、今のところ俺に異変はない。
この分なら、持ち歩いても大丈夫そうだな……こんなデカい斧持ち歩きたくはないが。
「次は素振りだ。やってみせい」
柄が地面にぶつからないよう注意しながら、俺は頭上から真下へマキを割るように振り下ろす。
「それじゃあいかん。そんな隙だらけの動きではとても戦場には出られんわ!」
戦場になんぞ赴きたくないんだが。
「真上から真下への動きは次のモーションに繋がらん。避けられれば終いよ。その動きは、地面に伏した相手へのトドメとして使え」
――じゃあ、どう振ればいい?
「……ソウジよ。武器としての斧の強みはなんだ?」
――は?
「重量のある武器なら他にもある。そこの宝物庫にある長重剣や鉄潰鎚、ワシの持つ穿牙槍のようにな。重さによる破壊力の高さは斧特有の利点ではない」
俺はじっと手の斧を見る。
俺には軽く感じるが、地面に降ろすとかなり重量のある音が出た。これも魔剣の力なのだろう。
再び持ち上げる。軽い。が、重心が先端のほうに傾いているため扱いづらい感覚を覚える。
斬擊を与えるならむこうの長重剣のほうが有利。斧は先端にしか刃がないため、ヒットポイントがずれると有効打は与えられない。
鎧を着ている相手と戦うなら鉄潰鎚や穿牙槍のほうが有利だ。鎚ならば鎧を通して衝撃を相手に与えられる。槍ならば甲冑の隙間を狙えるし、勢いをつければ鎧ごと貫通させることもできるかもしれない。
……斧は重心が先端に偏っているため、振るとどうしても隙が生まれる。遠心力により外側へ引っ張られる力を受けるので、それを抑えるためにどうしても動きが制限されるのだ。
……まてよ。遠心力、か……
俺は、今度は横薙ぎに斧を振った。
思い切り振ると、斧が手からすっぽ抜けそうなほどの遠心力が働く。
これを利用して――ぐるりと一回転。
ブオン!
遠心力を味方につけ、さらに力強い一撃が繰り出せた。
「それじゃ! それが斧の利点よ!」
――遠心力。
「その通り。遠心力を伴った一撃は、偏った重心や先端のみの刃先も利点に変える。
うまく扱うことができれば鉄潰鎚のごとく重く、長重剣以上の鋭い一撃を繰り出せるじゃろう」
なるほど。武器ごとに適した使い方というものがあるのか……
「では、基本的な斧の振い方を教えよう」
ダンウォードは己の槍を斧に見立て、振るってみせる。
「まずは上段から下段への“振り下ろし”。だがさっきも言うた通り、この動きは隙が大きい。敵が地面に倒れた時、背後から奇襲する時など、相手が回避不能に陥った場合にのみ使え」
次にダンウォードは槍を引き、正面へ突いた。
「正面への“突き”。だがお前の斧の形状では、突いたとしても相手へのダメージは低い。なので――」
ダンウォードは槍を引き、タックルをするような体勢で数歩駆ける。
「“突進”。その斧は重量があるゆえ壁に追いやれば敵を押し潰すこともできよう。
ただ突くだけでは重心の関係から振り下ろし同様に隙が生まれやすい。が、突進ならば回避も同時に行なえるゆえ、反撃される隙が生まれにくい」
最後に、ダンウォードはこちらに背中を向けた。
「そして斧の要となる動きは……中段へ振り抜く“薙ぎ”!」
直後、ダンウォードは反転して槍を振り、俺の胴の手前でピタリと止めた。
「常に遠心力を味方につけよ。体ごと回転し、左上から右下への袈裟斬り、左下から右上の斬り上げ、真横への振り抜きなど、さまざまな角度から相手を狙え。
決して動きを止めるな。止まれば遠心力も死ぬ。常に斧を振り回し次のモーションへ繋げよ。なれば鈍重な斧でも相手が取りつく隙は生まれぬ」
なるほどな。だが……体ごと回転?
じゃあなにか? ずっとクルクル回りながら戦えってのか?
敵を倒す前に俺が目を回してぶっ倒れるのがオチだと思うが。
「……おい、何をしておる?」
――何を、って……
「聞くだけで技が体得できると思うてか!? まずは回転! 回れ! どのような体勢でも遠心力を活かす方法を体に覚えさせい!!」
――目を回すのがオチだと思うが?
「だから鍛錬せいと言うておる! 慣れろ! 慣れるまで回らんかボケ!」
脳筋特有の体育会系パワハラだな。クソうぜえ……
「さっさとせんかクソガキが! はよせんとブチ殺すぞ!?」
……ちっ
俺はいら立ちを抑えつつ、しぶしぶ斧を持ってぐるぐる回る。
「ボケが! もっと腰を落として重心を固定せんかボケ! なめとんのか貴様!!」
あー……マジウゼエ……
そして早くも気持ちわりい。この斧ブン投げてあのジジイにブチ当ててえ……
しかし元の世界への帰還もかかっている以上、こいつらの指示には一応従わなきゃならん。
ムカつきとストレスを我慢しつつ、俺は回転しながら斧を振り続けた。
……なんかシュールだな。何やってんだ俺は。
「おい……転生者」
陰気なイルフォンスの声。クソ、何の用だよ。




