12章-(1)追放ヒーラーの復讐
「パーティーから抜けろ、ムラマサ」
リーダーであるオリヴァーからの冷たい宣告に、ムラマサ――藤江邑當は愕然とした。
「どういうことだよ……! 俺はこの勇者パーティーでかなりの実績を上げてきたはずだ! なんで……俺がクビにならなきゃいけないんだ!!」
魔王討伐を目的とする傭兵部隊は属に“勇者パーティー”と呼ばれる。数多く存在する勇者パーティー達の中でも、オリヴァー率いるパーティーは近年頭角を現しつつある注目の部隊だ。
これから名を上げていこうという時に、「パーティーを抜けろ」と言い渡されれば、誰だってうろたえてしまうだろう。
「わからないのか? ムラマサ?」
「ああわからないね! 納得のできる理由を言ってもらおうか!?」
ふう、とオリヴァーはため息を吐き、幅の広いガッシリした肩を上下させ、口を開く。
「……もう限界だ。パーティーにとってお荷物なんだよ、お前」
「オリヴァー!」
その時、ムラマサはオリヴァーの影に隠れるように立つ少女、ミレノアを見た。
褐色の肌に紫がかった神秘的な銀髪……一度見ただけで人を惹きつける彼女の容姿に、ムラマサはひそかに恋心を抱いていた。
そうか。ムラマサは理解した。彼女との間を分かつように立ちはだかるオリヴァー。
この男、俺からミレノアを引き離すために……!
「言っておくが、これはパーティー全員で決めたことだ。ギルドにもすでに連絡してある。何をどうあがいても、お前の除名は覆えらん」
ムラマサは他のパーティーメンバーを見る。アタッカーである二刀流の使い手の女性、ジーナ。魔法傀儡を操るテイマーの少女リイン。そしてサポーターのミレノア……彼女達全員が目を伏せ、ムラマサの目を見ようともしない。
……そうだ。タンクである大剣持ちのオリヴァーとムラマサ以外、このパーティーは全員女性。
ここでムラマサが去れば、まさにオリヴァーにとってはハーレム状態ということになるわけだ。
想像したムラマサの胸に、どす黒い感情が渦巻いた。
「そうか……そういう事か、オリヴァー……!」
「お前の考えていることは分かる。ゲスの勘ぐりというやつだ……そこの川で頭でも冷やしていろ」
4人はムラマサを残し、背を向けて立ち去ろうとする。
「待てよ……! 本当にお前らは満足してるのか!? オリヴァーの奴の決定に!?」
ジーナ、リインは振り返らず。
ミレノアだけが一度だけムラマサを見て――やがて思いを振り切るように背中を向けた。
「未練がましい奴だな。俺が彼女達に強制したとでも思っていたのか?」
「お前が吹き込んだんだろオリヴァー? あること無いこと、俺のことを彼女たちに!」
「もう一度言う。頭を冷やせ、ムラマサ」
「くっ……!」
あの野郎。許せねえ、許せねえ!!
4人の姿が見なくなった後も、ムラマサはその場で一人立ち尽くす。
裏切られた怒り、ミレノアへの想い。己を貶めた憎しみ――あらゆる感情が濁流の如くなだれ込む。
やがてそれらの感情は濃縮し、一点の黒となり、ムラマサの胸にその一滴がしたたり落ちた。
――復讐だ。
一滴の黒い感情が、1つの答えを導き出した。
このままじゃ済まさない。思い知らせてやる。奴ら全員に、俺の力を……!
無意識に暗い笑みが満面に浮かぶ。
どうしてやろう。どうやって破滅させてやろうか。
その時、ムラマサの目が側に立てられた人相書きの看板に止まる。
男女二人の絵と特徴についての文言が焼き印された看板。
書かれている内容を読み、ムラマサの口角が吊り上がった。
「ナイトオブナインズ……か」




