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転生者殺しの第九騎士〈ナイトオブナイン〉  作者: アガラちゃん
十一章「邂逅。宵闇の果てに」
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11章-(9)ミズリスという組織

――転生者の組織……元の世界へ帰るための……?


 俺が(たず)ねると、シヅキ――阿久部志樹(あくべしづき)(うなづ)いてみせた。


「ああ。君以外にも元の世界へ帰りたいと願う転生者は少なくない……大多数とも言えないがね。だから厄介なんだ。

この世界の者達は自分たちの意のままにならない転生者を異常に危険視する。チート能力を持っていようと、数や(から)め手で四六時中何度も襲われればたまったものじゃない。挙げ句敵側から刺客として転生者を送り込まれることもある……

 だからこそ自分たちの身を守るために組織が必要となった。この歪んだ世界から自分たちの家へ帰宅するための組織、“ザ・キタクブズ”をね」


 なるほどな……ん?


「どうした? ソウジ君?」


 ――いや……組織名、もっかい言ってくれるか?


「“ザ・キタクブズ”」


 …………んん??


「組織名が気になるのか? 帰宅部……つまり、部活をせず授業が終わり次第家へ直帰する者達。一刻も早く家へ帰りたいという願いは我々の思いと共通すると考え、この名を付けてみたが……やはり少しひねりすぎたかな?」


 いやいや。いやいやいやいや。


「ではこんなのはどうかな? “タンポポの会”」


 ――では、ってどういう事だよ? 名前決まってないのか? てか可愛いな名前。


「風に舞うタンポポの綿毛のように、一斉に異世界から離脱する様子をイメージしてみた」


 ――いや、マズいだろ。タンポポの綿毛みたいにバラバラに散りそうだぞ、お前の組織。


「言われてみればそうか……では他の案は……帰還……帰る……家に帰るまでが遠足……! そうか、異世界召喚を遠足になぞらえてみてはどうだろう? では組織名は“おやつは500円まで”で決まりだ……!」

 

 ――なんで500円!?


「遠足の醍醐味はみんなで買ったおやつをシェアすることだろう? だが僕の小学校では200円までと渋すぎてね……上限が500円ならみんな幸せになれただろうに……だから500円だ」


 ――うん、すまん。俺のツッコミ所もズレてたかもしれん。さっきからわざとか? その組織名?


「……大真面目に言ってるよ。残念ながら」


 鋼線(こうせん)の少女が、大きなため息を吐く。


「シヅキの長所は“能力”だけじゃない。頭もいいしリーダーシップもあって、おまけに背が高くて顔も好みだし声もイケボなのに……なのに……センスだけが絶望的にないのよ……」


 ――なるほどな。確かに目の前のシヅキという男はイケメンだ。イルフォンスに並ぶ美形だが……天は二物(にぶつ)を与えないということか。もしかしてマジでいるのか? 神様?


「む……よくわからないが、また僕の発言がズレていたのかアオイ? よくわからないが謝ろう、すまない」


「……ま、こういうちょっとズレてる部分もカワイイんだけど」


 前言撤回。神などいない。


「……というより、もう組織名は決まったでしょ? 忘れたの?」

 

 鋼線の少女――アオイが呆れたように言った。


My Life(私の人生は)My Self(私のもの)……M’sLS(ミズリス)。わたしの提案したこの名前が全会一致で決まったはずだけど?」


「そういえばそうだったか? ……僕の案の“ザ・キタクブズ”が全会一致で完全否定されたあたりから記憶が曖昧(あいまい)だが、ショックすぎて記憶が薄れているのかもしれないな……」


 ――おい大丈夫かこいつ?


「大丈夫よ……あんたなんかに言われるまでもなく……たぶん」

 

 アオイ……当山逢生(とうやまあおい)は自信なさげにそういった。なんか大変だな。なんか。


 アホなやりとりを見たせいで戦いの熱も冷め、俺は無意識に大きくため息を吐いた。


 するとすかさずシヅキが空中で指を走らせ、俺の“ステータス”とやらを観察しだした。


「……レベルがまた緩やかに下降している。非戦闘時には元のレベルに戻るということか。戦闘時の僕にすら開示できなかった謎のクラスや、レベルが80以上に引き上がったにもかかわらず、スキルがゼロというのも気になる……興味深いな」


 俺のステータスとやらが表示されているのだろうか? 斜め上辺りの空を楽しげに眺めるシヅキ。


 彼の目が、俺と同じく唖然(あぜん)とするアオイへ向いた。


「ちなみにアオイ、君は自分のレベルについて気づいていたか?」


「わたしのレベル? 一体何の話……?」


 アオイは怪訝(けげん)そうに(まゆ)を寄せ、自分のステータスをオープンさせる。


 すると――驚愕に目を見開いた。


「レベル……85!? な、なんで……!?」


「戦闘時にレベルが急上昇する特異体質に加え、敵対する者の心を砕き、一時的に相手のレベルを急落させる……悪辣(あくらつ)だな。これが君達の対転生者用の戦術か?」


 シヅキは俺ではなく、背後で腕を組み(あや)しく笑うラスティナを見た。

 

「そんな所だ。我々には対転生者戦のスペシャリストがいるからな」


 スペシャリスト……? 誰のことだ?


「ちゃんとマーリカの言うことを聞いているか? ソウジ? 彼女は鬼神の(ごと)き強さと羅刹(らせつ)の如き悪行により、一時期この大陸中を震え上がらせた大盗賊だ。

 この世界において、異世界人が正面から万全の状態の転生者を相手に勝負を挑み、勝利を収めたのは彼女の他に数人しかいない……故に彼女はナイト“5”。その役割は、対転生者戦を想定した精鋭部隊の部隊長だ。隊員1号のお前はきちんと指示に従っておけ」


『うわ~……なんかラースに()められてるんですけど……気持ち悪……』


 通信ピアスからマーリカ本人のドン引きコメントが返ってきた。つうか、早く寝ろ。


「なるほど。この戦術はその部隊長からの指南(しなん)というわけか……しかしなぜ彼に魔剣を? あれの危険性を知らない貴女ではないはずだが?」


「“伯爵”の精神操作への対抗措置だ。封印は万全ではない上、奴の力は未だに未知数だからな……その上で伯爵が励起(れいき)する“赫怒(かくど)”の感情は魔剣に還元(かんげん)することで大幅な戦力向上に繋がる。半端な召還のせいで半端な能力しか得られなかったソウジのため、一生懸命履かせた下駄(げた)というわけだ」


「……精神操作への対抗……乱暴な措置だな。火災を消火するために爆薬を用いるようなものだ。まともなやり方ではない……」


「それはすまないな。まともな組織ではない(ゆえ)、まともな手段を用いる余裕などなかったのさ」


 シヅキとラスティナは俺を置いて二人で話し込んでいる。内容からして俺に関する話のようだが……当人を無視して目の前で話し込まれると、だんだん嫌な気分になってくる。


 先ほど襲われた理由も結局不明のままだ。俺はいらだちを極力抑えつつ、問いただした。


 ――で? 結局なんで俺は殺されかけたんだ?


「……殺すつもりはなかったさ」


 シヅキの言葉に、俺は「は?」といらだちを隠さずに答えた。


「アオイを差し向けたのは、単純に君の力を試すつもりだった。君達“ナインズ”と組むことでの旨味(うまみ)を教えてやる……とラスティナさんに言われたこともあってね。

 先に君のレベルを確認させてもらい、怪我を負わない程度に追い詰めるよう、僕はアオイに伝えた」


 シヅキが、ゆっくりとアオイへ視線を向ける。


「……ラスティナさん本人が『問題ない』と言っていたからあえて手は出さなかったが……どういうつもりだアオイ? 僕が見る限り、君はレベル17の彼に全力で殺しにかかっていたように見えたぞ?」


「…………シヅキ」


「どういうつもりだったんだ……アオイ?」


 言葉は静かに。しかし言外(げんがい)に明確な威圧感を発するシヅキ。


 アオイはプレッシャーに耐えかねたように、やや早口で反発する。


「その男は“七罰”だから! 危険だと思ったの……あの女と同じだから!」


 あの女……?


「戦って分かった! この男も頭のおかしい危険人物だってことが! こんな奴と組んだら、また前みたいな犠牲者が……!」


 シヅキは、目を閉じ、ゆっくりと首を左右に振る。


「やめろ」


「でもシヅキ!」


「客人の前でその話はやめるんだ……それに彼なら大丈夫だ。彼は他の“七罰”達とは違う。戦闘の前後で自分の感情を努めて抑え込もうとしている、極力冷静であろうとする姿勢が見えた。

七罰に対抗できるのは同じ七罰しかいない……奴らの中で、手を組めるのは彼しかいない」


――何の話だよ? “七罰”に抵抗? 元の世界に帰るのが目的じゃなかったのかよ? それに“あの女”ってのは一体……


シヅキが、大きく肩を落としてため息。そして再び口を開く。


「確かに僕達の最終目的は元の世界へ帰ること。だが知っているだろう? この世界の連中を放っておけば帰るどころの話じゃない。だからこの世界の連中が僕達の世界へ干渉(かんしょう)できなくなるよう、ある程度の打撃を与えなければならない。

 けれどそれは簡単にはいかない。なぜならこの世界側についている“七罰(しちばつ)”も相手にしなければならないからだ」


 ――この世界側についている七罰……?


 俺がこれまで接触した七罰は3人。リントとレン……そしてキョウコ。

だが三人とも、この異世界の侵略者側として動いてはいなかった。俺が会っていない残り3人の“七罰”のことだろうか……


「シヅキはこの男と戦ってないからそう言えるのよ! この男は……わたしを本気で殺そうとしていた!」


「先に殺そうとしていたのは君だろう? アオイ」


「ううん、違うの! この男は(たの)しんでいた! 人を、殺すことを……!」


「……だとしてもだ。それでもだいぶマシだ。感情を抑え込めるだけ、彼とは協力できる余地(よち)がある……彼はあの女とは違う」


 ――さっきからなんだよ? その、あの女ってのは?


 俺が尋ねると、シヅキとアオイの二人が動きを止める。


 何か、二人の――彼らの組織に関わる、重大な一言を発してしまったかのように」


「……ソウジ君、彼女は――」


「あの女だけは許せない……!!」


 抑えきれぬほどの憎しみの感情を発露(はつろ)させながら、アオイが口を開いた。


「あいつのせいで14人の仲間が犠牲になった……“七罰”は全員異常者。断言するよシヅキ! この男と協力したら、また仲間が犠牲になる……!!」


 ――落ち着けよ。こっちは状況がわからねえんだ。だから、あの女ってのは誰なんだよ?


「……恐らくソウジ君、君は会ったことがあるはずだよ。あの女は誰彼(だれかれ)見境(みさかい)無く仲間に引き入れたがるからね」


 シヅキは一旦心を落ち着かせるように両目を閉じ、そして開く。


九浦敷梗子(くらしききょうこ)。半年前、我々を(あざむ)き組織を空中分解寸前にまで追い詰めた張本人だ」


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