10章-(12)巨大ロボとの死闘
ロボット兵達を片付け、いくつかのトラップをくぐり抜け、俺はついに扉の最奥部へとたどり着いた。
正面には、3メートル近い高さの巨大なロボットのようなものが膝を折った姿勢で鎮座していた。
石像のようなオブジェだろうか?
そう思ったのもつかの間、突如として巨大ロボットの3つのセンサーに光が点灯。
同時に、ゆっくりと巨大ロボットが動き、5メートル近い威容を見せつけるように立ち上がった!
……やっぱこうなるか。
もはや諦めに近い心境で、俺は両手に握った斧を構え直す。
チ、チチチ、チチチチチ……
何か演算でもしているかのような音を立てながら、5メートルの巨大ロボが構えを取った。
重厚な左腕を上げ、左の手の平をこちらに向けて己の首元を隠す。
……首元を防御する構え。こいつも他のロボット連中と同じく、首に頭脳となる虫がいるのだろう。
しかし。
こいつのこの分厚い装甲に覆われた腕……見覚えがある。
そうだ。思い出した。
あいつの――マオが使っていたあの巨大な手甲……!
奴もナノマシンでできた金属球をもっていた。手に入れた経緯は不明だが、あいつが持っていた球はここのロボット共と同じ技術で作られたものなのだろう。
左手で首元を守り、右腕をだらりと下げたまま微動だにしないロボット。
さて、どこから攻めたものか。そう思っていると。
バシュン。バシュン。
釘打ち機のような音と共に、ロボットの背中から何かが勢いよく飛び出した。
薄暗い室内。明るいオレンジ色の光が、飛び出した物を下から照らす。
空中で飛び交う、無数の漏斗状の物体――まさかこれは、あのロボアニメでおなじみのビット、とかいうやつじゃ――
唖然とする俺の前で、7つのビットのような物体が一斉に漏斗の先端を俺に向ける!
まずい!!
即座に反転、回避!
一瞬遅れ、背後の地面が無数のレーザー光によって弾け飛んだ!!
……ちっ。マジであのビットみてえだな。
ぐるぐると頭上を不規則な動きで飛び交う無数のビット。
まずはアレを叩くのが先か……!!
雨のように降り注ぐレーザー光をかいくぐりながら、俺はビット攻撃を攻略する手段を練る。
レーザー光による攻撃速度は俺が認識するよりも速い。レーザーが放たれるより速く時間停止魔法を使うことなど不可能。
であれば……ビットの動きを見切り、残らず叩き潰す他はない!
まずは防御。
回避に専念しつつ、ランダムに飛び交うビットの動きを見る。
一つ一つの“点”の動きではなく、“面”としてとらえ、全体の動きの“波”を見極める……!
――そこだ!!
俺は〈時間加速〉の魔法を使い、一瞬で7つのビットの頭上へと移動!
間髪入れずに斧のロックを外し、鎖に繋がれた刃を飛ばす!
柄を操作し、刃を素早く3度振り回す。するとビットは刃の進路に吸い寄せられるように切り刻まれた。縦に3つ、横に2つ、左斜めに3つ――ほぼ一列に並ぶように、滑稽に。
……ビットがわざと斬られたわけじゃない。俺がランダムと思えたビットの攻撃を先読みした。結果、最小の工数で最大の結果を得られのだ。
空中で刃を戻し、地面に降りる。
時間加速の反動で体力をごっそり取られ、ゼイゼイと息が大きく乱れた。
その瞬間。
ドゴォッ!!
地面に降り立った隙を見計らい、あの巨大ロボが容赦なく前蹴りを放ったのだ!
――ぐうっっ!!
とっさに斧を盾に防御したが――重量の違いにより、俺は後方へとぶっ飛ばされた!!
――がふっっ!!
背後に壁に背中をしたたかに打ち付け、肺の中の空気が一瞬にして全て口から吐き出された!
遅れて後頭部が壁に打ち付けられ、出血。
生暖かい感触が広がり、右目に血の筋が入り込む。
……これでもダメージは抑えられたほうだ。シュルツさんからもらったマフラーが役に立った。頭が激突する寸前、ブニュリとした弾力を感じた。マフラーが斥力を発生させ、頭部を守ってくれたのだろう。
マフラーがなければ、勢いのままに頭部が完全にカチ割られていたかもしれない……
チチチチチ。チチチチチチチチ。
勝ち誇ったような演算音と共に、首元を守りながら巨大ロボが俺へと突進してくる。
だが俺は――恐ろしい勢いで迫り来る巨躯のロボットではなく、足下に転がるものへ視線を注ぐ。
壁に激突した衝撃で、頭上から落ちた壁の欠片。かつん、かつん、と地面を跳ねて、あのロボットの足下へと転がる。
これだ……!
俺は親指を真下に向け、術を発動――〈時減爆弾〉を!
しかし。とっさに焦る気持ちで使った魔法は、俺の想像とは異なる作用を見せた。
ガゴン!!
巨大ロボのブ厚い装甲に覆われた足に、時間魔法を掛けた石ころがぶつかる。しかし、想像していたような爆発は起こらない……不発!? まずい……!!
だが。
最悪の結果に身構えたその時、予想外の結果が起こる。
ぐらり。
巨大ロボが、時間魔法を与えた石ころに躓き、ゆっくりと倒れ込んだのだ。
よく見ると、爆発こそしなかったが、足の装甲を抉るほどの威力は与えていたようだ。(ちなみにこの話を聞いたマーリカは、後にこの術を〈撒微止〉と名付けた)
この好機――逃す訳にはいかない!!
強烈な足払いを食らい、姿勢を崩す巨大ロボ。
左手の首元を守るブロックは――完全に崩れている!
俺はそれを見逃さず、瞬時に地面を滑るように疾走。巨大ロボの足下まで移動し、一気に垂直に跳躍!!
がら空きの首元へ――渾身の斧の一撃を放つ!!
バギャアアッ!!
分厚い装甲を力で強引にはぎ取るように、斧で巨大ロボの首を抉るように刎ね飛ばす!!
その時。
部品やらコード類やらが飛び散る合間に、見えた。ロボット達のコア――銀色の虫。
俺は斧の石突き部分を虫にあてがい、落下と同時に押し潰し、石突きで虫を貫いた!
ギギ、と虫は一瞬痛みを感じるように身じろぎをし、それきりぱったりと動かなくなった。
同時に巨大ロボの残骸は風の前に散る灰のように、ばらばらと微塵に散っていく。
勝った……
だが、くそ……満身創痍だな、まったく。
ズキズキと痛む背中や頭をさすりながら立ち上がると……
――またこいつか。
ロボットの残骸から、またも一枚のカード。
二匹の犬とザリガニ、空に浮かぶ女性の横顔を映す月……MOONのタロットカードであった。




