2章-(1)明けない夜
目が覚めたのはつい今しがただ。
かすかに光を感じる。
堅いベッドの感触。
誰かが、部屋のドアを開ける音。
……俺は、とっさにベッドから跳ね起きた。
「ひゃあっ!?」
悲鳴。女の悲鳴。
背後を見る。カーテンの隙間から漏れる薄暗い日光。
ドアの前で尻餅をついているのは……見知らぬメイド服姿の少女だった。
暗い室内で目をこらす。
少女の頭に角が生えているのを見つけた。2本の角に、水平に伸びた耳……なんとなく、彼女の姿から羊を連想した……あの翼の女性のようなファンタジーな姿をしている。
「あ、あの、すみませんわたし、全然起こすつもりじゃ……!」
――クソが……!
「ひっ!!」
この状況。目が覚めても悪夢はそのままって事か。
昨日の出来事を思い出す。マーリカ、シュルツ、ラスティナ……“ナインズ”!
クソッタレが。下らん小芝居に乗せられたあげくしまいには恫喝されて連中のお仲間だ。
……そのせいで人が一人、死んだ。オグン。
あれが全部芝居だとすれば、あのオグンは全て承知した上で俺に殺されたってことか?
ふざけやがって。死にたいならテメエ一人で死ね。わざわざ人様の手を汚させるとは本当にあの連中は……
……いや、人が死んでいるのにこうした考えを持つのはおかしいのか?
まあ、もう済んでしまったことだ。終わったことをこれ以上考えてもしかたない。そもそもよく知らん奴だったしな。
ため息を一つ吐くと、傍らで震えるメイドの姿が目に入った。
あ、まずい。
「も、申し訳ありませんでしたーっ!!」
俺が声を掛ける間もなくメイドは全力疾走で部屋から出て行った。
……彼女に悪態をついたわけじゃないんだが、完全に誤解させたな……
これも過ぎたことだ。また会った時に謝ればいい。
それよりも……
静まりかえった室内。
あの城にあった部屋の一つだ。曇った窓ガラスに汚れたカーテン、ホコリと蜘蛛の巣だらけのテーブルと椅子。ベッド。部屋にあるのはこれだけだ。客室とも言えない仮眠用の部屋か何かだったのだろう。
廊下の方に目を向ける。日光がわずかに届く石造りの暗い廊下。
周囲に人はいないようだ。
……ならば、逃げ出すチャンスか……?
そんな俺の考えを読んだように廊下から足音。
ガチリ、ガチリと重く鎧を鳴らす足音……あいつか。クソ。
「フフン、起きたか小僧? ユウムの奴が泣いてたが、お前なんかしたのか?」
ダンウォード。普段から鎧甲冑着てるとかどんな趣味だ。
というか、泣いてたって……さっきのメイドの事か? 泣いてたのか……
「まあよい。起きたならばワシに付いて来い」
――どこに連れて行く気だ……?
俺が尋ねるとダンウォードが振り返り、ニヤリと笑う。
「お前の相棒の所よ」




