10章-(10)謎多きロボット
BLAAAAAAAAMM!!
静謐な遺跡内が突如、数十のフルオート射撃による瀑布の如き轟音に満たされる。
伏せろと言ったものの、この状況で回避するなど不可能。
ならば……!
俺は服の下から黒い懐中時計を取り出し、魔法を発動!
時間停止! 銃弾を……全て止める!!
足下に蒼い魔方陣が展開。
それと同時に、殺到する凄まじい量の銃弾が、弾幕が、音もなく空中で停止する……
「わーお、これって確か、アンタ達の世界の“銃”だったわよね? 爆発する粉を使って金属のつぶてをぶつけるんだっけ? 確かにまともに当たったらタダじゃ済まなそうね」
戦闘中だというのに、やけにのんきなことをほざくマーリカ。
――言ってる場合か!? 手え貸せよ! いつまでも停止できねえんだよこっちは!!
時間停止発動後もロボット達は発砲しつづけ、空中に留まる弾丸によって目の前がほぼ埋め尽くされているような状態だ。
そして俺はあまり魔法の扱いがうまくない。このまま広範囲の時を止め続けるのは……流石にしんどい……!
「ほいほい。んじゃまあ――〈凝結凍壁〉」
マーリカが唱えると、俺の目の前に灰色に濁る超過冷結氷の盾が現れる。
同時に時止めの魔法を解除。ガガガガン!! と氷に弾丸がたたき込まれる凄まじい音が轟くが――目の前の氷の盾はヒビ一つ入らず、厳めしくその場に鎮座する。
本当にすげえ硬度だな、この魔法。
「んで同時に、〈千本氷槍〉」
マーリカの足下に紺色の魔方陣が展開。すると即座に、彼女の得意技である氷の槍が大量に現れ、ロボット達を容赦なく貫く。
バチバチ、と断末魔代わりのスパークを弾けさせ、正面の10近いロボット達がスクラップと化した。
だが先ほどの攻撃ではロボット達を全滅させられなかったようだ。攻撃を逃れた約20体のロボット達が、俺達の左右へ回り込もうとしている。
マーリカは――そんなロボット達の動きもすでに予測していた。
「正面を叩けば左右にバラけるのは当たり前。でもさっきみたいな密集形態はとれないから、金属つぶての弾幕は張れない――ここで叩くわよ、ソウジ」
――そういうことか。了解。
「“機先”、わかってるわよね?」
――わかっている!
正面の氷の盾から、俺は右、マーリカは左へ向かい、二手に分かれたロボット達の掃討に入る。
ロボット達の隊列は乱れているが、それでもそこは機械。俺に気づいた瞬間、慌てず恐れもせず冷静に両腕の変形ライフルからフルオート射撃。
俺は銃口がこちらに向いた瞬間、姿勢をできるだけ低くし、なおかつ直進する!
銃に狙われた時、身を守るのに最適な場所は三つ。一つは射程外。二つ目は遮蔽物の奥。そして三つ目は――敵の足下だ。
射手にとって、己の足下は撃ちにくい場所だ。動かない的であれば問題はないが、足下を俊敏に動く相手だと厄介きわまりない。打ち損じれば――跳弾や地面の破片によって自分にもダメージが及ぶからだ。
……このロボット達の場合、跳弾などのダメージは無視して構わず攻撃するだろう。だが、ロボットの設計者はそうでもなかったらしい。
足下への誤射を防ぐため、銃口が下へ向かないように調整されているようだ。
飛び退き、距離を取ろうとするロボット達。
――だが遅い!!
斧を一閃。ロボットの一体を股下から頭に掛けて切り上げた。
シキン!
俺が立ち上がったことで、残ったロボット達が銃口を向ける。
……だが遅い。
ロボット達のフルオート射撃を、俺は上に跳んで回避した。
6メートル近い天井近くまで一気に跳べたのは、あらかじめ斧の刃を天井に刺していたから。
先ほどの切り上げと同時に、斧の刃を分離。刃先を天井に突き刺しておいたのだ。
斧の巻き取り機構の力を利用し、一気に天井まで跳び――反転。
天井を蹴り、一気に降下!
銃口をこちらに向けるより速く、ロボットの一体を斧で叩き潰した!
残ったロボット達が動く。
だが遅い。遅い。遅い。
……動きがすべて手にとるようにわかる。
敵集団を個々として捉えるな。動きはすべて単調な“波”。波に合わせて動き、待ち、叩く――!!
機械達の動きはあのゾンビ達よりも俊敏だ。しかし一切の無駄のないその効率的な動きが、逆に“波”の動きを際立たせる。
射線をかいくぐり、弾丸が発射される前に近づき、斬る。
5度ほど繰り返した後、10近いロボット達をすべて片付けることができた。
マーリカの方を振り返る。
彼女の方も、ロボット達を全滅させられたようだ。
マーリカがこちらへ向き、驚いたような顔を見せる。
「ソウジ……!」
――そんなに驚くことじゃねえだろ? 俺も多少は――
「避けなさい!!」
マーリカに言われ、俺は背後の気配に気づく。
ロボットの一体が、俺に向かって銃口を向けていた!
――チイっ!!
素早く回避し、間一髪で敵のフルオート射撃から逃れる!
俺は横へ跳びながら、返す刀で斧の刃を分離。生き残りの一体を両断した。
……敵を見逃していた? いや、そんなはずはない。全員完全に斬り捨てたはず。一体こいつらは……?
そう考えていると、足下にいたそれに気づく。
艶のある、拳大の銀色の羽虫のようなもの。
なんだこいつ?
そう思っていると――その羽虫の周りに、クロム色をした液体がどこからともなく集まりだし、徐々にあのロボットの形状を取り始めた!
これは……!?
クロム色の液体の出所を見る。それは先ほど倒した、ロボット達の残骸からだ。
そして先ほどの残骸も、俺に斬られた傷がみるみるうちに埋まり、何事もなかったかのように復活してみせた。
これは……もしかして、ナノマシン、ってやつか……?
だとすると――あの羽虫みたいなのが核……連中の頭脳のようなものか……!
「フー……さっき氷で串刺しにした連中も何体か復活しちゃったか……ソウジも見た? あの虫みたいなやつ」
――ああ。おそらくアレを潰せばこいつらは復活しない。
「さっき見たけど、あの虫はあの人形共の首の付け根にいるみたい。そこ狙って生きましょうか」
――第二ラウンドか。
「もうへばっちゃった? アンタもセイたちと休んでれば?」
――冗談いうな。
背中合わせで俺達は一瞬笑い、復活したロボット連中を再び掃討した。
首の根元を切りとばし、はい出た虫を叩き潰す。
虫を潰すとロボット達の体はチリのように崩れ、空気中へバラバラに散っていった。
……今の一体でラスト。手こずらせてくれたな。まったく。
「よしよし上出来。ちょっとは成長したんじゃ――」
満足げに笑むマーリカの鼻先を、光の筋が一瞬駆け抜ける。
シュウシュウと直線上に焦げる地面。
笑顔のまま青ざめるマーリカ。
光の発せられた方向を見ると――“これが先ほどのビーム兵器でござい”といった感じ全開の、ゴツいランチャーを構えた新手のロボット達がこちらへ近づいているのが見えた。
「……セイたちと休んでもいい?」
――冗談いうなよ。
俺達はうんざりとした顔を見合わせ、地獄のような第三ラウンドを繰り広げた。
その後新手は現れず、ようやく安堵し体を休めていると――マーリカがロボット達の残骸からあるものを見つけ出す。
またもタロットカード。今度は“judgement”のカードだった。




