表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生者殺しの第九騎士〈ナイトオブナイン〉  作者: アガラちゃん
九章「巣喰い亡き者ども」
110/237

9章-(12)マオが動く

「…………」


 無言、そして冷たい表情のまま、巨人の腕のような銀灰色(ぎんかいしょく)の機械手甲を振り下ろす。


 とっさに斧を振りガードするが……


 ――ぐっ!!


 重い! 破城槌(はじょうつい)で突かれたような弩級(どきゅう)の質量が全身を貫く!!


 ガードした斧ごと1メートル近く吹っ飛ばされた。こちらの斧以上の質量。まともにガードするのは悪手(あくしゅ)か……!?


「ふっ」


 気軽な呼気とともにマオは一回転し、機械手甲による強烈なフックを繰り出す。


 俺は先ほどの衝撃でジンジンと(しび)れる両手で斧を握りしめ、奴の攻撃を紙一重で回避!


 しかしマオは左脚を踏みしめ、さらに回転。遠心力を上乗せし威力・速度を増したフックを再び放った。


 俺はたまらず地面を蹴り後退。奴と2メートル近い距離を取る。


 ――ヒューリックさんの敵討(かたきう)ちのつもりか……?


「……」


 機械手甲の拳が握られ、マオがゆっくりとこちらとの距離を詰める。


 ――あの人の名誉のために言っておくが……あの人は自らけじめをつけた。シャムナさんのために……おそらくこれまでの自分の罪を精算するために……


「…………」


 構わず、マオは無表情で、ゆっくりと近づく。


 ――お前がそうやって感情のままに動くことは、あの人への侮辱にもなる。


 あの人は自ら死を選んだ。だがお前がそうやって動けば……あの人は“可哀想な被害者”になっちまう。自ら過去への贖罪を果たそうとしたあの人の死が、ただ“可哀想なもの”に成り下がる。この意味がお前に分かるか……?


「…………」


 マオは、構わず、機械手甲を構えて近づいてくる。


 俺の発言を何一つ耳に入れていないような表情で……冷えた無の表情で、近づく。


 そして。


「「「GGGRRRRRRRRAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」」」


ヴェルグを(むさぼ)り尽くしたゾンビ達が、今度は俺を標的とし、ほぼ真後ろまで迫っていた。


 俺は……こんな状況だからこそ、逆に鋭く、集中力をさらに(しぼ)る。


機先(きざし)〉を。


 まずは真後ろのゾンビを斬る。おそらく俺の動きに反応してマオも動く。マオの動きをマークしつつ、一旦この場を離れる。防御が7、攻撃は3だ。


 「「「GGRRRRRRRRRAAAAAAHH!!」」」


 よし……今だ。


 俺が行動に移そうとした、その時。


 マオが、一瞬で俺の真後ろへ跳び、ゾンビ達を一撃で吹き飛ばした!


 ――お前……!?


「邪魔」


 機械手甲の一振りで5~6体のゾンビが千切(ちぎ)り飛ばされ。


 機械手甲の振り下ろしで2~3体のゾンビが潰れ散る。


 恐るべき威力。しかし何故……? 


 俺を、助けてくれたのか……?


 だが、呆然とするこちらの意識を感じ取ったかのように、マオは再び俺へ攻撃を仕掛けた。


 遠心力を活かした激烈な裏拳!


 寸前で上体を反らして(かわ)す。鼻先を手甲がかすめ、顔に浴びせられる重い風圧が死の予感を感じさせた。


 俺はそのままバク宙を2、3回繰り返して距離を取り、体勢を整える。


 重武装を越えた過質量武装(かしつりょうぶそう)……! 重さ(ゆえ)に隙が多いと思いきや、取り付く隙も見せやしねえ。


 理由は明確。遠心力だ。


 自ら回転することで生まれた遠心力が、敵を易々(やすやす)と近づけぬほどの速度と威力を与えているのだ。


 しかしこの戦法、どこかで……


 ……ダンウォード?


 いや違う……俺だ!!


 こいつ……さっき俺がゾンビ相手に戦っている姿から、俺の戦法をその場で即座に自分のものにしてみせたのか……!?


 だとすればこいつ、とてつもない戦闘センスを持っているのでは――


「フー……」


 小さくため息を吐き、マオは再び周囲のゾンビ連中を相手にする。


 彼女を一つ回れば血糊(ちのり)が舞い、彼女が二つ回れば血肉が潰れる。


 容赦ない殺戮(さつりく)円舞(ロンド)。否、舞というには荒々し過ぎる。


 あれはもはや嵐、竜巻だ。


 己を中心に暴威(ぼうい)をまき散らす凶悪な竜巻……!


 しかし。


 荒れ狂う暴威をくぐり抜け、一体のゾンビがゆっくりと、彼女へと()い寄っていた。


 彼女は気づいていない。どうやら周囲の状況を完全に把握しきれていないようだ。


 どうやら俺の戦法はマネできても、〈機先(きざし)〉まではマネできないようだ。


 あのまま放っておけば、ゾンビに()まれて奴らのお仲間だ。そうなれば俺にとっての脅威が一つ消える。放置が最も正しい選択なのだろう。


 ……だが。


 俺はマオの攻撃のタイミングに合わせ、()ぶ。


 無防備に背中を見せる彼女の側へ立ち、這い寄るゾンビを斧で叩き潰した。


 ……彼女の意図はわからないが、俺がゾンビ達から彼女に守られたのは事実。


 であれば借りは返す。それが……スジだ。


「……!」


 驚いたのか、一瞬動きを止めるマオ。


 背中合わせに立つ俺と、一瞬目が合った。


 その一瞬で――意思は伝わる。


「フゥウッ!!」


 鋭い呼気と共に、マオが周囲のゾンビ達を手甲の鉤爪(かぎつめ)で斬り裂く。


 俺は頭を下げて彼女の攻撃を避け、同時に斧のロックを解除。


 彼女が頭を下げると同時に斧の刃を飛ばし、数メートル先のゾンビ達を次々に斬り裂く。


 さらに。


 斬り飛ばしたゾンビの肉片のいくつかに時間魔法。時減爆弾(じげんばくだん)を仕掛けた。


 ……“固有抵抗値(こゆうていこうち)”による影響で、動いているゾンビには直接この魔法を与えることはできない。


 時減爆弾を直接与えられるのは、無機物か他人の放つ一部の魔法。またはあのクリッターのような単純極まる生命体のみ。


 ゾンビは通常、時減爆弾の対象とはならないが……肉片になった瞬間、奴らは“爆弾”の素材となる!


 時間を遅らせた肉片に、他のゾンビ達が触れた瞬間――起爆!


 バゴオォォン!!


 複数の重い破裂音が轟音として重なり、激烈な衝撃波が地面に伏せた俺にまで容赦なく叩き付けられる。


 衝撃と残響が遠ざかり、俺はゆっくりと立ち上がる。


 辺りに立ちこめる白煙。煙が風に散ると……もはや動くものは確認できない。


 どうやら、ようやくあのゾンビ達を駆逐(くちく)することができたようだ。


 少しだけ安堵(あんど)した。


 その時。


 巨大な機械手甲の爪が俺の脳天に迫る!


 ――クソッ!


 俺は素早く距離を取り回避。


 冷たく目を細める、マオの視線が俺を(とら)える。


 ――あくまで俺が獲物ってわけか……!


「邪魔なのがいなくなってよかった……じゃ、()ろ?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ