1章-(9)別れ、そして出会う
――おい……
「だーい丈夫だって。あのメガネ、見た目通りめっちゃ強いからさ。あたし達が外に出られたらすぐに敵をまいて逃げるつもりなんでしょ? なら、あたし達がいつまでもここにいたらあのメガネも逃げる機会失っちゃうよ?」
――そう、なのか?
「気遣われるほど弱くないし、むしろあたし達にいられたら邪魔なんじゃない? 特にソウジはまだ戦いもまともにできるとはいえないしね。お荷物はさっさと退散しよ?」
――そうかもな……
薄暗い広間に一人たたずむシュルツさんに一礼し、俺達は城の中庭へ出た。
中庭、といっても木や花は一切見られず、古びた石畳にところどころドス黒いコケが生えている荒廃した景観だ。
ふり仰げば、先ほどまでいた城もまたよく見ると荒れ放題の廃墟のような様子だった。
本当に人が住んでいる居城だったのか? あの城は?
「どこ見てんのよ? 城門はあっちだよ!」
マーリカの指し示す先。
確かに、ある。巨大な金属製の門が。
あそこを出れば。出られれば帰れる。
なぜかそう思えた。門から出ればこんな悪夢のような現実は全てなくなる。
全部夢だった。ベッドの上で目覚めてそう安堵できる。そんな気がしたのだ。
駆け足で門に近づきながら、ふと胸にぶつかる時計を手で持った。
“黒染めの銀時計”。カチリ、カチリと秒針が鳴る。
そう。時間がない。あいつに会える時間はもう残されていない。
くだらない悪夢など見ている時間はない。彼女のもとへ、瑞希のもとへ――。
だが。
門に近づくにつれ、何者かが門のそばにいると気づく。
門に背を預け腕組みをしてたたずむ――女性。
走る足を止め、俺は荒い息を整えながらその女性と対峙する。
長い髪をポニーテールにして結い、細くしなやかな体にタイトなドレスをまとい、しかし肩にはなぜか軍服のような厳めしい上着を羽織る。
その瞳は焔のような峻烈な意思が宿り、だがその唇は艶然と妖しく笑みをたたえていた。
なにか、違う。
今まで会ってきた連中とは異なる。何か……種類の異なる危うさが彼女にあった。
直接死を与える危険な存在ではなく――まるで、後々身の破滅へと導く邪悪さのような――
「待っていたぞ、ソウジ」
女性の艶やかな唇がそう言葉を紡ぐ。
なぜ俺の名前を?
――あなたは一体……?
「私か?」
クク、と微笑を浮かべる女性。
そして語られた彼女の答えに、俺は一瞬思考が停止した。
「私は〈ナイトオブナインズ〉の“1”。ラスティナ・ファン・ドーンリウ」
な……
なんだと……?
ナイトオブ……ということは……!?
俺の考えがまとまるよりも先に、何かが足首に絡みつく。
ぐん! と背後から強い力で引っ張られ俺は顔から地面へと倒れた。
痛みに耐えながら背後を見る……すると、ムチを俺の足に絡みつけ満面の笑みを浮かべるマーリカがいた。
――お前、お前一体なんのマネ……!?
言いかけて、俺は思わず目をみはった。
マーリカの背後から、ぞろぞろと5人の人影が現れたからだ。




