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転生者殺しの第九騎士〈ナイトオブナイン〉  作者: アガラちゃん
九章「巣喰い亡き者ども」
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9章-(9)ヒューリックの過去

「ヒュール!!」 


 シャムナさんがすかさず(かたわ)らへ降り立ち、ヒューリックの上体(じょうたい)を抱き上げる。


 彼は苦しげな顔で荒い呼吸を繰り返し、(ひたい)やこめかみに大量の脂汗(あぶらあせ)を浮かび上がらせていた。


「傷が開いたか? 無茶するなよヒューリック」


 くくく、とヴェルグが嘲笑しながら二人の(そば)へ降りた。


「貴、っっ様あ……!!」


「もう隠しても仕方ねえだろうよ? 隊を裏切ったあげく、善人ヅラして村の連中側に逃げ込みやがって……当然の(むく)いだ。そうだろ? ああ?」


 隊を裏切った……? 


 ヴェルグが異端狩りの兵だったとすれば、ヒューリックさんも……?


 俺の思考はしかし、新たな気配によって一時中断する。


「……あーあ、ゾンビ達まで引き連れてきちゃったか……OK、向こうの連中はあたしが相手をする。ソウジには前方のゾンビ共と、こんな時まで仲間割れしてるアホ共の世話を任せるから」


 言い残し、マーリカはヒューリックさん達を追ってきたゾンビ達を迎撃(げいげき)するべく、素早く行動に移した。


 俺は徐々に迫り来る前方のゾンビ達を見据えながら、背後のヒューリックさんとヴェルグのやりとりに耳を傾ける。


「なに……? 二人とも、一体なんの話を……?」


「何でもない……! シャムナ、君には関係のない――」


「関係なくはねえだろ? この村をゾンビ共に滅ぼさせるための大事なキーマン様だったんだぜ?」


「……滅ぼす? 私が……?」


「やめろおッッ!!」


「そのザマで秘密を墓場まで持って行くつもりか? もう隠し続ける事は無理なんだよ……じきにくたばるお前さんと違い、生きてる奴には真実を知る権利がある」


 くくく、とヴェルグは暗く笑い、そして言った。


「俺とヒューリックは同じ隊にいた。ゾンビをけしかけ、魔人共の村を滅ぼしていく部隊にな」


 なに……!?


「……ゾンビを見つけたのは本当に偶然だ。指令を受け、雪山の奥に住む魔人の村を襲うつもりだった。だがついてみりゃ村は全滅。歩き回る死体がお互いを(むさぼ)り食い合っている状況だった。

 その惨状を見て、我らが頼れる隊長殿は言った。『一匹捕まえてこい。本国への珍しい土産(みやげ)となるだろう』ってな」


「それって……」


 つまり、こいつが。


 いや、こいつらが……この村へゾンビを放った元凶……!


「本国へ伝達すると、これが“兵器”として使えるか試してこいってなことを気軽に言われてさ。んで、魔人が潜んでそうな所へこいつらを放ち続けた。生きてる奴が全員ゾンビになり、ゾンビ同士で食い合って少なくなったところで捕獲。馬車へ乗せて次の村へ、ってな塩梅(あんばい)だ。

 まあ楽な仕事だったぜ? なんせ剣で斬り合う必要も、生贄かき集めて魔法を放つ必要もない。数匹放てば後は勝手に滅びてくれるんだからな」


「黙れっ……これ以上口を……!」


 言いかけ、ヒューリックさんはまたも右腕を抱えて苦鳴をもらす。


 ヴェルグは楽しげに笑い、話を続ける。


「そこのヒューリックは、魔人達の村の門戸(もんど)を開ける役だった。こいつ自身も魔人だからな? 種族が違えど、純人類(プロター)ではないと分かれば魔人達は簡単に警戒心(けいかいしん)を解く。んで村に馴染んだところで内側から門戸の鍵を開け、ゾンビ達を招き入れる、ってな手はずだ……俺なんかよりもよっぽどの悪党だったんだぜ? こいつはな」


「…………ヒュール」


「……本当だ。僕は……物心つく前から奴隷として扱われ続け……いつ生贄にされるのか、そんな恐怖を抱きながら生きてきた……異端狩りの兵としてスカウトされたとき、僕は同族への裏切りの念よりも、恐怖への解放と兵とはいえ人として生きられる事を心から喜んだ。救われた気がしたんだ……他の魔人達を犠牲にする罪悪感に目をつむり、身勝手にも……」


「…………」


「驚いたか? だが俺達もこいつには驚かされた。なんせ潜伏した先の村で、あろうことか村人の女に惚れちまったんだからな」


 ……それは。


「この村の守りは堅くてねえ。オマケに用心深い。1ヵ月経ってもヒューリックへの監視が解かれない。よそ者に厳しい村だ……なら、身内になっちまえば手っ取り早い」


「まさか……」


「そうだよお嬢さん? 村の誰かと婚姻(こんいん)関係を結んじまえば、よそ者といえど村人の一人として迎え入れにゃあなるまい? んでアンタがそのフィアンセに選ばれたのさ。この村を滅ぼすためにな」


「やめろ……やめろ……」


 うわごとのように呟くヒューリックさんをよそに、ヴェルグは嬉々(きき)として事の経緯(けいい)を話し続ける。


「最初は順調に進んでいると思ったさ。だがフタを開ければどうだ? 演技だったはずが、いつの間にか完全にそこの娘に入れ込みやがった。奴隷だったお前を救ったお国を裏切り、()()()()()()()()()()()()()。隊や村人全員を見捨てて、自分は愛する女と逃避行としゃれ込むつもりだったわけだ……残念だったなあ? お前がけしかけたゾンビに取り囲まれたのは想定外だったろ?」


「…………ヒュール」


 シャムナさんは絶望に打ちひしがれるような声で彼を呼ぶ。


 だがヒューリックさんの答えは……予想に反する内容だった。


「……何だと? 嘘をつくなヴェルグ! あのゾンビ達を解き放ったのは……隊に襲わせたのは……お前だろうが!!」

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