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転生者殺しの第九騎士〈ナイトオブナイン〉  作者: アガラちゃん
九章「巣喰い亡き者ども」
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9章-(6)機先

「「「GRRRRRRRRRAAAHH!!」」」


 獲物を見つけたハイエナの如く、周囲にいたゾンビ達が一斉に俺に向かって殺到!


 俺は血でヌルついた斧を強く握り直し、目についたゾンビを片っ端から斬り飛ばしていった。


 時計回りに回転し、右翼から襲い来るゾンビを二匹まとめて叩っ切り。


 遠心力を生かし、左翼、正面から来る3匹を同時にブッ散らす。


 魔剣によって強化された俺の肉体は、斧の一振りで2~3匹のゾンビをまとめて斬り捨てることができる。


 ノロノロとしたイラつくほど遅い動きのゾンビ連中など、物の数じゃあない。


 ……最初はそう思っていたのだが。


「「「ううゥうぅうウウウオオォ……!!」」」


 争う音を聞きつけたのか、いつの間にか俺の周囲は、砂糖水に群がる蟻のごとくゾンビで埋め尽くされていた。


 構わず斧を振い続ける……が。


「「「UUUUURRRRRRRGGHH!!」」」


 左下から右上へ斬り上げ。すると左下から新たなゾンビが現れる。


 回転し、左上から右下へ袈裟斬り。すると今度は右から新たなゾンビが現れる……!


 こちらが斧を振うたび、そのわずかな隙を()うように、次々とゾンビがこちらへ容赦なく距離を詰める!


 たまらず俺は背後へ跳ぶ。だが、距離を取った俺の視界いっぱいに……雪崩のように襲いかかるゾンビ達の姿。


「「「GGRRRRRRRRRAAAAAAHH!!」」」


 ……“数の暴力”の恐ろしさをまざまざと知った。


 多少のダメージを覚悟すれば、あのゾンビの雪崩の中でも戦い続ける事は可能。


 だが……こっちは一度噛みつかれただけで、引っかかれただけでもアウトだ。


 かすり傷一つで即奴らのお仲間だ。この中で無傷でいることなど……一対一ならば敵ですらないというのに……! クソ、どうする……!?


 焦りにより次第に空転する俺の思考に。


 その時、冷や水のような冷たい、冷酷な声が差し込まれる。


「――情けない」


 瞬間。


 マーリカのムチの一閃により、俺へ襲いかかるゾンビ達が一瞬で細切れに散った。


「また数だけのザコに遅れを取るの? あのクリッター共と同じように、まだ()()()()に手間取ってるわけ?」


 マーリカはこちらへ振り返らず、冷たい失望と怒りを俺に向ける。


 ――物量程度。そうは言うが……


「……そうね。そろそろ教えたほうがいいかな……」


「「「GGGGHHHHRRRRAAAAAAAAAA!!」」」


 俺の前に立つマーリカへ、ゾンビ達が一斉に躍りかかる!


 しかし。


 彼女は一向に、物の数など意に介しない。


「〈千本凍槍〉者物(ものもの)|(あまね)く貫き穿(うが)て!!」


 マーリカが魔法を唱えると同時に、足下から無数の氷の槍が地面から現れ、ゾンビ達を次々と串刺しにしていく。


「……ソウジ」


 ――応。 


 中心で一層高くそびえる氷の槍。


 俺はその氷の槍の先端に立ち、斧のロックを解除。


 鎖につながれた円刃が金切り音と共に激烈に回転。振り回すと回転する円刃が俺の周囲を巡り、氷の槍の足下を(うごめ)くゾンビ達を次々と無残に斬り裂く。


 俺がゾンビ達を斬り捨てていると、マーリカが叫ぶ!


「ソウジ!」


 ――応!


 俺は氷の槍の先端から跳び、斧を足下へやり、膨大な血の霧を発生させる。


 魔法の威力を防ぐ、血の霧を発生させる。その意図は――


「〈蒸破(じょうは)〉!急々(きゅうきゅう)暴威(ぼうい)とならん!!」


 瞬間。


 氷の槍が一瞬で蒸発――水蒸気爆発だ!


 俺はすかさず数本の氷の柱に時間魔法を仕掛ける。


 対象物の時間を遅らせることで、爆弾の如き衝撃波を発生させる――“時減(じげん)爆弾”!


氷の槍の数本へ時の流れを遅らせて――爆弾を形成。


マーリカの水蒸気爆発により、飛散する氷の破片が“時減爆弾”に接触。


 すると。 


 爆発!


 爆発に次ぐ爆発……!!


 蒸破と時減爆弾の合わせ技により、周辺一帯の建物ごとゾンビ連中は木っ葉の如く吹き飛んだ!!


 血の霧により、水蒸気爆発による魔法攻撃は俺に届かない。


 俺が無傷で地面に降り立つと、マーリカが口を開く。


「上出来」


 マーリカはニヤリと笑い、おざなりに拍手してみせる。


 だが……!


「「「AAAAAAAAAAAAARRRRGGGGGGHHH!!」」」


 水蒸気爆破により倒壊した建物から、ゾロゾロとゾンビがはい出る……!


 いくら殺しても無限と思える速度で現れるゾンビ連中。


 俺とマーリカの魔法の合わせ技ですら、奴らの勢いは止められないってのか?


 クソッ、もう一度……!


「効率悪いよねー」


 あっけらかんとした、マーリカの声。


「こんな連中、ホントは魔法使うまでもなく倒せるんだけど……なんでソウジは押されてるの?」


 ――数が多すぎるんだよ。攻撃すればその隙を突いて、次から次へと現れる。単純に数が多いってのはそれだけで不利に――


「数? 数が多いからなんなの? 一対一と一対二と一対三の違いは?」


 ――何言ってんだ。数が多いってのはそれだけで相手にとってのアドバンテージになる。戦いは数。物量が大きい方が勝ちやすく――


「有象無象を数としてカウントしてる時点で問題だってことわかんないかなあ?」


 マーリカは二度目の失望によるため息を吐いた。


 そして、次の瞬間。


「……戦いは“質”。単純な物量へ対する戦い方を教えてあげる……〈機先(きざし)〉をね」


 ムチを構え、恐ろしく邪悪な笑みを、浮かべてみせた。

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