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転生者殺しの第九騎士〈ナイトオブナイン〉  作者: アガラちゃん
九章「巣喰い亡き者ども」
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9章-(5)殺しのスジ

「はああ!? こいつら平気で人を生きたままモリモリ食べる連中よ!? 一体どこにスジが通ってないってのよ!?」


 ――これは疫病(えきびょう)(たぐ)い、といったよな?


「……あー、うん。あの眼鏡くんの彼女、シャムナとかいう人が言ってた……かな?」


 ――自ら望んでああなった訳じゃない。そんな人に対して刃を振うのは……スジが通らないんじゃないか?


「いやだから! 殺らなきゃこっちが殺られるんだっつの! 何アンタ、殺すくらいなら殺される覚悟完了な人なの!?」


 ――殺されるつもりは毛頭無い。


「なら……」


 ――だが、スジは通す必要がある。


 俺は地面に菱形と横線一本を引くマーク“残視(ざんし)の眼”を描く。


 そしてマークから5歩ほど下がり、連中に宣言した。


 ――その線を越えれば殺す。


「「「オオ……オオオオぉぉオォ……」」」


 ゾンビ連中は、俺の言葉をまったく理解していないように無反応で、近づく。

 例のマークへ、一歩。また一歩。


「ソウジ、あんた……」


 ――スジの通らない殺しはただの殺戮(さつりく)だ……殺すならば正しい理由が必要。スジを通さなければならない……


 そう言いながら、俺は自分自身の欺瞞(ぎまん)反吐(へど)が出そうになった。


 少し前から気づいていた。


 あの列車強盗団の連中を片付けている時だろうか。


 俺の中に……殺しを欲っする“怪物”が、いる。


 初めは、それは斧が感じさせるまやかしか何かかと思った。


 だが、吸血鬼の集落を襲った時。レミリオ達と対峙した時。斧が(あお)る怒りの感情の中に、俺はそいつの存在がより大きく、より鮮明なっていくことに気づいた。


 存在を間近に感じられるようになると、そいつへの理解も深まっていく……


 ……そいつは、ずっと昔から俺の中にいた。


 物心つく前から、ずっと俺の中でひそかに、根深く、生き続けていたようだ。


 俺は意識的に、無意識的にそいつの存在を否定し、精神的に認識できない領域にまで追いやり力づくで押さえ続けてきた。


 だが……否定する俺を嘲笑うかのように、俺の手は徐々に血で汚れていった。


 瑞希への侮辱(ぶじょく)に振るったブロックの一撃。

 オグンへ放った死の魔法。

 シパイドの人々へ言い放った冷酷な宣告。

 リントの魔法を時間魔法で“再生”した瞬間。


 列車強盗団を全滅させた時。吸血鬼達を容赦なく皆殺しにしてやった時。転生者のケイシに放った一撃。レジエントのスナイパー野郎へ斧を振り下ろそうとした瞬間。


 ……日に日に、俺の中で怪物の存在が大きくなり、順調に育っていった……


 斧を握るたび、胸の内で殺人への抑えがたい渇望が徐々に熱く、大きく膨れ上がってきているのが、わかる。


 以前のように自分の中の衝動を見て見ぬフリし、一方的に抑え続けることは難しいだろう……


 いずれこの殺人への渇望は、やがて制御不能な衝動となる。


 そしてその衝動の向かう先には――マーリカやセイ、ユウム、レイザさん、エレンやヒューリックさんのような、決して刃を振ってはならない人々へ向いてしまう……!


 ……だが、殺人衝動を無理矢理押さえつけ続ければ、抑圧された衝動はいずれ精神のフタを押し上げ、制御不能な殺意が大切な人々をも傷つけるだろう……


 このまま血に飢えた獣のように、衝動的に無差別な殺しを楽しむ怪物と成り果てるのか?


 ……それは、瑞希の願いを踏みにじるのと同じだ。断じて認めるわけにはいかない……!


 ならばどうする?


 抑えられないならば……少しずつ、この渇望を満たしてやる他はない……


 人を、殺す。


 だが殺す相手は選別(せんべつ)する。殺すべき者のみを選別し、殺す。


 これはもはや切り離すことのできない、俺の中の怪物と共存するための……唯一の“法”だ。


 法とはすなわち、物事への線引きのことでもある。


 殺すべき者。殺すべからず者。それらを見極め、線引きし、整然とした理論のもと意思決定する……スジを、通す。


 俺が地面に描いた図は、まさに線引きだ。


 このゾンビ達に少しでも理性が残されているなら……殺すべからず。己の意思とは別にあんな姿にさせられた彼らを、これ以上責める理由などない。


 だが。


 もしも理性が残っていないなら。


 見た目通り、すでに死した(しかばね)同然であるというなら。


 …………一切の躊躇(ちゅうちょ)も慈悲もない。


「「「ウウ……ガアアアアッッ!!」」」


 俺はじっ、と地面を見つめる。


 “残視の眼”へ近づくゾンビ達。


 3メートル……1メートル……60センチ……20センチ……


 そして。


 ゾンビ達の足が、地面の図を踏みつけ――あっけなく、越えた。


「「「グゥウゥううオオオォオォオオオ!!」」」


 瞬間。

 

 俺は先頭のゾンビへ一瞬で駆け、胴体を一撃で薙ぎ払った。


「オゴぁぁっ……!!」


 吹き飛ぶ上半身。出の悪い噴水のように血を吹き、地面に立ち尽くす下半身。


 目障りな下半身へ斧を振り下ろす。


 斧ごしに伝わる肉の感触。血と臓物(ぞうもつ)の生臭さ。湧き上がる熱い血の(たぎ)り……


 無意識に笑っていた。


 こいつらは死体。殺してもよい存在。


 虐殺(ぎゃくさつ)ではない。殺戮(さつりく)ではない。


 ()()()()()()()()()()()()()()()……!!

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