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転生者殺しの第九騎士〈ナイトオブナイン〉  作者: アガラちゃん
九章「巣喰い亡き者ども」
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9章-(4)作戦決行

――理由は?


 ヴェルグは、ニヤリと下卑(げひ)た笑みを浮かべた。


「あんたらと同じさ。儲けを得るため、ここに残らせてもらう」


「は? つまり商売敵になろうっての?」


 挑発的なマーリカの声色に、ヴェルグは片手を振って否定。


「結論を急いじゃあいけない。むしろ俺はあんたらのサポートを買って出てるんだぜ?」


 ――どういう意味だ?


「ここは小さい集落だ。だが全ての家を巡ってお宝を見つけ出すのは骨が折れる。だろ?」


「……まあ、それはそうかもね?」


 マーリカが同意。


「加えてあんたらの人数からしても、お宝があんまり多くても持ち運べない」


「……まあね」


「だからさ。あんたら、俺を雇う気はないか? あんたらはゾンビ連中を狩る。俺はその間に少しでも多くのお宝を探し出す……宝はまず全部あんたらにやろう。俺がもらう宝は、あんたらが持って行けない宝から取らせてもらう。これでどうだ?」


 ……どうだ、といわれても、俺としては宝に興味はないからどうでもいいんだが。


 傍らのマーリカを見ると、腕を組み、いつになく神妙な顔で、一つ頷いてみせた。


「……オッケー。雇ってあげてもいい。でも、もしもあたしに見つけたお宝隠したりしたら……」


「その時は煮るなり焼くなり好きにすりゃいいさ。身体検査でもするかい?」


「もちろんするわよ。ソウジが」


 俺がっ!?


「……男に体触られる趣味はないんだが……まあ、お手柔らかに……」


 ヴェルグはとても嫌そうな顔で俺に一礼してみせる。


 ――いや勝手に決めんなってか……これ一番ババ引いてるの俺じゃね!?


「よし、時間もない。君達4人はここに残る。僕とシャムナ、マオの3人は先にここから脱出する。これでいいね?」


 ヒューリックが頼もしいリーダーシップを発揮するようにそう言った。


 い、いやちょっと待ってくれ! このままでは俺がオッサンの熟れたボディーをサワサワしまくるとかいう地獄が確定しちゃうんですけど! ちょっともうちょっと話し合わないか!?


「あーちょっと待って。この子も一緒に逃がしてあげて欲しいんだけど?」


“ここに残る”と聞いて青い顔をしていたセイに向けて、マーリカが指さし提案した。


「っ!?」


 突然指名され戸惑うセイ。


 ヒューリックは彼女の様子を見て、ゆっくりと頷く。


「そうだね。君達のように戦えるとは思えない。その子はこちらで預かるよ」


「!?」


 ヒューリックが受けたことで、セイはさらに困惑した表情を浮かべた。


「……!」


 俺に向けて、懇願(こんがん)するような視線を向けるセイ。


 ……そうか。やはりここから逃げたいんだな。


 俺は彼女の視線をそう解釈し、ヒューリックへ“くれぐれもセイを頼む”と言った。


「……」


 絶望の色すら見える悲しい顔で、俺を見つめるセイ。


 ……あれ? なんか俺、間違えたか……?


「では、僕達4人は先に逃げさせてもらう。君達が合流するまで待っている!」


「ま、のんびり昼寝でもして待っててよ……連中皆殺しにしてお宝探すまで時間かかるからさ」


 強い使命感を帯びるヒューリックの声に、マーリカはのんびりとした口調で応じた。ゾッとするような邪悪なセリフを……


「く、くれぐれも言っておく。連中の体液が体に入ったらアウトだ。決して、かすり傷でも負ってはいけない。奴らを相手にするなら心して対処してくれ……」


 ファンタジーじみた異世界で、ホラー映画でよく見る虚構(きょこう)の存在、ゾンビを相手にする。


 未だに実感が追いついてない感じがするが……相手にするしかないらしい。



◆◆◆



 時刻は午後1時。


 薄暗い部屋の扉を開け、俺は斧を右手にゆっくりと外へと出る。


 未だ陽の高い、澄み切った青空がまぶしい。


 すると……物音を聞きつけたのか、一人、二人と連中が顔を出す。明るい陽の光に不似合いな、灰色に濁った眼をこちらに向ける動く腐乱死体達が。


「全員生きて会おう……!君達に加護あらんことを!」


 未練を残す視線で俺を見るセイを含め、ヒューリックら4人は建物の屋根に立ち、長いはしごを渡して隣の建物の屋根へと移動していった。


「それじゃあ俺も仕事に取りかからせてもらおう。せいぜい派手に暴れてくれよ? でないと落ち着いて宝探しができないぜ? はははっ」


 ヴェルグは軽口と共に、ヒューリック達とは逆方向の建物へ屋根伝いに跳び移って行った。


 残ったのは俺とマーリカ。そして。


「うううゥゥううう……」


「ヲオオ……おおぉぉ……」


 そして、ゾンビなお友達が15、6人ほど。


 ヨロヨロと泥酔しているかのような足取り。待ち構えているこちらが焦れてくるほど、動きが遅い。


「掛かってきた所をまとめて掃除するつもりだったんだけど、めんどっちいな~……ま、こういう連中だからこそ、ゾンビがここまで広まったのかもね」


 どういうことだ? とマーリカに()く。


「動きがやたらノロマじゃん? 一対一なら子供でも勝てそうなくらい弱そうだからさ。だから“ちょっとくらい無茶しても大丈夫”って思っちゃうのよね。

 食料やら燃料やらを手に入れるため外に出る……あんな連中なら1匹2匹出くわしても勝てる……そんな考えで外に出て、結果集団に囲まれて為す術なく食べられる。運良く逃げ延びても、戦闘中に負った傷から感染する……」


 腕組みをしながら、マーリカは続ける。


「むしろ半端に弱い分厄介なのよ。生前並かそれ以上に強かったら、あっという間に食べ尽くされて動けるゾンビはほとんどいなくなる。

 弱いからこそ挑もうとする輩も増えるし、生き延びてしまったばっかりに元気なゾンビに転生することになる、ってこと」


 ……そういやゾンビ映画見てて、長年謎だったんだよな。ゾンビに食い尽くされる登場人物を見てて、ここまで喰っちまうのになんで他のゾンビ連中は無傷なんだ? と。


 なるほどな。半端に弱いからこそ戦いを避けず、しょうもない傷負ってしまい、その結果五体満足で元気なゾンビが増えてしまう、と。


 最近は走ってくるゾンビも珍しくないが……ゾンビが大量に増殖するには、昔ながらのフラフラ襲ってくるタイプでないと難しいらしい。


 ジョージ・A・ロメロのゾンビ像は理に(かな)ったものらしい。なんだか皮肉めいた感じもするが。


 ……と、まあそんなことを考えている間に。


「「「AAAAAAAAAAAAARRRRGGGGGGHHH!!」」」


 40近い人数に増えたゾンビ達が、ゆっくりと、しかし確実に俺達へと近づく。


 俺は斧を構え直し……しかし、刃を地面へ下ろした。


「ちょ……アンタ、まさか……?」


 信じられないものを見るようなマーリカの視線を受けながら、俺は口を開く。


 ――見た目がゾンビだからと、一方的に攻撃を加えるのは()()が通らない。

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