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78歳のおじいさん、異世界で武闘家になる。  作者: 川村鼠
第一章 サンティナリ
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4.父は鍛冶職人

「で、でかいな…」

私は数歩先に聳え立つ大きな門に驚きを隠せなかった。自分の身の丈より何十倍…いや、何百倍もあろうかとも思わせるこの門は雰囲気だけで侵入者を拒めるような威圧感を放っていた。

「あれ?サブローはここに来るのは初めてか?」

――あぁ、そういえばキキたちには私が記憶がないことを言ってなかったか。

「言い忘れていたが、私には記憶がないんだ…」

「え…」

彼らは虚を突かれたような顔をしている。

「サブローっていう名前も本当に合っているか分からないし、なんとなく頭に浮かんだ名前なんだ」

「そうなのか…」

どう言葉をかけていいのかわからないのだろう。彼らは下を向き、気まずそうな雰囲気を醸し出していた。

「まぁ、旅をしていたらいつかきっと記憶を取り戻すさ」

――自分がどんな人間だったか。私は本当に知りたいのだろうか?

ふと、そんなことを思ってしまった。

「サブロー!」

門の横にある監視所からルーナがこちらに向かって走ってくる。

「あんたたちの入街手続き終わったから入っていいわよ!」

「おぉ!それは助かるよ」

どうやらカシムに入るための手続きが終わったらしい。ルーナが言うには名前と生まれ、街に入る目的を門番に説明しなければ街に入れないとのことだが…

「サブローは旅人で、キキたちはそのお供ってことにしといたわよ」

確かにその理由ならば門番も許可してくれることだろう。

「さぁ!行くわよ」

私たちは目が合った門番に一礼し、開門されるのを待つ。

「彼らと何を話していたの?」

ルーナはチラリと目線をキキたちのほうに向け、私の横でこう囁いた。

「私に記憶がないことを話していたんだ」

「そうなのね…」

彼女は何かを察したような、そんな目をしていた。

「いまだに信じられないわ。あんたがクロムと会話できるなんて」

「あぁ…」

正直、私にはルーナがここまで驚く理由がわからなかった。キキたちと会話するという行為はすごく自然なことで、人と同じように会話できるからだ。彼女から見てクロムがどのように発声しているのかは分からないが、もしかしたらクロム特有の言語のようなものがあるのだろうか。

「開いたわ!みんな行きましょう」

巨大な門が徐々に開かれていく。大きな門とは裏腹に、開く音は意外と静かだった。その証拠にポポが拍子抜けた表情を浮かべているのが横目で確認できた。

「こ、これは…」

目の前に広がる光景に思わず驚きの声が出てしまう。荒野の中心にある街とは思えないほどにそこは栄えており、たくさんの建造物や出店が軒を連ねていた。何よりも驚いたのは人の多さだ。例えば、陽が落ちかけているのにも関わらず、手前にある出店には長蛇の列ができている。何やら美味しそうな食べ物を作っているように見えるが、よほどの人気店なのだろう。

「おいポポ!あれすごく美味そうだぞ」

「え!?どこだ兄貴ぃ~」

どうやらキキたちもあのお店が気になっているようだ。機会があればぜひとも行ってみたいものだ。

「えっと、まずは私の家に案内するわね」

「分かった。付いていくよ」

私とキキたちは人混みを避けつつ、ルーナに付いていく。



「もうそろそろ家に着くわよ」

商業地区を抜け、私達は人だかりが少ない居住地区へと出た。先ほどから様々な家を見てきたが、どの家も綺麗でついつい見入ってしまう。

「おーい!新入り!その荷物はこっちに運べ~」

「はい!」

あれは人型のクロムだろうか。キキたちゴブリンとは違って、白い体毛に覆われている。さらに私の身長の倍はあろうかと思われる体格。ポポを白くしたら恐らくあんな感じになるだろう。

「ルーナ、あれはなんという名前のクロムなんだ?」

「あぁ、イエティよ。普段は寒い所にいるけど、カシムの美味しい食べ物を求めてこっちに来てるみたい」

食べ物が理由とは、見かけによらず可愛いものだ。

「おまけに力持ちだから、ああやって人間のお手伝いをしてそのお礼に食べ物をあげるらしいわ」

「そうなのか...」

キキたちもそうだが、見かけが厳ついクロムほど意外と友好的なのかもしれない。


「さぁ!着いたわよ」

話をしている間に着いたらしい。気が付くと辺りはもう薄暗くなっていた。

ルーナの家の外装は赤や茶色を基調としたシンプルなもので、初めて訪れたのになぜか懐かしさを感じさせられる。

「早く入りましょ」

「あぁ...」

彼女は家の鍵を開け、中へ入る。

「お、お邪魔します」

私達もルーナに続き、家の中に入る。ふと横を見ると、様々な大きさのハンマーが掛けられていた。一番大きなものでポポの身長と同じくらいの大きさだ。こんなもので殴られたらひとたまりもないだろう。


「おぉ、ルーナおかえり。」

「パ、パパ!?もう帰ってきてたの?」

奥の部屋の方から眼鏡をかけた壮年の男性が出てきた。パパ、ということはこの方がルーナの親御さんなのだろう。よく見ると目元がルーナそっくりだ。

「あぁ、仕事が早く終わってね。そこにいるのはお客さんかい?」

「そうよ!紹介するわね。この強そうな子がサブロー」

「ど、どうも。」

私は軽く会釈をする。

「そしてこのクロムたちの名前は奥からポポ、ココ、キキよ」

彼らは緊張しているのだろう。すこし顔が引きつっているような気がする。

「いやはや、これは珍しいね。ゴブリンか」

親御さんはゆっくりとこちらに来るとキキたちの顔をまじまじと見つめる。

「おっと、こりゃ失敬。申し遅れたね」

眼鏡をかけなおし、軽く服を整えて彼はこう言った。

「グラント・ゲイン。この町で鍛冶屋を営んでいるよ」

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