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78歳のおじいさん、異世界で武闘家になる。  作者: 川村鼠
第一章 サンティナリ
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3.ルーナの秘密

「――ルーナ?」

先程から胸の内に違和感があった。キキたちと会話中、ルーナからの声がなかった。どんなに肝が据わっている人間も目の前で異変が起きたらさすがに何か反応するはずだが――。

――私は岩陰を覗き込んだ。

「――!?」

目の前に広がる光景にまるで耳のそばで鉄砲を撃たれたかのように驚愕した。彼女は発作が起きたように息を荒げ、痙攣し、そこに横たわっていたのだ。

「おい!大丈夫か!」

私は咄嗟にルーナの元へ駆け寄り、彼女の後頭部を持ち上げ、自分の膝元へと乗せる。彼女の頬は湯に浸かった後のように朱に染まっており、発熱しているのは一目瞭然だった。私は彼女の額に手を当て、具合を確かめる。

「ど、どうしたんだサブロー!?」 

後ろを振り向くと、ちょうどキキたちがこちらに到着したところだった。彼らならルーナの状態についてなんか知っているだろうか…。

「この子に何があったんだ?」

「見て分かると思うが、ルーナは熱がある。おまけに呼吸がおかしい」

ココからの質問に答える。先ほどまでの彼女を思い返してみると、どこもおかしな様子はなかった…と思う。

「俺たちはクロムだから人間の病についてはよく分かんねぇけどよ、この前戦った人間が変な色した飲み物飲んでけがを治そうとしてたのを見たことあるぞ」

「あ~、あの葉っぱみたいな色してたやつだよね~」

後ろでキキとポポが話をしている。

――葉っぱ色の飲み物?

私にはそれに見覚えがあった。ルーナが私のことを助けてくれた時、渡された緑色の飲み物。

そう、コマリだ――。

確かルーナから受け取った後、右のポケットに仕舞ったはずだが…。

「あ、あったぞ!」

私はコマリを取り出し、それをキキたちに見せる。

「なぁ、その人間が飲んでたのはこれか?」

「お!それだよそれ」

――さて、どうしたものか。コマリを飲ませて完治するとは思えないが、せめて会話できるようになればカシムにあるルーナの家まで連れていくことができる。

私は可能性に賭けて飲ませてみることにした。

「ルーナ、コマリを飲ませるから口を開けてくれないか?」

するとルーナはゆっくりだが小さく口を開けてくれた。どうやら意識はあるらしい。

容器の栓を開け、少しずつルーナの口に流し込んでいく。

「ハァ…。」

コマリを飲み終え、彼女の顔は落ち着いた表情へと変わっていった。


「――あり――が――とう。サブロー…」

「ルーナ!目が覚めたのか?」

コマリを飲ませてからしばらく経った後、彼女はゆっくりと目を覚ました。

「えぇ…なんとか…ね。あなたが助けてくれたことは覚えてるわ」

やはり意識はあったのか。とにかく無事だったことにまずは一安心だ。

「あなたがクロムと会話していたのは夢ではなかったようね」

遠くの木の下で果実を採取しているキキたちを見ながら彼女は言った。

「正直未だに信じられないけど、そもそも会話できていなかったら今頃私たち死んでたわよ」

「そう…だな」

「只者ではないとは思っていたけれど、まさかここまでとは恐れ入ったわ」

ルーナは笑っていた。彼女の満面の笑みを見たのは初めてだ。

「お、驚かないのか?」

「えぇ、驚いてるわ。でもね、私はこういう刺激を求めてたのよ」

「刺激?」

「私ね、生まれつき病弱で今でも持病があるのよ。さっきみたいに発作が起きたり、熱出たりしちゃってさ。だからいつも家の中で一人でいるのが嫌でたまに刺激を求めて外に出て遊んでるの」

「ご両親は何も言わないのか?」

「お母さんは一年ぐらい前から行方不明になったわ。どこで何をしているか分からないけど、たぶん元気なんじゃないかしら。」

「――そうなのか」

「お父さんはカシムで鍛冶職人をしているわ。昔は有名な職人だったみたいだけど今はただのクソ親父よ」

彼女はそう言うと、深呼吸をして立ち上がった。

「ねぇ、あのクロムたちのこと紹介してよ!」

「え…あぁ、いいぞ」

私はキキたちを呼び、ルーナにの前に一列で並ばせた。

「まず、このでっかいのがポポだ」

「よろしくぅ~」

「ねぇ、この子なんて言ってるの?」

あぁ、そういえばルーナには聞こえないのか。

「よろしくって言ってるよ」

「そうなのね!よろしくポポ!」

ポポはルーナと握手を交わす。


キキたちの紹介を終え、私たちはカシムへと向かう準備を始める。

「きゃっ!」

ルーナはふらついてしまい、そのまま転んでしまった。

「大丈夫かルーナ!」

「へ、平気よ、平気」

どうやら彼女はまだ調子が良くないらしい。まぁ、あれだけの発作を起こしていたのなら無理はない。

「ルーナ、私の背中に乗れ」

「なっ!何よ急に!?」

「まだ元気じゃないんだろう?街まで連れていくよ」

彼女の頬がみるみるうちに赤らんでいく。この赤らみは発作ではなく、恥じらいだろう。

「わ、分かったわ…。重いとか言うの無しね!」

そう言って彼女は私の背中に乗る。ルーナの体は華奢で、ちょっと力を入れたら折れてしまうような小枝のような足をしていた。

「なぁポポ、ここらへんなんか暑くないか」

「なんだ兄貴、羨ましいのかぁ~」

「うるせぇぞポポ!」

私の後ろからキキたちのにぎやかな声が聞こえてきた。

それにしても、カシムは一体どんなところなのだろうか――。

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