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ep4.初めて聴いてくれた

アパートの玄関を開け私は台所に立つ。


やばい、やばい、やばい、どうしよう。あの人うちの学園の制服着てたし。気づかれたかな?あぁ〜もう………タイミング悪すぎ。せっかくわざわざ遠くの駅にしたのに……最悪だ。


蹲ってシンクの下の食器入れの戸に何度かコツコツと右拳を打ち付ける。


猫のジョンが膝に擦り寄ってくる。


あぁまだ顔が熱い。

走って帰ってきたのもあって鏡を見ると顔全体がほんのりと赤くなっているのがわかる。

水道の蛇口を捻り、両手いっぱいに水を貯めて顔を洗う。


水が飛んだのかジョンは「ムルゥ」と小さく唸って何処かへ行ってしまった。


「あ、おねぇちゃんおかえんなさい………ってどしたの? 失恋でもした? ってそんな訳ないか」

お風呂上がりの由寿葉(ゆずは)がバスタオル一枚で出てきた。


「なんでもない。それより風邪引くよ、早く服着な」

私はもう一度顔に水をかける。よし、少し落ち着いた。


「はーい。でも、そ、の、ま、え、に! 牛乳ぅ〜」

由寿葉は冷蔵庫から牛乳を取り出してグラスに注ぐとそれを一気に飲み干した。「ぷぅは〜」っと母さんがビールを飲んだ後に出る声を自然と出した。

いくら親子といえど、ここまで似るものなのかと遺伝の恐ろしさを実感した瞬間だった。


その反面、私は母さんとも由寿葉とも何一つ似ているところが見つからない。きっと私はお父さんに似ているのだろう。

私は産まれてから一度も見たことがない空想の父を思い浮かべる。


「おねーちゃんも牛乳飲まないと大きくなれないよぉ〜? いろいろと」

由寿葉は私の足から頭まで舐め回すように眺めてその視線は胸へと終着した。


「うっさい。私はコーヒー派なの。あ、それ貸して」

私より背が高い由寿葉のおでこを中指で弾いて由寿葉が頭に巻いていたタオルを取って水が滴る顔を拭く。


「相変わらず渋いねぇ、身体はお子ちゃまなのに」

由寿葉は何かにつけて私の身長と胸のサイズを馬鹿にしてくる。

身長はともかく胸のことは結構気にしてる部分があるからあんまり言われるとちょっぴり傷つく。


由寿葉は今年中三に上がった私の妹で既に私より身長が高い。去年の秋の身体測定の時点で165cmあったらしい。私はその10cmしたの155cmそれでも平均の身長だ。だから身長に関してはあまり気にしていない。

でも由寿葉からしてみれば小さいと思うのだろう。


「はいはい」

私は華麗に由寿葉の挑発をいなして脱衣所に行きお風呂に入る。

入浴剤のハーブの香りが鼻孔を擽ぐる。

湯船に浸かってステージの前にいた彼のことを思い出す。

街灯の逆光に当てられて顔はよく見えなかったけどあの制服は間違いなく私と同じ時浜学園の生徒だ。


はぁ、顔がわからないんじゃ逃げる事も隠れる事も出来ないじゃん。

ゆっくりと空気が抜けていくように湯船に沈んでいく。


暗がりの彼の顔が王子様のような美化されたイケメンで脳内形成される。

脳内の彼が私に微笑みかけると、あまりの恥ずかしさに一気に浮上して現実世界に戻ってきた。自分に呆れてしまう。


あぁ熱い。のぼせちゃったかな。


私は肩甲骨辺りまで伸ばしっぱなしにしていた髪を軽く乾かすと寝室へ行き、既に眠っている由寿葉の隣に布団を敷いた。


「聴いてくれた人……初めてだったなぁ」

天井を見上げ、呟いて、少し頬を緩ませて眠った。




昇降口の下駄箱のロッカーを開けると大量の紙くずが溢れ出てきた。

まるで某5歳児が主役のアニメの押入れみたいだ。みさえさんも苦労してるんだ。あ、でもあれは自分で詰め込んだのか。


そんな事を考えながら無表情で床に散らばった紙くずを脇に設置されているゴミ籠に捨てた。


下駄箱の影からクスクスと女子たちの殺しきれていない笑い声が聞こえる。


中学の頃からこういう扱いを受けてたし、今更傷付く心もなかった。

もう慣れてしまった。


明るくて可愛い由寿葉はうまくやってるみたいだけど私はどうも人とはすれ違ってしまうらしい。


これからの事も考えて一度由寿葉に人付き合いのコツなんかを教えてもらおっかな。

そう考えてみるもすぐに却下された。あんな奴等と仲睦まじくしている自分が想像できない。仮に仲良くできるチャンスがあったとしても私は拒絶してしまうだろう。



昼休みになって私は食堂へ向かう生徒達の人波に逆らい非常階段に向かう。

登校前は昨日の男の子と会ったらどうしようとか悩んでいたけど。そもそも私は誰の記憶にも留められないので心配してた出来事も起こらなかった。


いつものように非常階段を上がって壊れた南京錠を外し屋上に出る。


あ〜気持ちいい。


今日は風が強いけどそれでも喧騒がない分だいぶ落ち着く。

誰の声もしない。なんの音もしない。

自分が制服を着ていなかったらここが学校って事も忘れられるのに。


旧校舎を見下げるとそこには食堂に入りきらない生徒が長蛇の列を作っていた。


私はプラスチック製のベンチに座って。通学路にあるコンビニで買っておいたサンドイッチをひと口嚙る。


何故ここにベンチが設置されているのか、わからないけれどきっと何かのイベントの時にそのまま置き忘れられたものだろう。


そしてサンドイッチ片手に昨日思い浮かんだフレーズを頭の中に流れる曲調に合わせて口遊む。


「う〜ん、やっぱ違うなぁ。はぁあ、学校にギター持ってこれたらなぁ」

そんな独り言を漏らした時だった。後ろから私の肩がポンっと叩かれた。


「何が違うの?」

ども、ジャベリンです。ジャベと呼んでください。


第4話はヒロイン視点で書かせてもらいました。


これからこんな感じちょくちょく視点が変わっていきます。なるべく分かりやすいように書くつもりではいますが、読者様も頭がごっちゃにならないよう気をつけていただければと思います。


それでは今後とも『あの声』をよろしくお願いします♡。

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