ep2.路上ライブの歌声に惹かれて
カラオケ店を出たのは夜の9時を回った頃だった。みんな門限とかないんだろうか? 女子高生が夜遅くまで遊ぶことに今時の親御さんは心配しないのかな?
俺には上に1人姉がいるが姉が高校生の時、遅くに帰ってくると、そりゃ両親はカンカンに怒っていた。朝帰りしようものなら携帯を没収されてたっけか。今思えばかなり厳しい親だな。
俺は男っていうのもあってある程度放任されているが姉はそれが気にくわないらしい。
みんなと別れると俺と凛とトモは三人で駅まで歩く。
トモは相変わらず凛にベタベタだ。凛はそんなトモを蹴ったりビンタしている。
しかしなぜかトモは嬉しそうだ。
軽いビンタを受けたトモが俺を見る。
ニヤニヤした顔で見てくんな。変態が移りそうだ。
「なぁ晴樹〜、あの中に誰か気になる子いた?」
「んん〜、いないかなぁ」
これは本音だ。そもそも俺が人を選べる立場だなんて思ったことないし。仲良くしたいとは思うけど『どんな子なんだろ?』みたいな興味はあまりない。
それは俺の女性不信的な性格が絡んでいるのだろう。みんな外面が良くてなんて言うと内面が悪いって聞こえそうなものだけどそういう意味じゃない。でもなんだか嘘っぽいんだよな、彼女たちの言葉や意味もなく交わすボディタッチ協調を強制にしてしまうような見えない空気とか。
みんながみんな風見鶏みたいで風は何処からともなく外部から吹いてくる。
「なんだぁつまらんのぉ」
トモが俺の肩に腕を掛けて体重を乗してくる。重い。背丈はそこそこの華奢な体の癖に。
「いいのよ、晴樹はそれで。あんたと違って真面目なんだから」
「なんだとぉ、それじゃあまるで俺が女たらしのモテ男見たいじゃねーか! 照れるぜ」
やっぱこいつはバカだ。でも嫌いじゃないトモはいつも俺に笑顔を造らせてくれるから。俺は微笑する。
「そーいうトモは? 好みの子はいたのか?」
笑うトモは少し考える素振りする。
「う〜ん、俺的にはリリカちゃんとカレンちゃんとレイカちゃんかなぁ───」
俺はまだこいつを侮っていたようだ。
高校生にもなってまだ小学生のような『一番は〇〇ちゃんで二番は〇〇ちゃん』みたいな考えを持っていることに俺は驚きと感心を隠せそうにない。
1人に絞らない。逆に言えばチャンスは2倍にも3倍にもなるということか! 生粋の女好きは考えもまた極まっている。流石だ。
「───でも〜、やっぱ一番は凛ちゃ……」
再び凛にウザ絡みをしようとしたトモのほっぺに見事なエルボーが入った。
これも流石だ。
去年から一年間に渡るトモのウザ絡みのせいで凛は完璧な護身の術を身につけたようだ。
凛の目は飛べなくなった蚊を見下ろす時みたいに鋭かった。
駅が近づいてくると俺は地下鉄に乗らなければいけないから、二人に軽く手を振って別れた。
地下鉄へ向かう途中何処からかなんともいい音色を奏でて透き通った歌声が聞こえてくる。
普段の俺なら絶対こんなことはしないんだけど今日の俺はカラオケでしかも大人数ではしゃいだせいか少しハイになっていたのかもしれない。
俺の足は自然と音のする方へ歩き出していた。
駅に隣接した広場にある、控え目なステージに彼女は大きなアコースティックギターを提げて観客のいないステージで歌っていた。
楽器に詳しくない俺はギターのサイズなんてわからないけど明らかに彼女の体には大きいだろうと思ってしまう。
俺はステージの前に立った。
彼女は目を瞑って精一杯歌う。
その歌が誰かのカバーなのか彼女のオリジナルなのかも分からないけれど彼女の声は力強くて且つ透き通るような聴いているだけで勇気と癒しをくれる。そんな声だった。
良く見るとマイクがない。彼女は地声だけで離れた場所にいた俺の耳にまで届くような声を出していた。
決して大きな声で歌っているわけじゃないのに。
こんなに通る声があるのかと本日二度目の感心を抱いた。
広場を通る人は殆どが残業上がりのサラリーマン達で疲れ切っているのか、みんな足取りが重くでも絶対に足を止めようとはしなかった。それでもきっとみんなこの歌声に今日の疲れを癒され明日を頑張る勇気をもらっているはずだ。
彼女の一曲が終わって俺は躊躇することなく拍手を送った。足を止めた人はいなくてもこの広場を通る人はみんな元気付けられた、彼女はそれを実感するべきだと。そう思ったからだ。
目を瞑っているからか自分に拍手が送られていることに気づいていないみたいだ。
しばらくしてようやく目を開けた彼女は自分に拍手を送る者がいてすこし戸惑っているようだった。
そして笑顔を浮かべた………わけではなく素早くギターをケースにしまい脇目も振らず地下鉄の方へと走っていった。
俺は一人取り残されて。誰もいないステージの前で突っ立っている結構ヤバいやつになった。
俺、何かやらかしたかな? もしかして目立ちたくなかったとか? それはないか。じゃなきゃ路上ライブなんてやらないよな。
駅から家までの帰り道、俺は彼女の歌を覚えている範囲で口遊む。
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