『tick-tock』
時計の秒針が正確に時の流れを知らせる。
夜の1時…気がつけばそんな時刻になっていた。
こんな時はなぜかあるゲームを連想させる。
あるゲームに登場する「シ◯ーマン」とかいう大きな鋏を持った奴が襲いに来て、それから必死で逃げるパニックホラーゲーム…なんでそんなものが思い浮かんだかは勿論、時計が原因だ。
そのゲームのどこに時計の要素があるんだろうか……まぁ、それは置いといて、それを思い浮かべた原因はそれだけではない。
そのゲーム、なかなかエグいのだ。ストーリーがしっかりしている分、エグい。とにかくエグい。
音がリアルでエグいのだ。元々妙にリアリティのある音が好きではないせいもあるだろうが。
エグいせいでその分人が沢山死ぬ。選択を一つ間違えるだけでかなりの人数が死ぬ事があり得るのだ。
…………話が大分脱線したが、自分が言いたいのは、簡潔に言うなら、そこに登場する人の死に様だ。
時計といって連想するのはそのゲームで、そのゲームで連想するのはそこに出てくる人達の死ぬ有り様なのだ。
鋏で心臓を一発刺されて死んだり、木に吊されて死んでたり…まぁ、色々だ。
死体を見てると自分は酷く落ち着く。小さい頃からそうだった。
普通の人は死体を見ると、気持ち悪がったり、怖がったり、場合によっては死体の有り様を見てその場で吐いてしまうなんてこともある。一般人はそういう反応をする…それが常識。
そうなると自分は常識人から外れているらしかった。
吐き気なんて全くない。寧ろ死体は自分の心休まるものなのだ。気持ち悪がるなんて有り得ない。
ネットとかで検索してみると、どうやら本当に自分は異常に分類されるようだ。周りを見ていて薄々気づいてはいたのだ。自分は異常なのではないのか、と。
自分は他者からしたら『ネクロフィリア』という異常性癖を持つ者達に属するみたいだった。
不思議とショックはなかった。
死体を初めて見たとき、周りの、友人と呼べるか分からない人がそれを見てなぜか叫んで泣き出したときから、なんとなくそう思っていたから。
「どうして皆嫌がるの?何もしないのに…」と小さい頃は思っていたが、決して口には出さなかった。幼いながらも、これは言ってはいけないことだ、言ったら皆に変な目で見られる……そう、察していたのだ。
自分の心では全く考えたこともなかった。それらが気味の悪いものだって。だって彼らは動かないし、泣いたり、話しかけてくることもないのだから。
「さて、帰ろう」
物思いに耽るといつも時間を忘れる。時計の針がチックタックチックタックと単調なリズムで規則正しく音を立てる。
時刻は午前2時。一時間も考え事をしていた。今日の仕事のノルマは終わっているが、もし終わっていなかったら、今頃は半分泣きそうになりながら仕事をこなしていただろう。まぁ、もうそんなことはどうでもいいのだけれど。
別に好きなことを仕事にしたのでこれといって苦痛も不満もなかった。
でも、やっぱりノルマが終わらずに強制的にやらされるのは好きじゃない。人間の中にある何かがそう思わせるのだろうか。
義務のようにこの仕事をこなしたくはなかった。なるべく自分の与えうる愛情を込めてそれらに接しているつもりだ。普通の人より数倍の愛を込めている自信がある。
でもいつの日か、自分もそっち側になってみたくなった。誰かに愛されるものになりたくなったのだ。こういう考えを持った人間が今ここにいるのだ。自分と同じく死体に愛情を持ってくれる輩だってきっといるだろう。
後のことは、その人達に任せておけばいい。
「また、明日ね」
一言そういってから部屋の電気を消した。
自分は自分の靴が歩くときの音を聞きながら、その部屋を後にする。さあ、帰ってからはすぐに風呂に入って、後やることはその後にすればいいか…そんな風なことを考えながら。
自分の出た部屋の扉のわきの壁には、『解剖室 Ⅰ』と書かれたプレートがつけられていた。
チックタック…チックタック…チックタック…
屍となるまで、後少し。
だからそれまで…待っていて
解説:この主人公は解剖学者であり、ネクロフィリアという異常性癖を持っています。彼女は死体を愛していましたが、いつしか自分も誰かから愛されたいと思ってしまい、これから家に帰り自殺しようとしています。彼女の自殺は成功したのでしょうか…
こんにちは、曼珠沙華です。投稿した時間的にはこんばんはでしょうか。
この物語、察した人もいると思いますが、わからない人の為に解説を用意しました。「そんなんでいいのか?」という声は聞かなかったことにしておきます。
これからも頑張りますので、よろしくお願いします。それでは