旅立ちの方法 最終話
ウィルヘルム
「う……ん…………………。」
ウィルヘルムは鳥の声と柔らかい朝の日差しで目を覚ました。
目を開けると二つの顔が見下ろしている。
カイラス王
「おはよう、ウィル。」
右からカイラスがニヤリと笑ってキスをする。
シヴリン
「おはようございます、先生。」
左から頰をピンクに染めたシヴリンがキスをする。
素っ裸の二人がウィルヘルムにぴったりくっついている。
もちろんウィルヘルムも裸だった。
シヴリン
「先生、お体は僕が辛くないように治療しておきましたから、
ちゃんと動けると思いますよ。」
カイラス王
「大丈夫だよなあ、ウィルは大昔俺がちゃんと開発してるから。」
ウィルヘルムは唸った。
ウィルヘルム
「ふおおおおおお………………。
賢者だ癒してだと言いながら、これはもう悪魔の所業じゃ!鬼じゃ、鬼畜じゃ!
親子と契るなど!なんと恐ろしいことを……。」
シヴリン
「父上様、このまま温泉に連れて行きましょう。」
カイラス王
「そうだな。」
カイラスはウィルヘルムを抱き上げると目の前の露天風呂に連れて行った。
風呂の間もしばらくはウィルヘルムがワーワー自分を責めて嘆いていたが、
しばらくすると極楽じゃと言って森林浴風呂を楽しんだ。
朝食に新鮮なフルーツとパン、コーヒー、チーズなどを食べて3人は出発した。
………………………………………………
旅行日程は後5日。
その日は海で海水浴、夜は海の上に浮かんだコテージ。
次の日は美しい島に渡って島の神殿に参拝、夜は同じコテージに宿泊。
次の日は芸術の街でドレスアップして観劇。夜は豪華な五つ星ホテル。
次の日は博物館見学とショッピング。同じホテル宿泊。
3人はいつも一緒で片方がキスをするともう片方も必ずキスをする。
ウィルヘルムは暑苦しいとボヤきながらも突き放すことはしない。
カイラスもシヴリンも幸せそうなとろける顔をしてウィルヘルムに寄り添った。
特にシヴリンは幸せだと何度も呟いた。
………………………………………………
そしてツアーを終えてついにエルヴィアの城に帰ってきた。
カイラスとシヴリンはいつものようにウィルヘルムを挟んであちらこちらにキスをしながら、
城に入ってきた。
入口の広間にローチェ王妃とコングール王子が仁王立ちで待っていた。
ローチェ王妃
「これはどういうことですの。陛下。」
カイラス王
「あ…ああ……………ろ、ローチェ………、これはその……。
私も疲れておったので慰安旅行に……。」
現地のアロハシャツを着たカイラス王は後ずさりした。
ウィルヘルム
「ローチェ、すまぬ!わしが悪いのじゃ。
わしは……カイラスをまだ愛しておって……、その………。」
ウィルヘルムのブラウスから覗いた首やら鎖骨にいくつもキスマークが付いている。
ローチェ王妃
「陛下、まさか先生にご無体な事を!」
シヴリン
「ち、違います。これは…………ふたりで………。」
「はあああああああああ!?ふたり!?」
ローチェ王妃とコングール王子は大声をあげた。
カイラス
「…………シヴリンめ……。」
ウィルヘルム
「わ…わしは疲れたでな………ちょっと部屋で休ませてもらおうかのう……ふぉふぉ。」
シヴリン
「そ、そうですね。」
カイラス王
「わ、私も……。」
ローチェ王妃
「陛下の部屋はこちらでしょう!」
二人についていこうとしたカイラス王はローチェ王妃に首根っこを掴まれた。
………………………………………………
数日経ったある日、エルヴィアに恐ろしい話が舞い込んで着た。
死に物狂いで辺境から戻った兵士は王座の間に駆け込んだ。
兵士
「申し上げます!
辺境でネクロマンサーが現れ、死人を次々と復活させています。
死人に噛まれた兵士は次々とゾンビになっていき、駐留軍は半数にまで減らされました。」
カイラス王
「よく伝えてくれた。すぐに出陣の用意だ。」
ウィルヘルム
「カイラス、200年前の事件と同じじゃ。
確か、その時の資料に亡者には火と聖なる力が有効だと記されておった。
わしらも行こう。」
カイラス王
「うむ、頼むぞ!」
かくして王は城をコングール王子に任せて辺境に出陣した。
シヴリンとウィルヘルムも馬に乗って軍に加わった。
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聖なる力の威力はすさまじく二人のオーラに触れただけでゾンビや死者は灰になって消えてしまう。
二人がいるだけでもはや敵軍はいないも同じだった。
残るはネクロマンサー一人であったが、恐ろしく強く、通常の剣が通らない。
傷をつけることができるのはカイラスの持つ聖剣のみであった。
ウィルヘルムとシヴリンを狙って大きな鎌で襲ってくるネクロマンサーの攻撃をカイラスが剣で払う。
ウィルヘルム
「シヴリン、カイラスの周りに防御壁を貼るのじゃ。
集中して……、そうじゃ、お前ならできる。」
シヴリンは片手を伸ばして力を放出しているが、苦しそうに顔を歪めている。
ウィルヘルムはシヴリンの顔を両手で包んで口付けた。
ウィルヘルム
「シヴリン、大丈夫じゃよ、わしがついておるではないか。」
ウィルヘルムが微笑む。
シヴリンはウィルヘルムを抱きしめると柔らかな表情になって目を閉じた。
その瞬間ネクロマンサーは苦しんで地面に這い蹲り、逃げようともがいた。
カイラス王
「逃すか!」
王は聖剣を突き刺した。
ネクロマンサーは絶叫を上げながら生き絶えた。
倒れるシヴリンをウィルヘルムが抱きとめて地面に座り込む。
カイラス王
「シヴリン、よくやった。お前はエルヴィアを救ったのだ。」
シヴリンはうっすら目を開けて微笑んだ。
ウィルヘルムは泣きながらシヴリンを抱きしめた。
ウィルヘルム
「本当に我らの誇りじゃ!」
その時、拍手が聞こえた。
「素晴らしい!本当にすごい!」
気づくとくるくるとした巻き毛のさわやかな若者が立っている。
その後ろには黒髪の長身の男がひっそりとついていた。
プリンセチア
「僕、こういうものでっす。」
若者は名刺を差し出した。
……………………
エルフ軍 勇者兼 スカウトマン
プリンセチア
……………………
プリンセチア
「エルフの国は今ネクロマンサー達の猛攻撃を受けてるんだ。
さっき倒したネクロマンサーがわんさかあっちでは暴れてる。
僕の後ろにいる人の攻撃が同じ属性であんまり通じなくってさ、
負けてばっかりなんだ。」
「ちっ」と後ろの男は舌打ちした。
ウィルヘルム
「ああ………なんてことだ、伝説は本当だったのか。
エルフの国は本当にあるのか……。」
プリンセチア
「ぜひ、僕たちと一緒に戦ってほしい。」
プリンセチアはシヴリンの手を握った。
………………………………………………
エルヴィアの港に美しい船が一艘とまっている。
ウィルヘルムとシヴリンにローチェ王妃、コングール王子が涙を流して別れを告げている。
カイラス王は後ろで微笑んでいる。
カイラス王
「元気でな…。」
シヴリン
「父上様………やっぱり、先生は連れて行けません。」
ウィルヘルム
「シヴリン……。」
カイラス王
「わたしも、ウィルと離れるのは辛い、おそらく二度と会えないだろうからな。」
シヴリン
「でしたら……!」
カイラス王
「だが、覚えておけ、私はお前も愛している。
お前になら、ウィルを任せられる。
頼んだぞ、シヴリン、我が息子よ。
世界を救ってこい。」
王は息子を抱きしめた。
シヴリン
「父上様………我が王………誓います。我が命に代えても。」
カイラスは頼もしそうにうなづいた。
プリンセチア
「船を出すよー、乗って。」
名残惜しそうに二人は船に乗り込む。
ちゅちゅっとリスのマカルーもシヴリンの肩に飛び乗った。
ローチェ王妃は泣き崩れてしまった。
ローチェ王妃
「どうか、どうか無事で………。ああ……。ご飯もちゃんと食べるのですよ……。」
コングール王子
「誇りに思うぞー!お前を!」
シヴリンは二人に手を振った。
シヴリン
「行って来ます。母上様、兄上様、これまで、ありがとうございました!」
カイラス王
「ま、待ってくれ、忘れ物だ!」
カイラスは船から渡された板を歩くウィルヘルムの腕を捕まえてキスをした。
二人は何も言わずに見つめ合うと、もう一度キスをした。
ウィルヘルムの頰に一筋涙が流れる。
ウィルヘルムは微笑んでカイラスの頭をくしゃっとした。
ウィルヘルム
「カイラス…シヴリンを俺に授けてくれてありがとう。」
カイラスも微笑んでうなづいた。
カイラス王
「さらばだ!」
ウィルヘルム
「さらばじゃ!」
船は次第に小さくなり地平線に吸い込まれて見えなくなった。
おしまい
*R18 ムーンライトノベルに「孤独な森の賢者を落とす8つの方法 三人が結ばれるシーン」を
投稿しました。
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