ぶらぶら街歩きの方法
ローチェ王妃
「シヴリン………。起きてる?」
こそこそしながらシヴリンの母親ローチェ王妃が部屋に入ってきた。
シヴリン
「これは、母上様。おはようございます。」
ローチェ王妃
「おはよう、シヴリン。」
王妃はシヴリンのおでこにキスをした。
シヴリン
「どうなさったんですか?こんな朝早く。」
ローチェ王妃
「シヴリン、今日は先生とお買い物に行きなさい。」
シヴリン
「買い物…………。えっと何をでしょうか?」
ローチェ王妃
「ルートと買う物のリストはこれに書いてありますから。」
王妃は紙を一枚差し出した。
ローチェ王妃
「コングールと魔道士部隊は早速準備に入っていますよ。
必ず最後にはこの時間に、ここ。
よろしくて?」
シヴリン
「は、はい…母上様。」
ローチェ王妃
「では、健闘を祈ります。」
王妃は目をキラキラさせ、ガッツポーズをすると部屋を出て行った。
シヴリン
「母上様、なんだか楽しそうだな。」
シヴリンはクスッと笑った。
………………………………………………
朝食を食べるとシヴリンはウィルヘルムを誘ってショッピングに出かけた。
今日は休日で城下町の市場は朝から大賑わいだ。
ウィルヘルム
「シヴリンや、身体は大丈夫かえ?」
シヴリン
「はい、少しは動いた方がいいですし。」
シヴリンの肩でリスのマカルーもちゅちゅっと鳴いた。
ウィルヘルム
「無理をするでないぞ。」
ウィルヘルムが可愛らしい顔で心配そうに見つめている。
シヴリン
「は、はい。先生…。」
シヴリンはドキドキする胸を押さえて、深呼吸した。
ウィルヘルム
「しかし…なかなか人が多いのう。どこへ行くのじゃ?」
シヴリン
「えっと、まずは仕立て屋です。僕がご案内しますね。」
ウィルヘルム
「ふむ、シヴリン、迷子にならぬように、しっかりわしの手を握っているのじゃぞ。」
ウィルヘルムは自分より大きなシヴリンの手を握った。
シヴリン
「…………………はい。」
シヴリンは頬を染めて幸せそうに微笑んだ。
仕立て屋は大市場からは少し離れた路地にあったので二人はすんなりと入ることができた。
ウィルヘルム
「ここで何を買うのかね?」
シヴリン
「先生の服ですよ。」
ウィルヘルム
「わしの?いらんわい、そんなもの。」
シヴリン
「先生、先生のお召しになっているそのローブ、大きいではありませんか。
もっと軽くて動きやすいものの方がよろしいと思いますよ。」
仕立て屋の主人
「そ〜うでございますとも!お客様。
服によって毎日の疲れがまったく違うのでございますよ。
ご自分にぴったりのサイズ、季節にぴったりの布地、
これこそがお客様にとって最高に着心地の良い服でございます。
ぜひ、当店自慢の服を一度お試しください!」
店主はばっと上下セットの服を突き出した。
当然、ローチェ王妃がすでに注文していたのである。
シヴリン
「ね、先生、お試しですよ、お試し。」
ウィルヘルム
「え……ふぉ……。」
シヴリンはウィルヘルムと洋服を試着室に押し込んだ。
しばらくするとウィルヘルムが試着室からこれはいい!と言いながら出てきた。
白いコットンのふんわりした刺繍入りブラウスと、
ふんわりとした薄いグリーンのクロップド丈パンツがとてもよく似合っている。
シヴリン
(うわあ………………さすが母上様……。)
シヴリンは見とれて言葉も出ない。
仕立て屋
「すんばらしい!よくお似合いですよ!」
ウィルヘルム
「ふむ、これは確かに軽くて動きやすいのう!」
シヴリン
「これは、母上様からのお礼だそうですよ。」
ウィルヘルム
「なんと……それならばありがたくいただくとしよう。」
シヴリン
「はい。」
……………
次に二人は手を繋いで噴水広場に向かった。
途中色々な人が癒しの王子様〜とシヴリンに声をかける。
噴水広場には食べ物の屋台がいくつか並んでいた。
シヴリン
「僕、ランチを買ってきますから、先生はここで待っていてくださいね。」
シヴリンは噴水のベンチにウィルヘルムを座らせると薄いパンに色々挟んである屋台を目指す。
ウィルヘルムの隣のベンチにがくんと肩を落とした老婆が一人座っていた。
ウィルヘルム
「ご婦人…どうなされた?元気がないようじゃが。」
老婆
「ここで夫と待ち合わせをしてるんですよ。」
ウィルヘルム
「ふぉふぉ、そうですか。夫婦仲が良いのは良いことですね。」
「ちょっとちょっと……。」
ウィルヘルムの後ろから中年の女がひそひそ声で話しかけてきた。
中年の女
「そのお婆さんの旦那さん、1年前に亡くなったのよ。
それなのに毎日ずっとここで待ってるの。
少し頭が………、ね……、もう。」
ウィルヘルムはそれを聞いて老婆の両手を両手で握った。
老婆の両手から温かいものが流れてきて身体に染み渡っていく。
老婆の目から涙が流れた。
ウィルヘルム
「早く待ち合わせに来るといいですね。」
号泣する老婆をウィルヘルムは優しく抱きしめて背中をさすってやった。
シヴリン
「先生…………。」
両手にピタサンドを持ったシヴリンが微笑んでいる。
ウィルヘルム
「おお、シヴリンか、ランチにしよう。」
老婆に別れを告げると、二人はベンチに座ってピタサンドにかぶりついた。
ウィルヘルム
「ふぉふぉふぉふぉ!これは美味いのう!初めて食べたわい!」
美味しそうに食べるウィルヘルムを見てシヴリンは幸せそうだ。
シヴリン
「先生………。」
ウィルヘルム
「ふがふが…………(なんじゃ)?」
シヴリン
「僕…………先生が大好きです。」
ウィルヘルム
「フォフォフォ……。そうかそうか。」
ウィルヘルムの顔が近づいて、ウィルヘルムの指がシヴリンの唇の横をなでた。
シヴリンの心臓がドキンと跳ね上がった。
シヴリン
「せ、せ、せ………。」
ウィルヘルム
「まったく、いい歳をしてソースを顔につけおって。フォフォフォ。」
ウィルヘルムは指をペロリと舐める。
シヴリンは悶絶して俯いた。
ウィルヘルム
「ん、大丈夫か?気分でも悪いのか?」
シヴリン
「い、いえ……。」
シヴリンの心臓のドキドキはなかなかおさまらなかった。
………………………………………………
ふたりは城のみんなにお土産のココナッツクッキーを買ったり、
雑貨店に入ってお揃いの可愛い子豚のキーホルダを買って、ポシェットにつけたりした。
ぐるぐる歩いているうちに辺りは暗くなって街灯がつき始めた。
ウィルヘルム
「はあ、そろそろ疲れたわい。まだ帰らんのか?」
シヴリン
「先生、実は今夜この川辺で花火大会があるんです。
先生をびっくりさせたくて秘密にしていました。」
ウィルヘルム
「花火?話には聞いたことがあるが、見たことはないのう。」
シヴリン
「先生、こっちこっち。」
二人は大きな川辺のベンチに腰掛けた。
しばらくすると大きな花火が二人の頭上に上がり、弾けた。
ウィルヘルムは感嘆の声を上げて興奮している。
ウィルヘルム
「これは見事じゃ!」
シヴリンも美しさにため息をついた。
そして、ウィルヘルムの手を握り、肩に頭をすり寄せる。
シヴリン
「先生……綺麗ですね。」
ウィルヘルム
「うむ、なんという美しさじゃ。」
シヴリンはさらに肩にスリスリした。
ウィルヘルム
「しょうがないのう、疲れて眠くなったのであろう?
さ、わしの膝で休むがいい。」
シヴリン
「え……。」
ウィルヘルムはシヴリンを膝枕して優しく頭を撫でる。
シヴリン
「ああ…………。」
シヴリンはウィルヘルムの顔越しに夜空に咲く大輪の花火を見た。
弾けた花火が自分に降り注いでいるように見える。
シヴリン
「先生………最高です。」
ウィルヘルム
「そうか……良かったのう。」
ウィルヘルムの顔が見下ろして、満面の微笑みを浮かべた。
ウィルヘルム
「わしはな、お前に感謝しておる。
あの時死んでおったらこの花火は見られなんだ…。
ありがとう、シヴリン。
わしにもう一度人生をくれて。」
シヴリン
「先生………。」
シヴリン
(僕へのお礼に……僕と一緒に生きてください…。
どうか僕だけのものになってください。先生……。)
シヴリンはその言葉を飲み込んだ。
……………………………………
ローチェ王妃
「おかえりなさい。」
コングール王子
「おお、もどられたか。」
城に入ると入口の広間で二人が出迎えた。
なんだかニヤニヤしている。
ウィルヘルム
「花火が綺麗じゃったぞ、お前達も来ればよかったのに。」
コングール王子
「ちゃんと城から見ておりましたよ。」
ローチェ王妃
「あの花火を二人で見た者は結ばれるという噂があるみたいですわ。」
ローチェ王妃はちらりとウィルヘルムを見た。
ウィルヘルム
「わしとシヴリンも恋人同士に見えたかのう。
わしはよく女に間違われておったからのぅ。
じゃが、シヴリンには迷惑な話じゃのう、すまんのう…。」
シヴリン
「め、迷惑なんかじゃありません!
僕、先生と………せ、先生と……!」
ウィルヘルム
「ん……、どうした?」
シヴリン
「先生と、こ…………恋……。」
その時城の入り口の大きな扉がギイイイイと開いた。
プラチナブロンドに白髪混じりのうねった髪、たくましいヒゲ、
歳は60くらいの老齢の男だ。
黄金色の豪華な鎧、頭には星をイメージした王冠を被っている。
この国の王、カイラスだった。
カイラス王
「はっ!」
ローチェ王妃
「陛下!」
王はウィルヘルムを見て固まっている。
ウィルヘルムも目を見開いている。
カイラス王
「そ、その姿は………。」
ウィルヘルム
「ふぉ………カイラス………久しい……。」
カイラスはズカズカと歩み寄ると
ウィルヘルムの身体をがっしり掴んで唇を重ねた。
その場の全員が息を飲んだ。
つづく




