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初恋の方法

賢者ウィルヘルムは夜が明けてもまだ目を覚まさない。


シヴリン王子は結局一晩、賢者の寝顔を見つめてしまった。


背中の中程までの少しくねった栗毛色の髪に


健康そうな肌とピンクの頰。


年は16、17頃に見える。


健康そうだが華奢な体に細い手足。


閉じられているが大きな瞳、長い睫毛、ツンとした可愛らしい鼻。


アヒルのように少しとがった小さいくちびる。


シヴリンにとってまさにドンピシャ。


シヴリンは悶絶した。


(可愛すぎる!!!!!!)


濡れた服を脱がせて身体を拭いて新しい服を着せる、


この日常の行為がめくるめくエロティックなひとときに変わろうとは。


シヴリンは賢者の小さなプリプリの手を握った。


あたたかい。


ちゃんと息もしている、もう大丈夫だろう。


シヴリン

「先生……。先生なんですよね……。

ああ、いけない、僕はなんて失礼な事を考えているんだ。

僕の先生に対して……可愛いだなんて…。」


と言いつつもう一度賢者の可愛らしい顔を見つめる、それをもう何時間も繰り返している。


うう〜んと唸ってウィルヘルムが瞳を開けた。


シヴリン

「先生!」


ウィルヘルム

「シヴリンか…。わしはどうやら生きておるようじゃな。」


シヴリン

「はい!はい!本当に、本当に、よかった……。」


シヴリンは賢者にしがみついて泣いている。


ウィルヘルム

「シヴリン、すまんがわしの身体を起こしてくれんか。」


シヴリンは背中を支えてベッドから起こしてやる。


ウィルヘルム

「うむ…………、もう肺も苦しくない。

あちこち痛かった身体ももう痛みがないのう。

それどころか、なんというか軽い気もする。

もしや、シヴリン…、お前は癒しの力を使ってしまったのか?」


賢者がアーモンド色の大きな瞳でシヴリンの深緑の瞳をグァっと睨みつけた。


シヴリンは可愛すぎる顔で見つめられてドキマギとしている。


シヴリン

「先生、僕、無意識だったんです…。

どうしても先生を失いたくなくて…。」


ウィルヘルム

「まったく、一度にこんな力を使って、お前も死んでいたかもしれんのだぞ!」


こりゃっと言って、賢者はシヴリンの頭を拳で軽く叩いた。


シヴリンは真っ赤になって硬直した。


(せ、先生!なんでしょうか!このモヤモヤした気持ち!)


ウィルヘルム

「どうした?痛かったか?」


シヴリン

「い、いえ………。」


シヴリン

「それより…先生こそどうして病気だって教えてくれなかったんですか?

僕、飛んで駆けつけたのに。」


ウィルヘルム

「シヴリンよ、人はいずれ死ぬ。

わしはもう90。充分に生きたのじゃ。

お前が病を治してくれたとしても、またすぐに身体は眠りにつこうとするであろう。

じゃから………。」


シヴリン

「じゃあ、もう大丈夫ですよね。

先生はもう死にません。

これから先、病気も怪我も全部僕が治しますから!」


シヴリンは賢者の手をギュッと握って自分の頰に寄せた。


ウィルヘルムは自分の腕を見て違和感を感じた。


皺一つない、つるりとした綺麗な白い肌。


ウィルヘルム

「なんじゃ……。」


さらにてのひらを見て驚く。


ウィルヘルム

「わしの手………なのか?」


シヴリンが手鏡を差し出した。


手鏡には80年ほど前に見たはずの、見覚えのあるようなないような若者が映っている。


ウィルヘルム

「…………………………。」


シヴリン

「先生を若返らせちゃいまして………、その…。あ、あの。」


ウィルヘルム

「なんじゃこりゃあああああああ!」


シヴリン

「せ、先生、落ち着いてください!」


シヴリンは賢者を抱きしめた。


ウィルヘルム

「ふむ………。まあ、冷静に考えるとありがたい事じゃなあ…。

シヴリンよ、ありがとう。」


賢者はにっこりとシヴリンに微笑んだ。


シヴリンの心臓が高鳴り、真っ赤顔をして賢者から飛び退った。


そのままシヴリンは両手で顔を覆って心を落ち着かせようと深呼吸している。


ウィルヘルム

「どうしたのじゃ、やはり体がおかしいのではないのか?」


シヴリン

「は、はい……なんだか体が火照って…胸が苦しくて…。」


ウィルヘルム

「それはいかん、お前も私の隣で横になりなさい。さあ。」


シヴリン

「ひっ…………、ひえ……、僕は、朝食を用意して来ますから……!

先生は休まれててください!ではっ!」


シヴリンは真っ赤な顔でキッチンに逃げ出した。


シヴリンはいつもの雑穀米パンとチーズ、濃いめのコーヒーを用意している間も

ドキドキが止まらない。


チラリと賢者の方を見ると賢者の裸が見えた。扉を閉めずに服を着替えている。


シヴリンはまたも悶絶した。


(どどど、どうしたんだ、先生の裸なんて見慣れてるはずじゃないか!

いつものシワシワでシミだらけで骨が浮き出て…………。)


つるりとした綺麗なお尻が扉から見えている。


(うおっ……なんだこれ、なんで僕はこんなに興奮しているんだ…。変だよ…先生だぞ!相手は。)


シヴリン

「ぼ、僕、用事あるんでした!

先生、すみません、また来ます!」


シヴリンは朝食を作りかけで賢者の家から逃げ出した。


乗って来た馬に乗ってスピードを上げて街道まで走らせる。


いつのまにかマカルーが肩の上に乗っていた。


(ダメだ、もう先生の顔がまともに見られない!どうしよう、どうしよう!)


………………………………………………


若返り事件からひと月が経過。


シヴリンは王都で悶々とした日々を過ごしていた。


何かしていないとすぐに賢者の可愛らしい姿が頭に浮かぶ。


賢者を若返らせたことでやはりかなりの力を使ったらしく、


まだ身体がだるい。


色々と物思いにふけっているとけたたましく扉が叩かれた。



兄のコングール王子だ。


コングール王子はシヴリンと同じプラチナブロンドの髪に真っ青な空のような瞳をしている。


体つきはがっしりとして、筋肉が隆々としている。


そうとうな槍の使い手で、軍にも勝てるものはいない。


そのコングール王子は扉をぶち壊しそうな勢いで開けて入ってきた。


コングール王子

「シヴリン! 私の妻が大怪我をしたんだ、助けてほしい!」


シヴリン

「何ですって!姉上様が!」


コングール王子の妻は宮殿の階段から落ちてしまい、足の骨折、身体中打撲、頭痛がある状態だ。


シヴリンは彼女の手を握り目を閉じる。


コングール王子

「頼むぞ、シヴリン。」


シヴリン

「くっ………。」


シヴリンは仰け反って床に崩れ落ちた。


コングール王子

「シヴリン!どうした。」


シヴリン

「兄上…さま…、頭の血は止めました…。姉上様は大丈夫です。

命の危険はありません。」


コングール王子はホッと息を吐いた。


コングール

「ありがとう、シヴリン。充分だ。」


シヴリン

「ですが…、こんな時先生がいらっしゃったら……。」


コングール王子

「先生というのはあの森の賢者のことか。」


シヴリン

「はい……、先生は僕の力を増幅できるのです……。」


コングール王子

「ならばすぐに連れて来させよう。お前はそれまで休んでいろ。」


兄は弟の肩を支えると隣の部屋のベッドに寝かせた。


コングール

「さあ、お前が好きなアイスミルクティだ。飲みなさい。」


シヴリン

「あ、兄上様………、あの……。」


コングール

「ん?どうした?」


シヴリン

「先生が………先生に会うのが怖いんです。」


コングール

「賢者に叱られたのか?」


シヴリン

「い……いえ……、そうじゃなくて……、

先生の顔を見ると…なんだか心臓がドキドキして、

先生に見つめられると……恥ずかしくなって目を合わせられないんです。

先生とお会いする事を考えると…僕は怖くて…逃げ出したくなります…。」


コングール王子は目を見開いて固まっている。


シヴリン

「あ………兄上様?」


コングール

「あ……、えっ…………、むむう………、愛には色々な形がある。

うむ、そうだ!」


ポンっと兄王子は手を叩いた。


コングール

「たとえ男でも、たとえ、70歳の年の差があろうとも……愛は尊い。」


シヴリン

「愛………?あ………愛!!!!!?」


シヴリンは真っ赤な顔で叫んだ。


シヴリン

「そ、そんな……先生は僕にとって第2の父親みたいなものですし……

ああ………そんなはず……ああ……………。」


コングール

「まあまあ、そう思い詰めるな。

恋愛はいいぞ〜、人生が豊かになる。

よし、こうなったら私も手を貸そう!

その賢者がお前にゾッコンになるようにしてやる。

早速、作戦本部を立ち上げような。

兄にドーンと任せておけ!ハハハハハ!」


つづく













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