06 メイドさんに甘えてみよう
「ここに服、置いとくよ」
「ありがとうございます」
《ミッション。『メイドさんに甘えろ』。難易度☆》
服は置いた。あとは着るのを待つだけだ。
「あの~この服はどうやって着たらいいのですか?」
彼女の方を振り向くと、そこには絶景があった。
普通ならこういう場面は、
「うあ~服を着ろ~」とか。
「そんな姿で出てくるなよ!」などと。
そんな馬鹿げたセリフがお決まりだが。
俺は違うのだ。
「ごめん、言ってなかったね」
まずはチラッと見て、説明書を取りに行く。
実はこれも計画通りだ。
「これを見たらいいよ」
「ありがとうございます」
そして、ガッツリと絶景を目に焼き付ける。
まあ、見れるものは見ておくものだ。
彼女は扉を閉めた。
着替えるまでに時間が掛かりそうなので、テレビでも観ることにした。
「これはえっと…。うわ!間違えた」
フフフ…。分かる、分かるぞ! 中で何があるのかがな!
今の俺に分かるものは無い。
彼女はドジで見話せない娘だろう。
俺はこういう娘ほど愛したくなるのだ。
彼女のメイド服を想像しながら楽しんでいると。
「お待たせしました。どうでしょうか?」
そこには絵に描いたようなメイドさんが居た。
天然猫耳とか最高だろ!
「いいね、いいね。ちょっと写真を撮ってもいいかな?」
「いいですよ」
ポケットから携帯を取り出す。
「それがケータイですか?」
「そうだけど。初めて見たのか?」
そうか、この子は外の世界をあまり知らないんだ。
ということは、愛も知らないのか。
これは俺が教えてあげねば。
「じゃあ、撮るよ。笑顔でピースしてね」
「こ、こうですか…」
恥ずかしそうだが、言うとおりにやってくれた。
パシャッと写真を撮る。
この時代のケータイには、即時に写真を印刷する機能がある。
その機能を使い、写真を印刷する。
これは記念写真にでもしよう。
「そういえば君の名前は?」
「私たちに名前はありません」
ふん、これは俺が決めるか。
「僕が決めてもいいかな? 名前が無いと色々、不便だからね」
「分かりました。ご主人様に任せます」
名前を付けるのは、あまり得意ではないからな。
さて、どうしようかな。
「アイナでいいかな?」
「いいですよ。素敵な名前ですね」
こうして、彼女を「アイナ」と名付けた。
さあ、準備は整った。
開こう、天国への扉を。
癒そう、心の傷を。
もう、忘れてしまおう。こんな悲しみは。
これより、『メイドさんにデレデレ作戦』を実行する!
「”膝枕”してもらってもいいかな?」
男ならやはり、膝枕を望むものだ。
しかも、メイドさんにしてもらえるのだ。
これ程、幸せなことはない。
見ているだけでも幸せだがな。
「それでご主人様が喜ぶなら…」
第一関門クリア。
アイナは正座した。
道は開かれた。あとはこの枕で寝るだけだ。
「ふあ~これは幸せだ」
この膝は素晴らしい。
女の子の膝がこんなにもいいとは。
しかし、これだけでは終わらない。
ポケットから耳かきを取り出す。
「耳かきをしてくれないか?」
「分かりました」
アイナは耳かきを手に取り。
俺の耳の中に入れた。
「こ、こうですか?」
「そうそう。そんな感じ」
これはたまりませんわ。
祝福の時間を過ごすこと、15分。
時間はあっという間に過ぎていった。
《ミッションクリア!》
「ありがとう。気持ち良かったよ」
「喜んでいただき、嬉しいです」
時計を見ると丁度、正午だった。
「お腹空いてない?」
「空きました。もうペコペコです」
「そうか。一緒に食べに行こうか」
携帯を取り出し、周辺の店を調べる。
だが、この辺りにはラーメン屋ばかりだ。
あの時のように魂が抜けている場合なら食べられるが、今は無理だな。
「アイナは何が食べたい?」
「寿司という食べ物が食べたいです」
「寿司か…」
携帯で寿司屋を検索してみたが、この辺りにはなく。
さらに検索範囲を広げてみると、隣町に一軒だけ回転寿司があった。
本当は普通の寿司を食べさせてあげたいが、調べてみると50㎞も先だったので諦めた。
「ところで、その耳と尻尾は隠せるかな?」
「尻尾は可能ですが、耳は…」
俺は耳も尻尾も好きなのだが、この時代の人間は獣人を嫌っているからな。
隠さないといけないのだが。
そういえば、メイド衣装とともに注文した黒のマリンキャップがあったな。
「ちょっと待ってて」
マリンキャップを取りに行った。
「これを被るといいよ」
アイナにマリンキャップを渡した。
「分かりました」
そう言い、マリンキャップを被った。
「うん、似合っているよ」
タクシーを呼び、寿司屋に向かう。
タクシーの中でこんな会話をした。
「実は、僕の実家は寿司屋なんだよ」
「そうなんですか」
「まあ、寿司は握れないけどね」
「ご主人様の寿司が食べてみたかったです…」
「また、練習しておくよ」
少しでも会話をして、いち早くアイナの緊張を解いてあげたいのだが。
ところで、何故こんなに寿司屋が少ないのだ?
もしかして、この時代では寿司はオワコンなのだろうか。
そんなことを考えていると、寿司屋の前に着いていた。
料金を払い、タクシーを降りる。
寿司屋の中に入ると、ロボが居た。
この店も全てロボがやっているのか。
「何名様ですか?」
「2人だ」
「では、あちらの席で」
俺たちはロボに指定された席に向かった。
「ふぅ…。やっと、まともな物が食べれる」
そう思いながら、席に着いた。
アイナも席に着いた。
「さて、何があるかな…」
牛、豚、羊、ナス、卵…。
何故、魚介類が無いのだ?
メニュー表を確認してみると、鮪があった。
しかし、驚愕の価格。一皿5万円。
こんなときに限って6万円しか入っていない。
だが、アイナには魚を食わしてあげたい。
「よし、鮪を頼もう」
こうして、鮪がやってきた。
「アイナ。食べていいぞ」
「え?いいんですか?」
「他も好きなだけ食べな」
「では、いただきます…」
それからも色々食べていき、6万は消えた。
「すみません。ご主人様は何も…」
「いいさ。俺のことは気にするな」
ちくしょう。10万は持っていけばよかったな。
タクシー代も無いので、歩いて帰ることになった。
ようやく、家の前に着いた。
「すまんな。俺が無能なせいで…」
「気にしないでください。お寿司は美味しかったですよ」
「喜んでくれてよかったよ」
扉を開け、リビングに向かった。
ポケットの携帯から振動が。
取り出してみると、電話がきていた。
相手はいつもの老人だ。
「もしもし、俺だが?」
「お前を異世界に連れ戻す!」
老人はイライラした口調でそう言った。
これは面倒なことになる予感…。