03 友達を作ってみよう
まさか、いきなり最低ランクとは。
こんなことがあっていいのだろうか。
そんな憂鬱な気分で教室の扉を開いた。
そこには正気が一切無く、どんよりとした空気が漂っていた。
まるで魔境だな…。
まあ、誰でも最底辺からのスタートは嫌だが。
俺はこの雰囲気には屈しない。そう決めた。
とりあえず、席に座ったのだが。
何も無い、誰かに話しかけようにも全員顔が死んでいる。
誰でもいいからこの雰囲気を壊してくれ。
「い、一発! 面白い事言います!」
一人の男が立ち上がった。
何の特徴も無さそうな平凡な男だった。
しかし、誰も見向きはしない。
何なんだこの教室は。
もしかして、この時代では皆こんな感じなのか。
「ふ、布団が吹っ飛んだー!」
恐るべき勇気だ。
これには拍手をしたいところだが…。
「アイスを愛す!」
もう辞めてくれ。お前は十分頑張った。
こいつは頑張ったが、教室の雰囲気は変わらない。
諦めて男は座り込んだ。
可哀想だったので少し話してあげることにした。
俺は男の席の前に言った。
「お前はよく頑張った」
「誰だお前? 冴えない顔してんな、ザ・童貞って感じ」
誰が童貞だ。そういうお前こそ彼女いない歴=年齢と同じですって感じだがな。
「今、俺の事を彼女いない歴=年齢と同じと思っているな」
こいつ俺の心を…。
「ふん、さっきは『今日はいい天気だな』って思っていたのさ」
まあ、嘘だけどな。
「まあ、嘘だけどな」
「うっ…。これも気付かれた」
「岡野 司。2006年生まれ。元異世界転生者。好きな食べ物は豚カツ。好きな音楽はクラシック」
「お前は何者だ?」
こいつ俺の情報を正確に当てている。
これも『開発能力』か。
「僕は『ダークアラン3世』。この世界では漆黒のゲーマーである」
「細かいことは聞かないでおこう。お前の能力はなんだ?」
「『心読』だよ。心を読み取るのさ」
これはいい能力だな。
そういえば、異世界時代の友人にも似たような能力者が居たな。
「あとは物を動かす能力、水を凍らせる能力などもあるよ」
「分かった。魔術師だな?」
「まあ、そうだね。」
魔術師か…。あまりいい思い出はないな。
「魔術師なら魔術学校に行けばいいじゃないか」
「僕は君に会いたかったんだ」
未来予知か…。
「まあ、312歳の高校生が友達が居たら面白いじゃん?」
「君! 312歳なの!?」
いきなり後ろから大声がした。
「すまないが大声で言わないでくれ。鼓膜が破れる」
「えぇ!そうなの! 君は大丈夫?」
実際、この程度なら大丈夫だがな。
もし、破れたとしても俺の場合は瞬時に再生できる。
大声を出したのは金髪の美少女だった。
身長は小さく、目が青く、赤いベレー帽を被っている。
「そんなことより312歳って何?」
「なんぢはたそ(お前は誰だ)」
「私は『エリン・オールストン』。気軽にエリンって呼んでね」
出来ることなら隠し通したかったが、こいつら相手では隠せる気がしない。
仕方なく、ここまでの経由を話した。
「ほえ~そんなことがあったんだね」
「まあ、私は知っていましたがね」
「そういえばお前らも『開発能力』なのか?」
「私は純正の魔術師ですよ」
「エリンは本物の人形師よ」
こいつらは俺と似たような感じか。
「他にも非開発能力者が居るのか?」
「この学年では私たちだけですよ」
他は『開発能力』の手術を受けたが、能力があまり発生しなかった者か。
「まあ、似た者同士だ。これからもよろしくな」
「ねぇ~皆で電話番号教えあおうよ~」
「いいですね。私の電話番号は…」
こうして2人の友人ができた。
この絶望の底に小さな希望ができた。
「お前ら席に座れー」
教師が入ってきたので、席についた。
そして、定番の自己紹介が始まった。
こういうのは普通が一番だ。
「ダークアラン3世です。顔が可愛くて背が低くて胸のでかい彼女キボンヌ。あとは養ってください」
お前には一生縁のないことだな。
「エリン・オールストンだよ♡気持ち悪い豚な男は死んでね♡」
ハハハ。こいつ終わったな。
よく分からないが、圧縮した空気の玉を投げた。
「へぶっ!」
玉はエリンの後頭部に命中した。
「岡野 司です。よろしくお願いしましゅ」
やってしまった。こんなところで噛むとは。
運が良かったのか、悪かったのか。俺のミスに気付いた者は居なかった。
「はぁ…暇だ」
自己紹介を終えて一気に暇になった。
一番終わったと思ったエリンが一番好かれている。
エリンの周りには無数の男たちが群がっていた。
「あのダーク何とかって奴きもくね?」
ダークアラン3世(仮)は当然、女子に馬鹿にされていた。
「おい、ダークなんとか! お前すげぇな。尊敬するぜ」
男たちはあいつを尊敬していた。
「静かに! 今は瞑想中だ」
「すみません。師匠!」
あいつはいつから師匠になったんだ。
まあ、活気の溢れるクラスになって良かった。
こういう高校生活も悪くないな。
そう思った…。