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17話

 俺には今1つのスキルがある。アイーシャ直伝の「魔技」を操るソードスキル。



「ナタリー、少し耳を……」


 そして俺と「閃熱のナタリー」との戦略会議は始まった。




 アイーシャ視点。


 勇者さまたちが捕縛されたらしい。

 心の中は、疑惑と混乱でいっぱいだった。彩石を盗んだ? ありえない。そもそも僕らは鉱山に入ってすら居ない。新たに仲間に入ったナタリーという女性が居たが、彼女が……。それもありえないだろう。ならば、誰かに一杯食わされたのだ。

 僕らのパーティをスケープゴートにして、逃げようとしている輩が居る。

 ……だけど。

 その犯人捜しは、今のところどうでもよかった。

 勇者さまたちを、助けなければいけない。「聖竜騎士団」は「グレー」の犯罪者を見逃すような、甘い連中ではない。白くなければたたき切る。清廉潔白でなければ、全て切ってすてる。その信念は己らだけでなく、犯罪者にも強いられる。

 その結果、恐れられようと。

 その結果、憎まれようと。

 彼らはその信念を曲げるつもりはない。だからこそどの国にも所属することなく独立した傭兵部隊としてやっていけるのだ。信用されているから。


 僕は走っていた。鉄の町。この町には2通りの道がある。1つはこの町を訪れた人が売買するための店が並んだメインストリート。もう1つは、裏通りとも、むしろこの町の「表通り」ともいえる場所。

 この町に住んでいる人間が全て商いや、鍛冶に携わっているわけではない。その裏に居る鉱山で働く連中や……宝石売買を取り仕切る黒い集団、そいつらが好んで住んでいるのが、裏通りだった。

 恐らく、聖竜騎士団はここに居を構えているだろう。表の宿屋ではなく。こっちならば、誰も「隣人が誰であるか」なんてことを気にしない。殺人犯だろうが、強盗だろうが。金さえ払えば、そいつは上客なのだ。


「いてえなあ!」


 一人の酔っぱらった男とぶつかる。


「すいません」


 僕は手短に謝罪を口にして。

 その場を後にしようとしたが――。


 男は僕の全身を、上から下まで、舐めまわすように観察すると。



「へへ、かわいいじゃねえか。

 いくらだ? 持ち合わせはあるんだ」


 と、しょうもないことを言ってきた。



 埒が明かない。

 ここで斬って伏せるのは簡単だったが、それでは余計に一目を引いてしまう。

 ……それでは、一人で来た意味がない。

 僕は鞄の中に手を入れて、ペンダントを――「聖竜騎士団」の彫刻が施されたペンダントを探した。


 ……ない。


 こけおどしみたいなものだが、この手の輩には騎士団の威光が効果があると思って、持ち出したはずなのに。

 ……宿屋に忘れてきただろうか。


 仕方なく、僕は腰の剣を抜く。

 実力で圧倒されるような相手ではない。一瞬で終わらせ、たどり着かねばならない――。


「踊れ、」


 しかし僕の言葉よりも先に。

 その男は白目をむいてその場に崩れ落ちた。


 ……その後ろに立っていたのは。

 白い甲冑に、蒼い紋章。短い銀髪。かつての知り合いギースハルトだった。


「久しぶりだな」

 彼の変わらぬ声に。

 僕は首を振る。

「死んだことになってるはずだよね?」

「エメルとブリュレ。双竜の騎士の物語は、今もなお聖竜騎士団の語り草になっている。

 姉は弟を思い、自ら命を絶ち、姿をくらませた」

「そう。エメルは死んだ。今はただのアイーシャだ。それ以上でも、それ以下でもない」

「続きがある。

 残された弟には、団長から難題をつきつけられた。対戦者不在で、繰り上がって入団したわけだからな。そもそも入団の儀式も、最終的な人の情けを消すためのものでもある。

 アイリスの課題は1つ。姉を探し、殺すこと。

 それまで騎士団への加入を認めない。たとえ実力をつけ、副団長に匹敵するほどになったとしても。俺らがいくら認めても、団長は認めてくださらない!」


 その言葉の1つ1つが――。

 僕の胸に突き刺さる。

 彼のためにとやったことが。



「あいつと立ち会ってもらう。

 おそらく今なら――アイーシャ、お前が生き残る確率なんてないだろうが」



 ぎい、と扉を開けて。

 現れたのは正義の使者。

 ではなくて。

 ……僕の片割れ。

 アイリス。

 同じ顔。

 同じ体。

 同じ運命を持ち。

 聖竜のもとで、たもとをわかれた、僕の片割れ。



 その切っ先が、僕に突き付けられた。



 僕は、まだ。

 死にたくない。

 なぜ?

 ……。

 僕にはまだ、やり残したことがある。

 勇者さまを。

 彼を。

 無様で弱くて。

 みじめで見栄っ張りなあの男を。

 見届けたい。

 きっと、彼のことが好きなんだ。



「『踊れ、妖精の剣!』」



 その声は、頭上から響いた。



 マホト視点。



 俺とナタリーは、天井裏からアイーシャたちのやり取りを注意深く見守っていた。


「あいつと立ち会ってもらう」


 男がそういって。

 入口から、アイリス――アイーシャとうり二つの姿をした、中身は正反対の人物が現れる。

 どうする? 倒せるのか? この作戦でうまくいくのか?

 俺とナタリーは思いつく限りの事態にそなえて、打ち合わせをしたが。


 それでも、確信はもてない。

 ……アイーシャを救い、俺たちも無事に逃げ出すという確信が。




 アイリスが冷たい視線をして、その切っ先をアイーシャに向ける。

 それを見て。

 俺の全身が、ふっとうしたかのように熱くなる。

 今だ。

 今しかない。

 俺の時間は。

 後にも先にもなくて。

 今この瞬間にしか、ないのだ!



「『踊れ、妖精の剣!』」


 俺の声に呼応して、凝集した真空の剣がアイリスに襲い掛かる。「フレアボム!」続けてナタリーが短い詠唱の炎呪文で、追撃する。

 ぎぎぎぎ、と音を立てて、アイリスが俺の技をさばいている。隣に居る男がナタリーの魔法をはじき返すのを、視線の脇に捉える。


 アイーシャは、その光景を見て。

 魂が抜けたように、つったっていた。


「どうして、勇者さま」

「助けにきたんだ! 話はあとだ! 行くぞ!」

「はは、夢みたい。僕が守ろうと思ってたのに、守られるなんて。

 でもダメなんです。僕じゃ勝てない。僕らじゃ、かなわない!

 僕が行きます! それであなたが救われるなら!

 あなたを救うことで、この命に価値が出る。

 弟を救えなかった僕にも、勇者さまを生かしたことに意味がある!」

「うるせえ!」

 俺は二度目の「妖精の剣」をアイリスに向かって放つ。

 ……。

 全身から力が抜けていく。

 俺の体力が枯渇していくのが分かる。

 おそらく、三度目は打てないだろう。


「セイント!(閃熱)」

 ナタリーの魔法が、あたりをまぶしく照らす。


 これなら!

 剣で勝てなくても。

 魔法が届かなくても。

 目くらましぐらいなら。



 ……。

 けれど、その俺の淡い期待は。

「踊れ、エルフの使い魔」

 アイリスの冷たい声で、かき消された。



 耳元で、「何か」を切り刻む音が聞こえた。

 空気が、何かを。

 何かから、血が噴き出して。

 その中には俺の身体の一部も入っているらしい。

 全てがスローモーションになっていき。

 確実に俺の寿命が欠損していく。



 俺は少しずつ動かなくなる身体を必死に動かして。

 崩れていく、アイーシャの身体を抱き寄せた。

 今は、こうするしかない。


「アイーシャ、ごめんな。

 目を覚ましたら、また謝るよ。

 次に会うまで、怒っててもいい。許してくれなくてもいいから」


 そしてアイーシャの胸に触れる。



 なんだ。

 ……ちゃんと女じゃないか。



 俺の頭の中に「」と「」が産まれ、「」の中から「」を選んでいく。選択の瞬間はすべての時間が止まり、いつもの神様が「これで二人目だ」とささやいた。うるせえ、役立たずの神様。俺が本当に欲しいのは、こんな能力じゃなくて、こんな……こんな!



「位相転移!(テレポテーション!)」



 俺の「スキル」によって、アイーシャの身体が分解され、「ここではないどこか」へと瞬間移動する。それが俺の能力だ。行く先がこの世界の果てなのか、それとも異世界なのか、次元の狭間なのか。そこまではコントロールできなかった。俺の願いは1つだけ。「アイーシャに危害が加わらない、安全な場所」だ。

 願わくば。

 もう二度と会えなくても。

 俺のことを許してくれなくても。

 小柄ながらも、頼りがいのある師匠が。

 けっして敵に切り刻まれぬ場所に居ますように。






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