間話 終
間話。
聖竜騎士団には試験がある。
1つ目は、ゴリアテ山脈で過ごすこと。
……2つ目は、ともに過ごした仲間と「試合」を行い、勝利を手にすること。
ここでおよそ半数がふるい落とされる。聖竜「騎士団」とは名ばかりの、傭兵集団である。もし仲間が相手方に回っても、ためらいなく刃を持てるように。……人としての最後の良心の欠片を捨て去るために、その儀式は存在する。
ブリュレとエメルは目を見張るほどに強くなった。ともに才があると、トワライトは確信した。その二人に最終試験のことを説明できないままに、いたずらに日は過ぎて……試験日が近づいていた。
対戦相手は抽選で決まる。
だから二人が試合を行うと決まったわけでは、ない。
ないが。
今年の「儀式」に参加しそうなのはおよそ6人ほど。そのうち一人はすでに体調を崩し、辞退を申し出ている。一人は腕は立つが臆病者で、ルールを聞いた瞬間に相手の不戦勝となるだろう。
4分の1.
そう低くない確率だ。
その冬、珍しく「ブレイズドラゴン」がゴリアテ山脈に姿を現した。10年に1度、産卵のために帰郷すると言われている。その際に山脈にある栄養のある果樹を食べ、英気を養う。龍種しか食せないと言われた「ドラゴンフルーツ」を求め、ブレイズドラゴンはこの山脈を訪れる。
俺はーー。
トワライトは悩んでいた。
二人は、ともに天から与えられた才能がある。
ここでからしてしまうのはもったいない。
いずれは、俺の下に。
いや、団長クラスに育って欲しい。
それは子がいないトワライトの、親心のようなものでもあった。
○
計画はうまくいったはずだった。
「ドラゴンフルーツ」を、こっそりと夕食のスープの中に忍ばせる。ごく少量であれば、命に影響はない。……悶えるほどの腹痛に苦しむことになるはずだったが。
その間に、残った門徒たちにルールを説明し、そいつらで優劣を決めればよい。
二人の選考は、来年に回せばいい。
……そのはずだった。
しかし。
トワライトが道場で待ち構えていると、現れたのはブリュレとエメルであった。
「……お前ら、どうして」
「みんなお腹が痛いというので。
大事なお話だと聞きました」
ブリュレが首をかしげる。
誰が。
誰が失敗をしたのだ?
そしてトワライトは。
痛む胸で。
「試験内容」を二人に伝えたのだった。
二人は話を真剣な眼差しで聞いたあと。
顔を見合わせ、頷いた。
「これでようやく確かめられるな」
言ったのはエメル。
「手加減するなよ」
答えたのはブリュレ。
二人は互いが自分の勝ちを確信して。
揺るぎない。
けれどその決意が、今のトワライトには眩しくて、見ていられない。
○
空気が乾燥している。
今年もまた、雪が降りそうだ。
ブリュレは、話を聞いて以後、道場に姿を見せないでいた。
エメルだけが熱心に道場に通い、稽古をしている。
けれどその熱心さに反比例して。
エメルの剣は精彩を欠いていくようだった……。
ある日、トワライトはエメルに呼び出された。
冷え冷えとした空気の中、道場を戸を開けると、エメルが正座をしている。
「……最後の稽古をしてきただきたく思います」
「負ける気か?」
「負けたくはありません」
可愛げのあるやつだ。
そう思ってトワライトは、木刀を手にする。
エメルは立ち上がる体力もなく、床の上に転がっていた。
「どうだ、勝てそうか」
トワライトの声に。
エメルは微かに鼻をすする。
「勝つでしょう。団長。
僕は」
冷え冷えと。
道場の外に、雪が降っているのが見て取れる。
「僕は女です」
「……」
「この日が来ると思っていました。
「聖竜騎士団」は女人禁制。いつか居られなくなるだろうと。
ブリュレはどこかで、じっと息を潜め、時を経つのを待っています。
……僕は彼に勝ちを譲ります。そして、ここを去ります。
勝ったところで、居られないのだから」
「待て!」
お前は。
何のためにーー。
いつのまにかエメルは道着を脱ぎ捨て、一糸まとわぬ姿になっていた。
透き通るほど白い姿。
その胸はうっすらと膨らみを帯び。
あるべきものはついていない。
内股からは血が流れている。
「もう男で居られる時間は終わりました。
嘘を追究するのであれば、どうぞご随意に」
「嘘だ。嘘だっ!」
じゃあお前は何のために。
剣をふるっていた。
負けじと。
来る日も、来る日も。
「僕が女であると知れていたら、殺されていたでしょう。
よくて娼館に売り飛ばされていたか。
双子であることを利用して、僕らは性別を偽ることを思いつきました。
そのおかげで、ここまで生きながらえることができました」
「俺は認めない」
「今まで、お世話になりました」
「待て、アイーシャ!」
「お世話になりました」
叫び声は、暗闇にかき消され。雪に飲み込まれていく。白い雪はすべてを押しつぶし、……塗りつぶしていく。
そしてまた、冬が来た。




