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かもんバーニィ

  キールと白井家一同が互いに自己紹介を終えたところで、メリィがようやく落ち着きを取り戻す。


「迷宮の主も倒したし、さっさと迷宮から出ましょうよ」


 主の撃破後は、帰還の魔法陣を作成することができるとの事だ。楽して戻れるね。やったね。


「……主の撃破後は、迷宮の管理者から報酬がある」


  キールより誰が倒したのか、という問いに、朱莉義姉さんが眉を寄せる。


「報酬は、宝杖アーティア、英霊薬フォドンアルフ、虹水晶、泡沫の水衣」


 朱莉義姉さんが唐突に謎アイテムを諳んじると、ぽんっっと擬音が聞こえて、宝箱が出現した。


「我は杖をもらおう!杖を!」


「わぁ、この服すけすけだよすけすけ!」


「怪しい薬ね」


「に、虹水晶!初めて見た!」


  宝箱を開き、ハイエナのように群がっていく。ナチュラルにメリィさん混じってませんかね。急に宝箱が現われたこととか、迷宮の管理者に関してはスルーなんですね。わかります。


神々の異物(アーティファクト)をこうも簡単に手に入れるなど、全く漂着者という存在は……」


多分ものすごくレアな感じのアイテムたちなのだろう。おいそれとは手に入れることはできないような危険物なのかもしれない。


「……帰還の魔法陣を用意する」


  哀愁漂う背を向けて、キールがなにやら詠唱を交えつつ、手を動かす。 キールを中心に、大小様々な魔法陣が浮かび上がって、組み合わさる。単純に光の玉が浮かぶ明りの魔法とは異なり、幾重もの魔法陣が組み合わさる様はものすごい魔法っぽかった。


「うおおおおおおおおお!」


 義父が感動で震えていた。よだれでてますよ。


帰還魔法陣(デール)設置」


 キールが手を軽く振り下ろすと、宙空に漂う魔法陣が地面に吸い込まれるように消える。その地面には、宙空で浮かんでいたものと同様の魔法陣が、淡い緑の光を仄かに揺らめかせて、描かれていた。うん、義父のなんちゃって魔法とか目じゃないな。すごいかっこいい。


「く、くくく、詳しく、くわわわ」


 義父さん人の姿がぶれてますよ!


「全員、魔法陣の中に入ってくれ」


 キールに言われるままに、白井家一同とメリィが魔法陣の中へと入る。最後に、キールが魔法陣へと入って、なにやら詠唱を開始すると、淡い光が輝きを増す。なにやらオーラのようなものがぼわーと、魔法陣の淵から浮かび上がって、ドーム上に広がる。義父が手を伸ばして、オーラに触れようとするのを例のごとく、朱莉義姉さんが、物理的一撃で止めて、視界が緑色の輝きに包まれた。


 

 一瞬、意識が飛んだ錯覚がして、気付けば、景色が変わっていた。草原が広がっており、整備された土の道が伸びている。やや傾斜があるのか、視界のずっと先は、小さな丘のようになっていた。ふと、空を見上げれば、水色で、太陽が一つ、雲がたくさん。


 空の色が紫で怪鳥がげぇげぇ飛んでいるようなこともないし、魔王とかいう異世界のテンプレの所為で、陽の光が届かず、魔物が跳梁跋扈しているという裏世界的なものでなくて良かった。


 それにしても、身体がやけに重い。


「お義兄ちゃん、暖かい」


 背中にはりついている真央を引き離す。周囲を眺めると、朱莉義姉さんはしゃがんで、草原の草を調べていたり、義父がゾンビのごとくキールへと迫っているところであった。あれ、メリィがいない。


 ピィィィィィィーーーーーーー!


 と、やや高めの笛?の音が耳に聞こえた。音のほうへと振り向くと、メリィが、口元にえんぴつほどの筒状のものを沿えている。どうやら、あれが音の正体のようだ。一体、何だろうか。


「ああ、これは疾走獣を呼ぶものですよー」


「動物!?可愛い系ですか!かっこいい系ですか!きもい系ですか!」


 生き物大好きの真央がすぐさま反応する。メリィがなにやら怯えつつも説明し始める。


「疾走獣は、簡単に言えば、乗り物です。多種多様の種が居ますが、今回乗ってきたのは、二つ足の早兎(ラピッドバニィ)ですね」


 普通の兎は四足で、大きさ的に乗り物には適していないはずだけど、異世界だったら仕方がないね。


 暫く待つと、砂埃をあげて疾走する影が二つほど見えた。近づくにつれて、徐々にその大きさが露になっていく。


「でかっ!」

 

 縦は二メートル強、横幅も1メートル半はあるだろうか。ずんぐりむっくりといった風体の白い塊だ。頭頂部から垂れるだらりとした耳をびゅんびゅん振り回し、短い手足で地面を蹴って疾走してくる。


 一般的な兎のイメージであるぴょこぴょこと可愛らしい擬音が聞こえてくることはなく、地面が抉れんばかりのズドドドドといった凄まじい勢いだった。


 二匹の白い塊が滑り込むように、ブレーキを掛けて、メリィの前で止まった。もくもくと足元から巻き上がる土ぼこりがどこか特撮の登場シーンを思わせる。


 どこに顔があるのかわからんぐらいもさもさの白い毛から、なんだか得意気な鳴き声が聞こえる。


『ムィ!』『ムィ!』


「か、かわ、かわ、かわわわ!」


 真央さん人の姿がぶれてますよ!


「これ、どうやって乗るの?」


 朱莉義姉さんの最もな質問に、メリィが兎の体内にめり込んでいった。何を言っているのかわからんと思うが、完全に其の姿が見えなくなったと思ったら、顔だけが毛の中から出てきた。


「早兎は毛深いですからこうやって中まで入って、背中に乗ります。毛に隠れた身体には突起があるんで、そこを掴んで頭の上に乗るのが一番安定はしますね。景色も見えて爽快ですよー」


 真央がとても早い動きで兎に飛び込み、頭の上に陣取った。順応性がありすぎる。朱莉義姉さんは、メリィと真央の早兎に乗り込む。俺と義父は、キールと共に、もう一体の早兎に乗ることにした。


 もふもふの毛に入り込むと、確かに身体にでこぼこした突起があるのが分かった。そこに足を掛けて、頭の上まで昇る。とても良い眺めだ。しかし、確かに安定はしているが、さっきくらいの速度が出るとなると、万が一にも落ちる危険性はあるのではないか。


「……不安ならば、耳が乗り手を固定する」


 キールが言うや否や、ぐるんと早兎の耳が俺の身体を優しく巻いてくれた。


『ムィ!』


 もふもふの毛の感触がとても心地良い。頭を撫でて、礼を言っておく。


「それで、ここからどこに行くんですか?」


「……魔法都市ベルベットだ。我々魔法省の本部がある」


「魔法都市!!!!!」


 義父のテンションがうなぎのぼりである。生憎と、こちらの早兎には朱莉義姉さんは居ないので、義父の暴走には歯止めが利かない。


 そんなの関係ないといわんばかりに、早兎がのしのしと歩きだす。先ほどの加速とは打って変わって、ゆっくりとした足取りだった。


 これならば、別に耳で巻いてもらわなくても大丈夫そうだな。


「キール殿!魔法について教えてくれたまえ!!!!!」


「……構わないが、貴方は乗り物には強い方なのか」


「うぬ?」


『ムィ!』


 義父の間の抜けた声が聞こえた後、早兎が本気をだした。


「おおわああああああああ!!!!!!!!!!」


「ぬおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」


 早兎の加速、舐めてました。






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