ポッキリなベイベー
「小さくなれ!」
漂着者の青年、白井定夫が何かを使用して、建物を小さくした。多分、漂着物、それも変質したもの扱ったのだろう。今思えば、確かに、鑑定能力が発現したようなことを言っていたが、まさか変質した漂着物の解析が可能などとは思わなかった。
異世界の物が変質したとしても、その用途などを詳しく理解することは、常識では考えられない。漂着者仕様の異質な特異能力。
メリィは内心で驚きつつも、直ぐに安全確保のため、定夫へと駆け寄った。
「よしっ!成功だ!」
「よしっ、じゃあないですよー!何勝手なことをっ!?」
しないようにと、メリィが注意の言葉を告ぐ前に、建物のあった場所からとてつもない魔力が吹き上がった。
「これはっ!?直ぐにそこから離れて!!!!!!」
一瞬の内に地面が窪み、天を衝くほどの大木が地面からせりあがる。その色は眩いばかりの黄金色。
「定夫!」「なんじゃこりゃ!」「お義兄ちゃん!」
定夫への注意は、間に合わず、その姿は巨大な魔物に飲み込まれて消えていた。
黄金樹。木型の魔物中でも、最大種の魔物であり、世界樹に近い魔力を保有し、あらゆる属性の上級魔術を使用するといわれる。さらに、高い属性耐性を持ち、オリハルコン並の強度を持つ。金獅子クラスの化け物のはずだ。
実際に遭遇したことはないが、メリィは、目の前の巨大な魔物に対して、とてつもない重圧と外見によってそう判断した。
「この迷宮のボスは、鬼面大樹のはずでしょ!?」
晴光の森迷宮は、中位の中でも確かに、危険度は高い方である。しかし、目の前の化け物が生み出されるほどの魔力を保有していたなどという話は聞いたこともなければ、感じることもなかった。
「さっきの道具が原因で!?いやでも、ああ、もう!」
「このデカブツがぁ!」
「ちょ!?」
一旦思考と中断して、メリィは、今にも黄金樹にかけ出そうとする白井家長女、朱莉を慌てて羽交い絞めにして止める。
「離せ!!!!」
家族の中心にして、質疑応答では表情さえも変えなかったのに対して、今の朱莉は殺意さえも感じられるほどに激昂していた。
「定夫を助けないと!」
「冷静になって!貴方が向かっていっても無駄死にですよー!」
朱莉の今にも飛び掛らんばかりの勢いに、気圧されそうになるのを必死に声を高めてメリィは嗜めた。
家族が危険に晒されていれば、多少冷静さを欠くのも仕方がない、と考えるにしてもこの状況は不味い。
黄金樹を倒すことはできない。少なくともメリィの力量ではまず無理だった。
(先輩なら………)
これだけ巨大な魔物が出現したのであれば、現場に向かっていることだろう。
はたして、目の前の黄金樹を打倒する能力を今、現在発揮できるかどうかは疑問であるのだが。
「死んだっていいから、定夫を助ける!」
「ま、待ってって言ってるでしょうー!」
朱莉の体格はメリィよりも大きいにしても、同じ女性だ。メリィは荒事も多少はできるほどに鍛えてあるし、力もそれなりに高いはずだった。
(なのに、なんでこんなに力が強いのー!)
メリィが全力で羽交い絞めしてなおも、朱莉は目の前の化け物へと進んでいこうとする。それを遮るように、漂着者の妹、真央が立ち塞がった。
「お姉ちゃん、ハウス!」
「冗談を言っている場合じゃ「つべこべ言わずに、妹の言うことを聞きなさい!」ッッッ!?」
朱莉の声を遮るほどに、確かな声量を持って、真央が命令した。
びくっと身体を震わせて、朱莉の身体から力が抜けるのがわかった。妹の一言で我に返ったのだろう、メリィが朱莉への拘束を緩めて、真央を見やる。
嫌な汗が吹き出た。
朱莉の前に立つ真央は、何故か薄ら寒さを感じさせる満面の笑顔が張り付いていたからだ。
「お義兄ちゃんなら大丈夫だよ?」
「で、でも!」
「大丈夫、ダイジョーブ」
真央は、淡々と同じ台詞を何度か繰り返す。見た目はにこにこと可愛らしい笑顔に反して、目の前の少女から、気味が悪いほどの重圧を感じた。ある意味で、黄金樹よりも怖い。何故か、分からないのに、恐怖を感じてしまう。
(な、何なのよこの漂着者達は!?くそっ黄金樹の魔力も上がってるし!)
ホオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!
木型の魔物独特の不気味な咆哮と共に、魔力の増大。何らかの上級魔術を行使するのだろう。メリィは内心で舌打ちをした。
「祖は、永劫を焼く焔の化身――」
「えっ!?」
はっきりと、魔術を詠唱する声が聞こえ、咄嗟にメリィは朱莉から身を翻して、周囲を見回す。
「真紅に染まり焦熱を齎す力を纏め――」
白井家面々の中でも、親の立場ながら何度も何度も朱莉に、制裁を加えられる姿を見た。
メリィは内心で、情けない人物であると、どこかで侮ってしまっていた。
そんな白井家の父、白井克から、ありえないほどの魔力の増大を感じる。奇しくも黄金樹の咆哮と共に、感じたものと同等かそれ以上の力。
(は、はぁ!?あんな詠唱聞いたこともないよ!?)
メリィは叫びそうになるのを飲み込んで、未知の詠唱術の行方を固唾を呑んで見守った。
こんな状況であるのに、安全よりも好奇心が勝ってしまうことに対して、メリィ自身申し訳ないと思いつつも、心臓が高鳴る。
「一匙の灰燼にて断罪―――」
詠唱が終わる前に、青い光が、迷宮を覆った。
「まぶしっ!!?」
対象が大きいからだろうか。懐中電灯もといス○ールラ○ト?から青い光が迸る。巨大な何かを光が包み込む。ゆるやかに景色が下降していく。もしも、一気に小さくなったりしたら、このまま地面に落下して、挽肉になるのですね。わかります。
頭に過ぎった結末にびくびくしつつも、巨大な何かは抵抗することもなくゆったり小さくなっていく。
家と同じ大きさまでになると、家族の姿も見えた。何で朱莉義姉さんがメリィに後ろから羽交い絞めにされているのだろうか。とりあえず、巨大な魔物、もとい、小さくなりつつある魔物から頃合を見て飛び降りる。
きっちりと二の足が地面に付いてるっていうのは安心するなあ。
「定夫っ!大丈「お義兄ちゃん!」
朱莉義姉さんが何かを言う前に、真央が突進してきたのを見て、軽く横に避ける。真央は、全力でホームに帰ってきた野球選手のように頭から地面に転がったが無視しておこう。
「ふふふふははははは!」
義父は盛大に笑っている。何も被害がなさそうでなによりだ。
「っ!?」
メリィが眼を見開き、絶句している。何故、朱莉義姉さんを拘束していたかはわからないが、何かひと悶着でもあったのだろうか。
「みんな大丈夫だったっっうぇ!?」
朱莉姉さんが静かにメリィの傍から離れて、無言で俺に近づいてくる。髪が表情を隠していて、某ホラー映画の○子を彷彿とさせる。え、というか何で、手にでかいナイフを持っているのですか。いやあ殺される!
ぎらりと鈍く光る刀身を向けて、振りかぶり、振り下ろす。
バキンッッ!!!!!!!!!!!
朱莉義姉さんが、小さくなった魔物に大型ナイフを振り下ろし、見事に真っ二つにしていた。
ちなみに巨大な魔物に対して、俺がイメージした大きさは某有名チョコレート菓子である。
「このナイフ脆い。定夫、無事のようね」
無造作に大型ナイフだったものを放り出して義妹がクールに言い放つ。大型ナイフの刃は粉々に砕けているのに対して色々と突っ込もうとしたが、其の前に、メリィが叫び声をあげる。
「わ、私のナイフっ!?!?何時の間に!?っていうか折れてるじゃん!?」
素になっていますよメリィさん。
「うお!」
「ほーらー大丈夫だったでしょ!さっきねぇお姉ちゃんがすっごい剣幕でお兄ちゃんのこともごう!」
「ちょっと口を閉じてなさい。……お願いだから」
急に背中に圧し掛かってきた真央の口を前から朱莉義姉さんが素早く塞ぐ。何を言いかけたのか興味が……ありませんから睨まないで下さい。
「ふふははぁ、良かった」
義父が離れたところで、胸に手を当てていた。割と心配していたようで、眼が合うと、恥ずかし気にそっぽを向く。うん、キモイ。
「………これは、一体何があったんだ」
やけにうつろな瞳が特徴的な先輩、キールが現れてぽつりと呟いた。