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異世界人との遭遇

真央が自室へと入るのを見て、やっと外に向かうことができる。


義父と朱莉義姉さんには、先ほどの獣の遠吠えは、聞こえなかったのか。

真央とは違い、飛び出して来ない。まさかと思うが、外に出たんじゃないだろうな。


「……まさかっ!」


急いで、俺が玄関に向かうと、リビングから声が聞こえていた。

ちらりと覗くと、テレビにくっ付かない勢いで、画面をガンミしている義父が居た。


「おっほぅ!ほぅ!ほけきょ!」


静かに、扉を閉める。見なかったことにしよう。そうしよう。

玄関の靴は、全員分あった。とりあえず、誰も外には出ていないようだ。


「よし、行くぞ」


鬼が出るか蛇がでるか、という言葉をふいに思い出しつつ、俺は、玄関の扉を開いた。

相変わらず、見慣れない景色だ。森の中など、昔、林間学校に行った時以来だろうか。


「空気うまいな……」


ここは異世界である。しかしながら、空を仰いで見れば、一面の青に煌々と輝く太陽が顔を出し、自由な形の雲がゆらゆらと風に吹かれて、ゆっくりと動いている。見事なまでに、良い天気だ。


ここが異世界であるのだということは、余り実感がわかない。

いや、身近にない大自然があるけど、そんなの関係ねぇ。今すぐ、身を大にして、昼寝でもしたい。現実逃避したい。


 がさっっと、草木を掻き分ける音がした。


「何だっ!」


 俺は、金属バットを構えて、音の鳴った方向へと向き直る。異様な威圧感を感じるのは、気のせいではない。これで森の仲間たちがひょっこりと現れてくれれば家族が増えるねやったねたえちゃん。ダメだ、混乱している。


「……………」


「……………」


 やけに空ろな瞳と目が合った。草木を掻き分けて、男だろう人が現れた。

どくんどくんと、俺の心臓が高鳴る。コレは恋!否、異世界であるところの初めて、人との出会い。


「す、すみません」


日本人特有の何故か悪いわけでもないのに、謝罪にもとれるの言葉が勝手に口から出た。


 男は、緑と黒が混じったような髪を背まで伸ばしており、紫色のブレザーのような衣服とと同色ズボンに身を包んでいる。さらに、黒いマフラーで口元を隠しており、左手は、包帯のようなものでぐるぐるに巻かれていた。


 とても奇抜で、独特な雰囲気を持っている男に対して、どうすればいいというのだろう。


 男は、暫く俺を見てから、背後にある家に視線を移し、やや眉根を寄せた。


「………これは君の家か?」

「え、あ、は、はい!」


 やる気の感じられない目とは裏腹に、はっきりと通る声に、俺は身を固くする。

威圧感、ハンパない。この異世界にレベルなんて概念があるというのならば、目の前の男は、きっと強い人に違いない。


「………異例なことだな。いや、過去にも建造物ごとというのはあったが、場所が例外的、やはり前例のないことと変わりない」


 ぶつぶつと、自分の世界に旅立つ男は、難しいことを口走っていた。

もう帰りたい。直ぐそこに家があるわけで、もう帰りたい。大事なことだから二回は思った。


「はっっけーん!先輩が先に着いてるなんてめずらし~ですね!」

 

 快活な声が場の空気をぶち壊す。声の方を向いて見れば、真央と同類の雰囲気を持った女の子が立っていた。

 薄い桃色の髪はツインテールに結われており、女の子が動くたびに、ゆらゆら揺れている。

 白いシャツの上に黒いジャケットを着込み、青地の短パンとラフな格好だが、腰にまわすベルトに大型のナイフが左右対称に二振り吊り下がっていた。

 見た目からして、真央と同じ年くらいであるとしか思えない。身長が全く同じであるし、胸もまだまだ発育がrr。


「君、君、何かちょっと、失礼なこと考えてたりしてません」


「うわっすみません!」


何時の間に、接近していたのだろう。女の子は、俺の顔を下から覗き込み、目を細めた。


「………メリィ、威圧するな」


「先輩にだけは言われたくありませーん」


メリィと呼ばれた女の子は、俺から離れて、先輩と呼ぶ男の隣に立つ。


「名乗りが遅れて申し訳ない。私は、魔法省特務課所属、キールベル・ユーグフィアロだ」


「同じく、魔法省特務課所属、メリィ・ローゼリカでーす!」


 異世界の彼と彼女は、軽く礼をしてから自らを名乗った。魔法省特務課とか、義父が聞いたら、ものすごく話がややこしくなりそうなところであるが、敵意はないことに内心ホッとする。


「俺は、白井定夫といいます。後、家の中に、俺の家族が三人居ます」


「………建物の中に含めた人ごとか」


「本当に、ごく稀なケースですよね。場所も場所だけに」


 キールとメリィがやや溜息交じりに言葉を交わす。我が家の異世界送りというのは、稀なケースであるようだ。


「立ち話もなんですし、家の中で色々話を聞かせてもらってもいいですか」


 控えめに挙手して、キールとメリィに進言してみることにした。この人たちは、どうやら俺たちを探しに来たようだ。ならば、何か話しがあるのか、それとも、口封じのために、がくぶるな展開があるのだろう。後のほうはやめてほしい。


「……ああ、建物の中が安全であると保障もないが、ここにいるよりはマシだろう」


「そうですねー、先輩、数十体のウルフベアが寄ってきてるみたいですけど」


 狼なのか熊なのか、どっちつかずの名前だ。少し見てみたい気もするが、メリィの口ぶりからするに、厄介な生き物なのだろうか。もしかしなくても魔物とかいうやつだろうか。


「……私が片付けておこう。メリィは彼への説明をしてから」


「皆まで言わなくてもわかりますー。さっさと片付けてきて下さい」


まるで犬を払うように、メリィは、キールに向けて、手の平を返しやる。

キールは無言で、何か言いたげにメリィを眺めて、首を振った。

溜息を吐きつつ、森の中へと消えていく。なんだか凄く苦労している感がにじみ出ているなあ。


 まるで、仕事に疲れたサラリーマンのような哀愁漂う背中を見送り、俺は、メリィと共に、家に入った。


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