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「ここが、俺達の家。お前の家みたいに個別に部屋はないから、寝室と、食堂と、台所ってとこか。ま、お前の家よりちょっと寂しいけど、慣れれば結構快適だぞ」


 大した喧嘩をすることもなく育った俺は、胸倉をつかんだものの、そこから先に進めず固まっていた。俺の父親とやらも、同じ種類のヤツらしく、大声でいさめることも、手が出てくることもなく二人で睨み合う、というか見つめ合う事数分……。


 ニヤニヤいしながら見ていたクロが、眺めるのに飽きて、溜息まじりに止めてくれなければ、いつまでもそうしていたかもわからない。

「まぁ、とりあえずしばらくここに置くんだから、お前の相棒に、知らせておけよ」

 クロにそう言われて、そうだな、と俺とは目も合わさずに背を向け、行ってしまった。俺のこと気にしていたって、本当なのか?


 家の中は、板張り。フローリングなんてもんじゃなくて、板張り。台所と食堂、と言うよりは広めの台所にちゃぶ台と座椅子を置いているって感じ。 ダイニングキッチン、なんて言葉は似合わないから、広めの台所。座椅子は、なぜか三つある。寝室、と呼ばれた場所は畳が4枚横並びになっていて、隅に布団がたたまれているが、襖とかはない。これ、誰かが起きていたら眠れないんじゃ……。

「俺たちよりも先に眠るときは、あれ使いな」

 顔にでていたのか。クロが指した先には、衝立。これも、パーテーション、なんてものじゃなくって、衝立。まぁ、なにもないよりは……。

「狭いだろ? でも、俺達はここで暮らしているけど、たいして不便はない。お前の家みたいに快適じゃなくっても、まぁ、暮らせるもんだ。ナルは、お前さんをここには住まわせられない、なんて言ってたけどなぁ」

 狭いマンション、友達が持っている広い自室、自室のテレビを羨ましがってクロに愚痴ったことがあったな、なんて、いまさら後悔した。クロは、どんな気持ちでこれまで俺の愚痴を聞いていたんだろう。

「お世話に、なります……」

「おう」

 ニコニコと笑うクロ。その顔は、本気で嬉しそうだった。自分の同居する友人で、仕事仲間の子供。クロは、俺の事どう思って見に来ていたんだろう?

「お前、親父にそっくりだぞ。」

 そうですか。自分でも、そう思います。


「ただいま」

 うわ、帰ってきた。跳ねる心臓を抑えて思わず立ち上がると、目の前には俺よりも少し年上だろう女の子が立っていた。

「初めまして。貴方が、ナルの息子? 」

 にっこりと笑うその子に、俺は返事もできなかった。ナルの息子? と言われて、ハイ、と返事ができるほど、今の俺には余裕がない。

「そうだ。名前は優人、人間が産んだ、俺の息子。優人、こいつが相棒の死神、メイ」

 足元から声がする。視線を下げると、そこには綺麗な黒とグレイの虎猫がいた。猫神って、みんなが黒猫ってわけじゃなかったのか。俺の父親は、虎猫なんだ。

「ふぅん。私たちの、仕事を手伝うって? できる? 」

 できる? どうでしょう? とは、言えないですよね。こういう時、なんて言ったらいいんだろう……。

「メイ、できるかどうかは、やらせてみないとわからんだろう? 猫神の血を引いている人間だ。俺達よりも、人の感情に寄り添う事ができるかもしれんぞ?」

 クロ、ナイスフォロー!

「寄り添える分、危険も強くなるでしょう? でもまぁ、明日から、よろしくね」

「あ、はい。よろしくお願いします」

 なんだろう、胸まである長い黒髪に、白い肌。割と可愛い部類の子なのに、話し方がめちゃくちゃキツイ気がする。にっこり笑っているように見えるのに、笑ってないというか……。



「クロ~、お腹すいたぁ、何か作ってよ!」

 クロの背中を台所に向かって押し出し、自分はストン、と座椅子に座った。ああ、それで座椅子が三つあるのか。



「母さんのところに、行ってきた」

「え? 」

「これまで、悪かった」

 目の前で頭を下げた虎猫は、猫にしては細い目をさらに細めてしょげかえっていた。きっと、俺の事を気にしていたっていうのは、本当なんだろう。でも、会いに来られなかった。

猫神が父であることを気にしているのは、誰よりもこの人なのかもしれない。

「……うん」

「……」

 人の姿よりも、猫の方が緊張は解けるが、気まずいことに変わりはない。話すこともなく、クロが台所で料理をしている姿をなんとなく眺めていた。

 明らかに年下の死神に、早く早くとせかされてクロが皿に盛ったのは、焼きそば。やっぱり的屋だ、と思ったことは内緒にしておこう。


「ほら、ナルも優人も、食っちまえよ。明日の話は後でもいいだろ」

「ああ、そうだな」

 初めての、父子の食事。記念すべき食事は、クロの作った焼きそば。


 三人の仲がいいことはよくわかった。楽しそうじゃん、親友と若い女が毎日一緒で。

 俺の中で、また灰色の気持ち静かに広がっていく。


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