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「今のおもちゃって、たくさんあるんだねぇ」

 珍しそうに店の中を眺める信也さん。デカい猫を抱き、まだ暑いのに長袖のシャツを着た信也さんは、明らかに不審者。でも、誰一人気にも留めないのは、見えていないから。ちなみに俺の姿も見えていないらしい。

 親父の上着は、この世のものから俺を遮断している。

 このまま、ってことはないんだろうし、今は便利だけど。

 俺はここに居るのに、信也さんもここに居るのに、誰も気づかない。

 子供へのプレゼントを選んでいるらしき男性、これから生まれる子供を思い、笑いあうカップル、疲れて溜息をつく店員、その人たちの中で、俺達は存在していない。


 霊に同情すると取りつかれるなんて説もあるけど、そうだろうな。これだけ全員にシカトされていたら、思わず見えている人に頼りたくも、なるよなぁ。

 改めて、信也さんのことが少し可哀そうになってきた。怖いとか思って、ごめん。


「ねぇ、今って、クリスマス前? 」

「え? いや、まだ暑いし……」

 何言っているんだろう、というのが顔に出ていたのか、信也さんは少し寂しそうに笑った。

「ごめん、俺、季節の感覚とかなくってさ。暑いとか寒いとかもよく分からないんだ。ただ、さっきから高いおもちゃが売れてるから、プレゼントの時期なのかなって」

 ああ、そういえば。

 さっきから『新発売』と書かれた商品がポツポツと売れている。買っているのは、若い男性だったり、年配のご夫婦だったり。なんだろう、連休前だから、孫にやるのかなぁ。

「誕生日とかですかね? でも、特に何もなくても、買ってくれる親もいるみたいですよ、俺の周りでも、新しいのが出るとすぐに持っているヤツ、いました」

 俺は、スーパーのお菓子売り場にあるちゃっちいプラモが誕生日プレゼントだったけど。

 仕方ないんだけど。


「こういう戦隊ものって、どんどん新しい物出すんですよ、なんか最初のヤツに合体させて、最終的には、全部そろえないと完成形にならない、みたいな」

 小さいころは買ってもらえないことが悔しかったけど、改めて見るとすごい値段だ。

 これは、うちでは買えなかったわけだ。おもちゃ業界の戦略って恐ろしいな。

 それでも、買っていく人たちの顔は、悲壮感とか義務感とかじゃなくって、むしろ誇らしそうだ。これ、来年にはいらなくなるんだけどね。子供の一年って、残酷なぐらいに長い。大人は、同じ時を過ごせない。

「なにか、欲しいものは、ありました? 」

「ん? さすがにないなぁ。このシリーズ、知らないし。でも、この空気、楽しい」

 柔らかく笑う信也さんが、少し寂しい。


「次は? 」

 クロの言葉に、動物園、と元気に答えたのは俺。これも、俺が小さいころよく言った場所、コンプレックスを感じた場所。

 動物園自体は、安い。弁当持っていけば、大した金額もかけずに一日いられる。少なくとも、母さんはそう思っていた。でも、子供は違う。

 動物園で販売をしている限定のぬいぐるみ、期間限定のカフェで買うソフトクリーム。お土産用に販売しているハンカチ。今になれば、どうでもいい。持っていたとしても、きっともう持ち歩くことないだろう。それでも、それを買ってほしいと言えないことが寂しくて、買ってほしいなんて思う自分が、すごく親不孝な気がしていた。



「動物園、俺は嫌いだなぁ。何が楽しいんだ? 閉じ込められている動物、楽しいか? 」

 そうですよね、クロは猫だもんね、どっちかと言えば、見られる側の立場のほうが、よく理解できるんだろうなぁ。

「まぁ、いいけどな。あいつらだって、死後には、走り回っているし」

 そうなんだ。動物たちも、死後は自由に過ごすんだ。

 窮屈な心でその場から離れられない、なんていうのは人間だけなんだろうか。

 

「ま、本人の問題だろうな」

 俺の心を読んだような言葉。

 わかっているよ、きっと、人間が一番、弱い。信也さんも、俺も、弱い。


 俺たちは動物なんて見ないで、とっくにしまっている土産物屋を散策した。

 似てるか?って思うぐらいファンシーなぬいぐるみに、お土産用の可愛いお菓子。

 男二人で、これでもかっていうぐらいに騒いで動物園を後にする。

 うん、やっぱり動物園のグッズなんて大したことないのに、高かった。これ、俺にとっても重要なことです。


「ねぇ、新幹線が見たいなぁ」

「新幹線、ですか? 」

 新幹線の最終って、何時だろう? もう十一時過ぎているけど、まだ見れるのかなぁ。

「うん、新幹線に乗って、東北に行きたい。駅弁食べたいな。君、新幹線乗ったことある?」

 ううん、修学旅行で乗ったけど、東北じゃなくって、大阪でした。なんで、東北?

「結婚を考えていた彼女が居たんだ。その子のおじいちゃんが、東北にいて、一度新幹線に乗って会いに行った。そうしたら、さぁ、絵にかいたような田舎。おじいちゃんもおばあちゃんも顔中皺だらけにして歓迎してくれて、ああ、この子愛されていたんだなぁって。そうしたら、自分なんかが、この子と結婚していいんだろうかって、こんな愛情知らない俺じゃぁ、彼女の望む『家族』はあげられないんじゃないかって、別れちゃった。」

 そんなことないです、なんて気休めは言えなかった。わかる。自分の知らない愛情への戸惑いは、誰よりもわかる。


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