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新連載、始めました。

無理せずのんびり更新していこうと思いますので、

時々覗きに来てやってください。


貴方の暇つぶしになれますように♪

 坂の途中にある、古びたマンション。産まれたときからそこの一階で母親と暮らしている。母と二人で暮らすことに、不満を感じた時期もあったけど、今はそうでもない。仕事で忙しい母親は、専業主婦よりは俺にかまう時間は少なく、勉強しろと言われることも友人たちよりもはるかに少ないことは、今の俺には救いになっている。

 中学3年、受験生。やらなきゃいけないことはわかっているけど、やる気にならないんだから、仕方ない。


「優人、このままでどうするの? 」

「知らね」

「自分の人生でしょ!このままで、生きていけるの?」

「何とか、なるしょ」

 いつもの、担任との会話。学校帰りに呼び止められて、結局いつもの会話しかしないなんて、学習しないねぇ。俺のこと言えないんじゃない?


わかっているんだけどさぁ、このままじゃいけないぐらい。でも、なんか、違うんだよなぁ。なんか、このまま高校行って、大学行って、就職してって未来が全く浮かばないんだよね。正直、俺が高校生になってる姿は、想像つかない。だからって、人生つまらないかっていえば、そうでもない。それなりに、ちゃんと好きな子なんてのもいて、友達もいて、学校は楽しい。なんていうか、『このまま、何とかなるでしょ』ってのが、抜けないんだよね。なんだかなぁ。

まぁ、なんというか、『嫌なものは、嫌』


 『ぶるにゃぁん』

 くだらないことを考えながら、自室のベッドでゴロゴロをしていれば、窓の外からいつもの声。お、来たな。

「来たな、クロ。入れよ」

 ベランダに通じる窓を開けてやれば、素直にノソノソ入ってくる大きな黒猫。昔からこの辺りに住んでいる野良猫だ。俺が小さいころから、一人で留守番をしているときに、よくベランダに現れ、窓を開ければノソノソと入ってくる。母さんが帰ってくることには、いつの間にかいなくなってしまうから、母さんは一度もクロを見たことがない。それなのに、いつクロが来てもいいように、と家の冷蔵庫にはクロ専用のカニカマと牛乳が常備されている。

「久しぶりだなぁ。元気だったかぁ? 」

 話しかけながらカニカマをほぐして、クロの食器に入れてやると、嬉しそうに『ぶにゃぁ』と鳴いて食べ始める。こいつ、絶対人の言葉わかっているよな。カニカマを食べつくすと、いつものようにノソノソとソファーに移動して、どっかりと横になる。猫のくせに、丸くなってい眠る姿なんて、見たことない。大きすぎると、猫でも丸くなれないのかねぇ。

「クロは、いいよなぁ。勉強しなくて良くて。俺も、次に生まれるときは、猫になりたい」

 誰でも一度は考えたことのある、バカみたいな望み。なれるわけないって、わかってるからこそ、クロに向かって口にする。


「そうでもないぞ。俺もこれでも、結構忙しいんだ。若いころは、勉強もしたしな」


 は? だれ? 今しゃべったの、だれ? 目の前に座る黒猫は、尻尾をパタパタと不機嫌そうに動かしながら、俺を見ている。いや、そんな。でも、そういやこいつ、小さいころから見ているけど、全然変わってない。猫って十年以上も同じ姿のままなのか?


「えっと……、クロ? 」

「おお、クロでいい」

 にっかりと、口を開けて笑う、黒猫。昔っから知ってる猫だけど、俺の留守番の相手をしてくれた、可愛い猫だけど。

 ムリ!ムリムリムリ!

 あまりのことに、叫ぶこともできずに座り込んだら、話を聞く気があると取ったのか、クロは、前足を上げて饒舌に話し始めた。


「お前さんの父親と、友達でな。あんまりアイツが心配するから、俺が代わりに様子を見に来てたんだよ」

 はぁ、父親が。俺、顔も知らないけど。

「お前、もうすぐ十五だろ?勉強が嫌なら、親父の仕事、手伝ってやれよ。」

 いや、親父の仕事って、何ですか? 


「ただいまぁ」

 玄関から、疲れた声。母さん!ナイスタイミング!

「お~、お帰り。久しぶりだなぁ」

 いつも、母さんが帰るころには、お帰りになりますよね? 今日は、帰らないんですか?

「……クロ、さん。喋ったの?」

「ん? 優人、な。受験が嫌みたいだから、親父の仕事手伝わないかって、誘ってみたところだ」

「……勝手なこと、しないで」

 母さんが珍しく、かすれた声を出した。なに? 母さん、クロさんの事、知ってたの? 

「……嫌われちまったなぁ。今日は、帰るよ」

 どすん、と音を立ててソファーから降りると、開け放してある窓から出て行った。得意げに尻尾をあげた後ろ姿は、いつも堂々と部屋にはいってくるクロそのまま。


どうなってんの???


 部屋に残され、茫然とする俺と、真っ白な顔でヘタリ、と床に座り込んだ母さん。

 なんとなく、もう戻れない気がした。



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