死(試)練
超スローペース&一話一話が短くてすみません。
打ち込むの苦手なんですよねー……
あ、今回ちょっとグロいかもしれません。
いくつかの扉を開き、指示された内容と言えば……
『腕立て五十回しろ』
『腹筋二百回しろ』
などの筋トレメニューだったり、
『チョコレートイチゴパフェDXを完食しろ』
などの女子か! とツッコミたくなるような指示だったりした。
既に五十近くの扉を開けているが、全てが簡単な内容であり、コトハは少し安心していた。
なにせ、より良い権能を得るには、それだけ難しい指示に従わなければならないのだ。万一、万能なる権能を得られる部屋に入ったとしよう。指示をこなすまで部屋から出てこられない仕組みになっている現状で、自分の力では解決できない状況に遭った場合、まさしく生き地獄を味わう事になるのだろう。
そう予測立てているからこそ、毎回出る簡単な指示に安堵し、油断していた。
コトハは黒い扉の前で立ち止まり、不思議そうに首を傾げた。
「黒い扉なんてあったか?」
暗い色の扉はいくつか見た記憶があるが、漆黒色の扉を見た記憶は一切なかった。
先程まで無かった筈の扉に戸惑ったが、結局開けることにした。
扉に手をかけ、開けようとした瞬間……
「え……? なんでその扉が見えるの!? 駄目!! その部屋は……」
少女が血相を変え、何かを伝えようとしたがコトハの耳に入ることはなかった。
「どうしよう!? なんでただの人間の彼があの扉を見れたんだ!? その部屋は人間がクリアすることを一切考えてない!」
この扉こそがコトハの人生において、最も重要な分岐点だった。もし、彼がこの扉を見る事が出来ないまま、異世界に旅立っていたら、彼はせいぜい非凡程度の存在となっていただろう。
◇◆◇
「……なんだここは? 今までの部屋と雰囲気が違う?」
例の如く、いつの間にか出口のない部屋の中にいたが、その中は前回までと同じようで何か違うようだった。
「心霊スポットみたいだな……。言ったこと無いから多分だけど」
かなりヤバイめの、と付け加え指示が書いてある紙を取ろうとした時にはソレはもう始まっていた。
伸ばした腕から感覚が無くなり、紙が掴めなかったのだ。
「え…………? なんで俺の腕が……!」
―――――――――――――ないんだ!?
思わず後退ろうと一歩足を動かそうすれば、今度はバランスを保てなくなり、地面に崩れ落ちた。
「どうなってんだ!? とにかく早くクリアして外に出ねぇと!」
力を振り絞るように立ち上がろうとするが、足に力が入らない。
恐る恐る視線を足に落とした瞬間、コトハは目を見開き言葉を失った。
右ひざから先が切り落とされたように無くなっていたのだ。現実に思考の処理が追いつかず、頭の中が真っ白に染まる。
そしてコトハの脳が段々と現実を受け入れ始めた時、痛覚というものが復活した。
一秒ごとに思考と感覚が戻ってくると同時に、想像を絶する痛みが更に増し、コトハの思考を奪っていく。
この段階で、コトハは今回の指示をまだ読んですらいない。対して、失ったのは片腕、片足、そして状況を冷静に判断出来る理性。
最早、絶望的な状況へと陥ってしまっていた。
何も分からないまま身体の一部を失っていく恐怖と痛みは、コトハの精神を蝕んでいく。
――――クチュリ、クチュクチュ。クチュンクチュクチュクチュくちゅくちゅクチャクチャクチャくちゃくちゃッ
なにかの肉を食い千切るような、咀嚼するような、のた打ち回るような、抉るような、形容しがたい不快な音が聞こえてきた。
失った腕足の切断面から。
「は……?」
何かが切断面から肉を食い千切りながら、徐々に体の中心へと移動してくるのを感じながら、正気でいられるはずが無かった。
気が狂いそうな感覚に体が、そして心が耐え切れず、コトハは絶命した。
そして彼の絶望は始まる。
誤字脱字があったら教えて下さい。