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神言魔法と紡ぐ異世界譚  作者: 藤崎 鈴
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日常の崩壊

どもども、お久しぶりです。

 時は現代、日本の首都東京に一人の青年がいた。

 

 名を古雅(こが)言葉(ことは)という。

 

 まだ大学二年生と青春を謳歌している年頃であったが、特に恋をしている訳でもなく、運動で爽やかな汗をかくと言う訳でもない。かといって特別勉学に勤しむわけでもないと非常に微妙な生活を送っていた。

 しいて言うならば、多少のオタク趣味を持っていたが……誰もが引くほどの、のめり込み様を見せる訳でもなかったから友人関係に困まる事はなかった。


 まさしく『無難』という言葉を体で為している男だ。



「ふあ〜、あの教授の授業どうなってるんだよ……催眠効果でもあるんじゃねーのか?」


 授業の大半を睡眠に捧げてしまい、途中からなにを言っているかすら分からないという事態になってから、余計に睡魔が襲ってくるようになったように感じる。

 もともと苦手だった科目だったが苦手意識が変わることはついぞ無かったがもはや諦めていた。


 時刻はまだ午後六時を過ぎたあたりだが、最近日が昇っている時間が長くなりまだ明るい。

 駅のホームには独特の熱気が充満していて、お世辞にも快適な空間とは言いがたい。

 

 電車が来るまでの僅かな時間に、言葉(ことは)は家族への連絡を手早く送る。


『今から帰る』

『分かった。今日はハンバーグだよ〜』


「ハンバーグか……久しぶりだな」


 返信はすぐに返ってきた。

 返信を確認し、スマートフォンをジーンズの尻ポケットの中にしまおうとしたところで、手首を誰かに掴まえられたような気がした。

 周りを見渡しても、言葉(ことはに触れる位置にいる人はいない。


「気のせいか……? それにしては感覚がリアルだったような……」


 なんとも言えない不気味さを感じたが、現状で言葉(ことは)にこの現象を判明する方法はない。


『―――ああ、見つけたっ!! これで世界に変革をもたらすことが出来る!』

「っなんだ!? 今声が聞こえ……っ!!」


 先ほど手首を掴まれた感覚があったのは勘違いでは無かったらしい。

 まるで何者かに引っ張られるように、手首に力が加わった。


「どうなってやがる……!!」


 ちょうど電車が来る時間になったようで、視界の右端に電車の先頭が見えた。


(このままじゃヤバイ! 絶対に轢かれる!!)


 いくら脚に力を込めて踏ん張っても、体が前にいってしまうのは止められないどころか、むしろ段々と引っ張られる力が強くなってついにホームから落ちる寸前とまでなってしまった。

 電車はもう十メートルをきった所にいる。三メートル、二メートルと近づいてくるが抵抗する方法はない。


(もうぶつかる!!)


 そう思った瞬間に目の前に真っ黒な空間が現れた。空間の歪とも呼ぶのだろうか? 真っ黒な空間は明らかに何かが違っていた。どうにも上手く表現する言葉が思い浮かばないが、自分達が生きている空間とは異質なことだけは、言葉(ことは)にも感じられた。


「キャー!!」


 女性の悲鳴声が聞こえてきた。その声は、誰かが何かに轢かれたのを目撃してしまった……随分限定的だが、きっとそんな時に出す声色だった。


(? 周りの人達には俺が轢かれるように見えているのか? つまりこの空間は俺以外に見えないのか?)


 自分の体を引っ張っている力がこの空間の中からだということがなんとなく感じられ、言葉(ことはは何者かの意思によって起こっているのではないかと思った。


「ええいっ! どうにでもなれ!!」


 言葉(ことは)は覚悟を決め、踏ん張っていた力を抜き、足を一歩踏み出した。

 手が空間に触れたとき、手首にかかっていた力が消えた。代わりに、頭、肩、腰、太もも、足首を後ろから抑えられて、言葉(ことは)は異質な空間へと飲み込まれていった。



―――――この出来事は大学生の飛び込み自殺として扱われ、そしてその大学生の死体が見つからなかった事で、世間を一時騒がすこととなった。



◇◆◇



「んあ? ここは……」


 気が付けば言葉(ことは)は何もない部屋の中にいた。

 いや性格に言うならば、何も置かれていないだけで、部屋の出入り口となる扉自体は無数にある。


「やっと来たねー。こんにちわ、人間クン」


 一つの扉が開き、中から少女が現れた。

 まさに絶世の美少女と呼んでもいいだろう。整った容姿にスラリと伸びた手足。ロングストレートの艶のある黒髪。多少胸が貧相な気もするが、そんな事では魅力が衰えることはない。

 そして少女の最も特徴的な所は、今にも零れ落ちそうなほど大きい眼だ。瞳が金色に輝いていて、意識が自然と少女の瞳へと集中する。


「そんなにジロジロ見ないほうが良いんじゃない? キミ達の世界って女の子の事を見過ぎるのって、えーと……そう! デリカシーがないっていうんでしょ?」


 指摘されて言葉(ことはは少女の身体をずっと見ていたことに気が付いた。


「す、すまん。それでここは一体何なんだ?」


 羞恥により顔が赤くなっているのを感じたが、無視し疑問を尋ねた。


「へー、随分落ち着いてるねー。もうちょっと驚くかなって思ってたんだけど」

「そりゃ驚いてはいるが……騒いでどうこうなるもんでも無さそうだし。それにアンタが説明してくれんだろ?」

「もちろん。ここにキミを呼んだのはボクだからね。それじゃあ、質問に答えようか。ここはありとあらゆる世界の神々が住む世界の末端である空間。そして神が生まれる場所でもある」

「まてよ……? それじゃあアンタは?」

「ご察しの通り神の一柱だよ。」

「……え、思いっきりタメ口だったんですけど……マズイですかね?」

「別に構わないよ。言葉なんて所詮は意思疎通をする為だけのものだ。神はいちいち相手に合わせて言葉なんか変えないよ」

「んじゃこのまま話すか」

「……君って本当に適応するのが早いよねぇ。今まで見てきた人間達はみんな神だって言った途端に、面白いくらい態度を変えたけどなぁ」

「そんなに干渉して大丈夫なものなのか? 神は世界に干渉していけないルールがあるとか小説にはよくあるけど」

「過度な干渉は勿論ダメだけど、ある程度可能だよ。じゃなかったら宗教なんて生まれてないしね。今は勝手に神の名を使ってる人間もいるけど」

「それもそうか」

「それで? 君が本当に聞きたい事ってこんな事じゃないでしょ?」

「当たり前だ。それじゃあ聞こう」


 言葉(ことはは一息吐き、ゆっくりと息を吸った。


「俺をここに連れてきた理由は? そして俺は元の場所に帰れるのか?」

「最初の質問から答えようか。けどその前にキミは世界がたくさんあるのを知っているかい?」

「ここがさっきアンタが言ってた『あらゆる世界の神々が住む場所の末端の空間』なのだとしたら、世界はたくさんあるんだろうな」

「よく話を聞いてました。そう、そうなんだよ。世界はたくさんある。だけど上手く世界が廻ることなんて滅多にない。キミ達の世界だって上手く廻っている方なんだよ。それじゃあ問題。上手く廻っていない世界をよくしようとしたらどうしたらいい?」

「誰かが治す……か?」

「正解。だけどボク達神は過度な干渉は出来ない。そこで第三者、云わば異世界の人間を連れ込んで世界に変革をもたらす必要がある」

「それで俺が選ばれたと……なんでだ?」

「えーとね、キミ本当はキミが乗ろうとしていた乗り物……電車だっけ? それの中で刺されて死ぬ予定だったんだよ。でも、ほら? 異世界に連れていくのにちょうどいい感じの年齢だし殺しちゃうのもったいないかなって思ってね。正に適任者っていうのかな」

「え? 電車の中で死ぬ予定だったってマジで?」

「うんマジでマジで」

「それじゃあ、俺は命を救われたことになるのか?」

「そういうことになるね。どう? 恩返しだと思って異世界行ってみない?」

「確かに死なずに済んだことには感謝するが……一応聞くけど、異世界に行った後にこっちの世界に帰ってくることは可能?」

「帰ってくること自体は可能だけどキミは無理だね」

「……なんでだ?」

「いいかい? さっき言ったようにキミは死ぬ予定だったんだ。それを狂わせてまでここに連れてきた。キミはもうこの世界で生まれただけの存在。住人ではないんだよ。そうだねぇ……、少し分かりやすく考えてみようか。君達の国では永住権ってあったよね? あれの世界版」

「永住権……、言いえて妙だな。それにしても住人じゃない……か。そう言われてもまったく実感が沸かないんだが」

「なら家族や友人の記憶を消してあげようか? 未練も無く旅立つ事が出来ると思うよ?」

「結構だ。特別に日常を愛していたというわけではないが、それなりに大事な思い出だからな。記憶が薄れて消えるのはしょうがないと思うが、わざわざ消したくはない」

「そういうものかい? なら別にいいさ。記憶を消したせいで、今後の生活に支障が出ましたなんて事になったら、目も当てられないしね」


 ま、どうにでもなるけどねぇ、とカラカラと笑いながら、神を名乗る少女は手をパンと鳴らした。


「さて、ではなぜココに呼んだのかという話しをしようか」

「? 俺を異世界に行かせる為だろ?」

「うん。結果としてそうだけど、それだけならココである必要は無いじゃん? ココは神界でも特異な場所なんだよ。って言っても分かんないよね。さっき言ったとおりココは神が生まれる場所だ。正確に言うならば、神が神たる権能、いわば力を手に入れる場所だ」

「随分凄い場所なんだな。それで?」

「キミが神に成る事は絶対に不可能だ。種族として違うからね。だけど……」

「だけど?」

「キミが神の力を身につける事は可能なんだよ。いや、ボク達神は地上へ干渉出来ない分、干渉受けないキミの方が自由が利くから、キミのほうが自由に力を使える」

「でも……メリットだけじゃないだろ?」

「向こうの世界ではメリットばかりさ。でも、キミが上級神と同等の力を得ることはむずかしいだろうね。中級神程度の力なら、なんとか得ることが出来るし特に問題ないよ」

「今から修行でもするのか?」

「近いけど、そんな面倒な事はしないよ。まあ、すぐに分かるから」

「……?」

 

 少女は面白そうに眼を細めながら、話しを続ける。


「この部屋の中には異常なほど沢山ドアがあるだろう? その内の一つを開け、中に入ってごらん。そして、中で出された指示に従うんだ。完了して中から出てくれば権能が得られる。簡単な指示であれば弱い権能、逆に困難であれば万能に近づく。ね? 簡単でしょ?」

「なるほどな。因みに、一旦中に入ったら、絶対に指示に従わなければならないのか?」

「うん。ドアを開けた時点で開始してると思ってくれてもいい。コレは試練だからね」

「オーケー、分かった。んじゃ、ためしにこのドアから……」


 数歩先にある深青色のドアに手をかけ、思い切って開ける。

 中の空間に入ると、空中に一枚の紙が現れた。


『ケーキを食べろ』


 部屋の中を見ると、テーブルとイスがあり、テーブルの上には、手の平程度の皿の上にイチゴのショートケーキが置いてあった。


「指示に従うってことは、このケーキを食べればいいんだよな」


 一分も経たずに食べ終わると、いつの間にか少女の前に立っていた。


「あれ? 戻ってきたのか?」

「お疲れ様ー。どうだった?」

「簡単だった。というかケーキ食ってきただけだしな。逆に、難しい指示ってどんなのなんだ?」

「それは言えないよ。ただ……キミが思っている以上に大変、っていうことだけは言っといてあげる」

「そ……そうか。そうだ、今のでどんな権能を得たんだ?」

「ちょっと待って。えーとね、多分口笛で野生の動物が寄ってくる……だったかな」

「簡単な指示ほど弱い権能が手に入るってのは、こういう事か」


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