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7:脚本、脱線





 彼女からみたカルロは、まさに“要領の恐ろしくいい子”である。

 その愛らしい容姿から女子だけでなく、むしろ男子からも絶大な人気を誇るカルロは、とにかくあざとい。

 女の子には妹のように甘え、可愛がってもらう。男の子には男らしいさっぱりとした話し方で、気安い関係を作る。そしてふとしたところで、女の子には男らしく頼もしい一面を、男の子には中性的な色気のある一面を、ちらりと見せるのである。


 それはまさしく意外性にチラリズムをかけ合わせた、相手を落とす術の一種である。カルロはこれを、ごく自然にやってのけていた。


 (異性としてじゃなくて、むしろ自分がなるならって意味でだけど、あざとくて芯の強い美少年ってすっごく大好きなんだよね!)


 彼女にとって美とは、この世の理の一つ。目の前の美少年は、それをよく表現していた。


 (豪奢な椅子に座って、美しい顔に氷のような微笑みを浮かべるカルロ。彼は跪くきらきらしい美青年や逞しい美青年を一瞥すると、“ふん、そんなに僕に使って欲しいか。なら、僕の靴を舐めろ。”と鼻で笑う――いい…すごくいい!世の心理よ、いま切実に、ヒロイン逆ハーレムではなく、カルロが攻略対象を下僕にするルートを望みます。…いや、まてよ。下僕は美形でかつ有能であるべき。すなわち攻略対象の坊ちゃんたちでは役不足……!)


 彼女の思考は、既に現実のカルロからだいぶ離れ始めている。


 「先輩?僕の顔になにかついてました?」


 「…あら、ごめんなさい。つい考えていたら貴方の顔に視線をやっていたことを失念していたわ。」


 「いえ、お気になさらず。ただ、先輩の様な美しい女性にじっと見つめられると、僕がどきどきしてしまうので…こんな顔でも、一応男ですから。」


 はにかみつつ、ちらりと彼女に向けた視線はやけに色っぽい。


 (でもまさか、こんなに普通に会話が成り立つとは思わなかったなあ?)


 今カルロと彼女は他グループとのロールプレイングを終え、2人でフィードバックを行っているところである。

 彼女は最初カルロが近づいてきたとき、てっきり可愛い後輩と見せかけて何か彼女に嫌がらせをするとか、さりげなく侮辱するとか、そういった類のことが目的だと考えていた。

 しかし予想に反して、時々こちらの様子を伺うような視線は向けていたものの、基本的にワークについて意見を出し合う人懐っこい後輩の体だった。


 (んー確かにこの子、現実では一番落ちにくいタイプだとは思うんだけど。ただゲームの設定では、自分があざといから素直なヒロインに憧れるってことらしいし、そんなちょろいもんなのか、くらいに思ってたわ。)


 考える彼女に、目の前の美少年はきらきらした笑顔で更に話しかけてきた。


 「あ、ねえ先輩、せっかくなのでこの後、昼食ご一緒させて頂けませんか?今日はいつもいらっしゃる先輩の仲の良いご友人もいらっしゃらないみたいですし。僕、ずっと先輩とお話してみたくて!」


 (驚いた、まさかお昼に誘われるとは。でもなんだろう、こういう子にそんな笑顔で言われると、むしろすごく胡散臭く感じる…。ああごめんね、お姉さんほんと心が汚れてるよね、うん、だからピュアっピュアなヒロインの当て馬にされるんだよね!…いや、別に私は当て馬やる気ないけどさ?)


 「いいわよ?折角の機会ですもの、わたくしもこんなに優秀で可愛らしい後輩と交流を深めておきたいわ。」


 彼女も負けずにっこりと微笑んで、カルロとの昼食会に参戦する覚悟を決めた。



 ✦✦✦✦✦✦✦



 彼女はカルロに連れられ、学内にあるカフェの1つにある明るいテラスに来ていた。このカフェは小さめのため、すぐに席が埋まってしまう。今も2人分のテーブル席を除いて、ほぼ全席埋まっている状態だった。


 「あらここ、今度来ようと思っていたの。でも他と比べて席数が少ないから、なかなか空きを見つけるのが大変で。今日はここでランチを頂けるなんて、楽しみだわ。」


 「そうだったんですか。実は僕、教室がここから近い棟なのでよく来ているんですよ。今日も友人が席をとっておいてくれたんです――アド、こちらがルクレチア先輩だよ。」


 そういってカルロは、奥に座って談笑している栗色の頭の少年に声をかけた。


 「やあカル!どうやら先輩に振られなかったみたいで安心したよ。お初目にかかりますルクレチア様、スポレート伯が息子、アドレアン・ヴィドーと申します。以後お見知りおきを。」


 少年は礼儀正しく挨拶をすると、人好きのする顔でにこっと微笑んだ。保護者からは“子供の友人にしたい子”と称されそうな感じの良い少年である。

 するとカルロもあっ、と小さく声をあげお辞儀した。


 「失礼しました、授業では先輩に声をかけるのに必死で、きちんとご挨拶差し上げていませんでした…。今更ですが、ペザロ伯爵が息子、カルロ・マラテスタと申します。僕も先輩と呼ばせて頂いていますし、ぜひカル、とお呼びくださいね?」


 首を傾げながら悪戯っぽく微笑む姿は、まさしく天使のようだ。それを横目に見ながらアドレアンは仕方なさげに溜息をついた。


 「お前、先輩に来て頂いておいて、自分はちゃんとご挨拶していなかったのか…ほんと、こんなやつですが良いところもあるんです。今日のところは少し多めに見て頂けたら幸いです。」


 「あらそんな、畏まらなくてよろしくてよ?わたくしはこんな可愛い後輩たちにご挨拶頂けるなんて、今日は運のいい日だわ。」


 (なるほど、なかなか良い子を親友にしてるわけだ。さて、今日はどんな話をしたくてここに私を連れてきたのかな?)



 着席しメニューをみてあれやこれやとお勧めを教えてもらう。その光景はまさしく、懐く後輩を微笑ましくあしらう先輩、という温かい一場面である。


 結局カルロはクラブサンドとプティング、彼女は海鮮サラダとスコーンという組み合わせにした。クラブサンドはなかなかボリュームがあるが、カルロは意外と健啖家らしい。

 しかしその食べ方は容姿に見合う上品で可愛らしいもので、反比例しているはずの豪快なスピード感でどうやってその食べ方ができるのか、彼女は後学のために身に着けようとさりげなく観察していた。


 「そういえば先輩、最近フェルディナンド殿下のもとに行かれないですよね。」


 彼女がスコーンを食し終わるころ、カルロはそれまでしていた友人の笑い話などから一転、とうとうその話題に触れてきた。


 「そうね、確かに言われてみれば、ここのところあまり殿下のお顔を拝見していないわ。」


 小首を傾げながら彼女は答える。


 「僕の記憶では、以前はよく殿下とご一緒されているところを見かけたと思うんですが…先輩は最近、お忙しかったりするんですか?」


 「あら、お忙しいのは殿下も同じよ。タイミングが合わなくて、お互い顔を合わせる機会もございませんの。」

 

 「そうなんですね。あれ、でも前は先輩、多少の無茶をしてでも殿下のためにお時間つくっていらっしゃった気がするけど…」


 (うん、ルクレチアはとにかく殿下が好きで追いかけまわしてたっぽいもんね。嫌味ではなく完全に事実ってとこがイタイよ…)


 「いやだ、後輩にまでそんな風に見られていたなんて、以前のわたくしが恥ずかしいわ。…そうね、確かに前は殿下に認めて頂きたくて、色々とご迷惑をおかけしたかもしれないわね。でもこの前の夏季休暇で学園を離れて、少しわたくしも反省したのよ?わたくしはアレティノ公国第2王子、フェルディナンド殿下の婚約者。仮にも王族の末端に連なろうとする娘が、心を乱して行動するというのは頂けないですもの。」


 「なるほど、先輩も色々と考えられて行動していたわけですね。僕のようなものが、差し出がましいことを申してすみません。」


 カルロは申し訳なさそうに眉を下げる。いいのよ、と鷹揚に返した彼女をちらりと見やると、「それで、あの…」と更に言いにくそうに切り出した。


 「なにか気になることでもございまして?」


 もしかしてここでヒロインの話に繋げてくるのかな、とぼんやり考えていた彼女にとって、次に発せられた言葉は青天の霹靂だった。



 「これは、あくまで僕がある伝手から小耳に挟んだ話なんですが…先輩はここのところ、モンテフェルトロ先輩のお父上に、王族としての振る舞い方をご教授頂いている、とか。」



 まさかそれを小耳に挟んでくるような伝手を持っているとは、彼も隅に置けないらしい。彼女はそう思いながら、次に言うべき言葉を探すことにした。






遅くなりましたが、ブックマーク・評価等ありがとうございます!

仕事もあるので更新ペースはまったりですが、続きを楽しみにして頂けるように、頑張って作話していきたいと思います:D

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