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第5話 獲られた能力の片鱗

「承諾していただけますか? 」

 と、真剣な表情の老人に問いかけられる。


「えーと、少し考えさせて……」


「申し訳ありませんが、残された時間は僅かなのです。逡巡している余裕は、ほとんどありません。どうか、今すぐ決断をお願いします」

 老人は、急かすように言う。表情からも焦りがにじみ出ている。何が原因なのか、僅かに全身が震えている。


「うーん、わかりました。確かにそうですね。悩んでも答えは変わりそうにありませんから。引き受けましょう」

 その言葉を聞いた途端、老人の顔に光が蘇ったように思えた。


 ピローン!


 妙に軽やかな電子音が響き、メッセージが届いた。


【Dagdaさんから、『造物主』の権限を引き継ぎました】


 そして、なにやら圧縮されたファイルもメールで送られてきた。

 その容量、なんと約2GBもある。このゲームのメーラーは、ファイルの添付も可能なのである。


「これは、一体なんでしょうか? 」

 ファイルを解凍する前に、老人に問いかける。


「今、お送りしたのは、この世界の造物主という存在としての基本操作マニュアルといえる物とこの世界のほぼ全てのデータです。一応、基本操作マニュアルに書かれてないところについて、私が必要だと思ったところや心構え的なものは、私がテキストファイルに書き込んでいるので、後で参照して頂ければと思います」

 と、あっさりと答える。


「いや……流石に、しばらくは付きっきりで教えて貰わないと、マスターするなんて無理なんじゃないですか? 」


「仰ることはごもっともなのですが、申し訳ありません。先ほどもお伝えしましたが、残念ながら、もう時間が無いのです。私は、まもなく消滅することになりますので。……本来なら、もう少しあなたとお話して、造物主としての心構えもお教えしたかったのですが、実にざんね……」

ノイズが走り、老人の姿が明滅する。音声もノイズでかき消されていく。

「ま…、あ……にこの…務を………けられて、私、……ホッ…したん……けどね」

 そして、電源が落ちたかのように、彼は消失した。最後は、なんだか安心したように笑っていたように見えたけれど。


「え……ちょ、ちょっと待って下さいよ」

 レイフェルは叫ぶが、すでにそこには誰の姿も無かった。

「何の引き継ぎも無いなんて、ズルいですよ~」

 無駄だと分かっていても愚痴らずにはいられなかった。


 彼の言っていた事が正しければ、とりあえず、世界は崩壊から免れたらしいけれど、それが事実かどうかなんて確認のしようがない。


「まあいいや。とにかく……」

 そう言いながら、メニュー画面を起動する。


「な、なんだよこれ? 」

 いつも通りシステムメニューを立ち上げると、コマンド数が異常なほど増えていた。通常の倍以上に表示メニューが増えていて、さらにカーソルをそこに置くと、見たこともなメニューがあったりする。

 通常プレイヤーには無かった、ワープコマンドや移動速度設定、エンカウント(敵と遭遇すること)率操作、高低差及び障害物無視コマンド、キャラクター探索コマンド、一斉送信コマンド、全体ログ監視、マップ俯瞰コマンド、通貨生成、アイテム製造、さらにはモンスター召喚コマンドまでもがある。一部コマンドはチートといっても問題無いレベルじゃないのか?

確かに、絶対唯一の造物主であれば、この程度のことなら当たり前、朝飯前なのだろうけど。


 ふと気になって、ステータス画面の基本情報を表示させてみる。

 表示画面の構成については、プレイしていたゲームの時のままだ。


 レイフェル  HP 5261/5261 

 造物主    MP  865/ 865

 Base Lv 150

 Job Lv   **

 Weight **/** money 12,368,225


 キャラクター名とHP、MPそれから所持金についてはサービス終了前と変わらない。

 けれど、職業がマスタークロスから造物主なんて存在しないものへと変わっている。さらにJobレベルも50だったのが『**』になってしまっている。Weightつまり、キャラクターが所持できる重量制限も『**』になっている。

 単なる文字化け表示になっているのか、それとも表示不可能となっているのだろうか。

 もしかして、重量制限が無くなっているということだろうか?


 そして、ふと思いついたことがある。そういえば、通貨生成というコマンドがあったな。これが一番簡単そうだと判断し、まずは、それを試してみようと考える。

 メニューボタンを押下すると、画面がポップアップする。

 0という数字の横に上下の矢印ボタンがついている。

 それを押すと、その数字がどんどん増えていく。どうやら現在所持しているお金との合計金額が表示されるらしい。確か、ゲーム上での最大所持額は999億9999万999円だったはず。

 レイフェルは数字をそこまで増やすと【OK】ボタンを押す。


【所持金を99,999,999,999moneyに増やします。よろしいですか?】

 もちろんイエスだ。yesボタンをクリックする。


 ポーン!


 軽やかな電子音とともに、本当に所持金額表示が変化し、moneyの欄が999億を超えていた。

「なんだこれ、すごい……」

 こんな金額のお金、今まで手にしたことさえないもの凄い金額だ。これだけでも確信できる。本当にゲーム世界における権限が自分に移譲されているってことを。

 レイフェルば、ギルドマスターの権限も貰っているから、ギルドの所持金もすべて使用可能になってしまっている。これだと総所持金は、とんでもない金額になっている。もはやお金に困る事なんて、余程のことが無い限りありえない。


 とはいえ、ゲームプレイヤーから買うしかないレア装備、レアアイテム以外の店売りアイテムはたいした値段じゃないから、いくらお金を持っていたとしてもそれほど使うことは無いことに気づき、これはあまり機能しない能力だなと思った。いくら大量に店売りアイテムを買ったところで、その性能はかなり低いから使い道があまりない。

 また、少なくともゲームキャラクターのいない、NPCだけの世界では、相場を操作するものが存在しないから、永久に価格が変動する事なんてないはずなんだし……。

 そうは思うものの、この世界がどう変貌を遂げているのかは未確認なので、結論づけるのは難しいので、何とも言えないのだけれども。


 視覚的に見えるコマンド以外にも、造物主としてのコマンドはあるはずだ。そんなことを考えながら、メニューバーをスクロールさせていく。


 けれども、造物主として行うような権限は、プレイヤー画面表示からは出てこなかった。メニュー画面に表示されるのは、せいぜい噂で聞くレベルのGMの権限までらしい。

 ということは、あの【Dagda】という老人から、……もっとも本当に老人なのかは不明なのだけれど、貰ったファイルをすべて読破しないといけないということになるようだ。……なんか凄く憂鬱になる。けれども、それを読まないと手探りでこの世界を彷徨わなければならなくなるということだ。どっちにしても、元の世界とのしがらみが無くなってしまった自分にとって、時間だけはほぼ無限にあるようなので、じっくりと向かい合ってみるのもいいかもしれない。

 とても大事なことなのだけど、先に考えなければならない事があるので、とりあえず置いておくこととする。


 真っ先に気になるのは、ゲームプレイヤーに死は訪れるのか……という疑問だ。

 世界がゲームだった頃は、たとえ死んだとしても経験値減少などのペナルティがあるだけで、すぐに復活することができた。つまり僅かながらの取り返すことのできる代償を支払うことで、プレイヤーは死の恐怖から解放されていたのだ。しかし、今の世界において、その特典が継続しているかは全く不明だ。これは非常に深刻で大きい問題であり、変わっていたとしたらとんでもなく恐ろしい事だ。かといって、試してみるわけにもいかないし。


 続いての問題、それは、生きるために必要な食料や水が前と同じように手に入れることが可能かどうかだ? 世界がゲームの頃は、食事は生きるために必須だった訳ではなく、単なる娯楽の一部だった。しかし、世界が変化した今、キャラクターは食事をせずとも生きていられるのか分からない。時間が経てば空腹になるかどうかで食事の必要性は分かるが、食料や水が手に入るかどうかについては、現段階では判断ができない。今はギルド居城の中なので外の状況が分からない。ゲーム時代の頃のように世界は保たれているのか。そうでなければ大変だ。人が存在しない世界に取り残されても何もおもしろくないし、食料を自分で調達しなければならないし、調理まで自分でやらないといけない。なんとかなるかもしれないけれど、これは、死活問題だ。


 それから、モンスター達はどうなっているのかも気になる。

 ギルド居城に配置したNPCはそのままだろうから問題ないと思うけれど、フィールドに配備したモンスター達は制御不能になってはいないか? 仮に制御できないとなると、大変なことになる。なぜなら、ギルド居城を含めた領土全体に飛行禁止の制限がかけられているから、普通のキャラクターなら徒歩でなければ敷地の外にでられないのだ。

 フィールドに配置されたモンスターはレベル60以上のモンスターばかり。しかもすべてアクティブ状態だ。仮に敵味方が判別できなくなっていとしたら、たとえレベルカンストのマスタークロスであろうとも、単独で突破は不可能なのだ。そもそも現在のステータス設定がパーティ特化した火力追求型となっているため、一撃の攻撃力は全クラス最強レベルであっても、回避はほぼできないし、防御は紙といっていい。とてもじゃないが自分のギルド居城からの脱出すら不可能なのだ。追加されたスキルのエンカウント率操作で乗り切れるかもしれないが、かなり不安だ。継承した造物主の戦闘力がどんなものか、そもそもどういった力を持つのかもよく分からない状況だから、安心だとはとても言えない。

 仮にモンスターに歯が立たないなんてことになってしまったら、ギルド城に永久に閉じ込められることになってしまい、洒落にもならない。ゲーム世界に閉じ込められ、さらにギルド居城内に閉じ込められるて出ることさえできないなんて、酷すぎる話だ。まさに二重密室。

 キャラクターには死があり、食事が生きるために必要だというリアル世界と同じ状況に置かれていたとしたなら、自分は飢え死にするか、モンスターに殺されるかの二択しかなっくなってしまうのだから。


 ネガティブに考えてばかりでは何も始まらない。レイフェルは、仕方なく圧縮され送られてきた添付ファイルを解凍することにする。


 作業状況の進捗を示すメーターが動き出す。結構な量があるようで、解凍にすら時間がかかっている。


 だいたい1分近く経過して、作業は完了した。


 解凍されたファイルはプロパティで確認すると、全部で253個もあった。

 PDFファイルが2つ。テキストファイルが250個。あと一つファイルがあるが、アイコンが妙な形になっている。


 試しにPDFの一つを開くと、「造物主としての心構え」というタイトルが書かれていた。ページ数を見ると128ページもあった。もう一つのPDFは15ページのファイルで、知っておいたらいい豆知識というタイトルだった。どうやら、後者がDagdaさんが作ったものらしい。


 テキストファイルについては、もの凄い量のテキストに埋め尽くされており、数字だらけだった。よく見ると様々な事について日本語でかかれており、それを見る限りは武器の名前だったり、アイテムの名前だったり、町の名前だったり、人の名前だったりしているようだ。

 どうやら、ゲーム世界におけるデータがファイルには書き込まれているようだ。

 そして、アイコンが妙な形になっている残り一つのファイルにつては、ダブルクリックしてもエラー音がするだけで開くことができなかった。

 開かないということは、現状ではどうすることもできないということだ。最後の一つのファイルを見るためには、なんらかのアプリケーションを手に入れるかしないと無理らしい。

「まあ、仕方ないか」

 見られないものはどうがんばっても無理なので、とりあえずは諦めるしかない。現状は、見ることのできるものから分析していくしかない。


 ちらっと内容を見た限りでは、これって本当にゲーム世界の設定をいじれるようだよ。つまりは、ネットゲームの運営側になったといって間違いないのだろうか?

 ということは、プレイヤーレベルで行うチートなんてちゃちな物じゃないということだけは、理解できた。


 しかし、その力を使うには、これらを全て把握しないといけない。まずはPDFの文書を読み込まないといけないようだ。

 それは、思った以上に難儀な作業かもしれない。けれども、この世界を生き抜くために必要な知識っぽいから頑張るしかないのだが。


「あー、面倒くさいなあ。そうは言っても放置するわけにもいかないし……」

 思わずぼやいてしまう。


「しかし、その前に……」

 面倒くさい事は常に先送りしてしまう癖が出てしまう。他にしなければならないことがあるはずだ、と。そして、懸案事項について、解決を先送りするというそれなりの理由を付けてしまう。

「コホン。まずは、この城がきちんと機能しているかを確認しないといけない。各階層のNPCの守護者達がどうなっているか確認しないとな。暴走しているかもしれないし、そうなってたら大変だからな」

 誰にいうでもなく言い訳を口にする。


 決してこの考えは間違っているわけはない。ゲームサービス終了の世界がどのようになっているか、まるで定かではないことも気になっていたのだから。

 果たして、サービス終了前の世界のままなのだろうか? それを知るためには、とにかく調査を始めなければならないだろう。


 早速、レイフェルは、大広間の巨大な扉を開いた。


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