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第3話 そこは知らない日本

 時間は、午前0時になった。


 しかし……何も起こらない。

 レイフェルは、恐る恐る目を開ける。


 眼前に広がる光景は、ほんの10秒前と何ら変わらない状態だった。

ゲーム世界が崩壊することもなく、ただ、無人の部屋に彼が存在するだけだった。


 システムより、時計を表示させる。


 2015年9月30日午前0時01分10秒


 そして時間表示は、淡々と正確に、しかし確実に進んでいく。


「一体、どういうことなんだろう? 」

 思わず独り言を言ってしまう。

「サーバはシャットダウンされたはずだろう? もしかして、何かの事情でサービス終了が延期でもされたのか?」


 確認のため、慌ててメニュー画面を起動し、ログイン者数を表示させる。



 接続者数――― 1人



「なんだって……」

 表示されたその数字が意味すること……。それは、この世界には一人だけしかいないということ。

 過疎化が進んだ影響で、サーバー数がどんどんと減らされ、ついにはサーバーがレイフェルのいるサーバー一つにまで削減されていたのだ。


 つまり、レイフェルのみがこの世界にいるプレイヤーだということだ。

 先ほどまでは、少なくとも数十人がいたのを確認していたから、みんながログアウトしたのかもしれない。けれど、あの時間まで残っていたということは、サーバが落ちるまで居座る人たちだったはず。

 それでも、他のプレイヤーがいないということは、サーバは落とされたと考えても間違いないのだろう。


 けれど、自分だけがこの世界に残されている? 


 つまり、自分だけがこの世界に取り残されている?


 ライトノベルやアニメを未だに趣味として見ているレイフェルの脳裏に、猛烈に嫌な予感が走った。


「まさか……」

 最悪の事態を想像したせいか指先が震える。それでも何とかメニュー画面を表示させる。


 そして、画面をフリックさせて一番下のメニューを表示させる。

 彼が求めたコマンド、それは「ログアウト」だった。


「あれ、あれ? 無い無い。どういう事だよ、無いじゃないか。ログアウトコマンドが」

 位置が変わったかと思い直し、上へ下へとフリックを繰り返し、しつこいくらいにメニューを確認する。

「くそ、そんな馬鹿な。じゃあコマンド入力だ」

 コマンド入力画面がゲームにはあり、そこに特定のコマンドを入力することで直接操作をできるのだ。

 キーボードを呼び出し、素早く入力する。


 /logout


 しかし、何の反応もなかった。


 メニューにログアウトが無く、直接コマンドを打ち込んでもダメだった。

それによる結論。


 まるでラノベのように、この世界に閉じこめられたというわけだ。


「はは、あ……あははははは!! 」

 自分の置かれた立場に気づき、どういう訳か乾いた笑いが出てきた。

 こんな非現実的な事が起こるなんて、信じられない。衝撃が全身を貫き、力が抜けていくのを感じた。まともに立っていられない。


「ずいぶんと酷いじゃないか、これは。ラノベの設定だったら、プレイヤーみんながまとめて閉じこめられていたのに。……けれど、僕はひとりぼっちで世界に閉じこめられたっていうのか? これじゃあ、まるで牢獄じゃないか」

 この世界からの脱出できないことよりも、ひとりぼっちであるということがとてつもなく怖かった。

 けれど、どうすることもできないということは理解している。


「GMは何処にいるんだよ、GMは。こんな話、冗談にもほどがある。僕は、実験動物にでもされたっていうのか? VRMMORPGの世界に閉じこめられた人間が、どんな行動をするかって実験にでも使われるっていうのか」

 このゲームには、GMゲームマスターと呼ばれる運営のサポート役となる人間を呼び出すようなコマンドは存在しない。彼らと連絡する際は、運営のホームページの【ご意見ご要望】から一方的に連絡するだけだ。それに対して、向こうが必要と判断すれば、登録メールアドレスに返事が来る仕組みだ。


 だから、どんなにここで叫んだところで返答は無いはずだし、そもそも、サービスが終了したゲームの管理をするというのか。。

 まだ人体実験というのなら、研究者がレイフェルの行動を監視しているから、何かあった場合は助けてくれる可能性もゼロではない。しかし、プログラムのバグかなにかで精神体だけがゲーム世界に取り込まれ、そのままサーバを落とされたというのなら、話が違ってくる。この世界は外からは認識されず、誰にも興味を持たれず存在すら忘れられる。


 ……そう考えてみるが、状況からすると、どちらもありえないことだと思った。


 では、この世界は一体なんなんだろう。


「どうすりゃいいんだよ……」

 泣き言を呟いてしまう。いつの間にかペットもいなくなっている。

 何が起こったんだ?


「まあ、そんなに嘆かなくても……」

 唐突に声が聞こえ、レイフェルは慌てて声のした方を見る。


 そこにはシルクハットを被り、ロイド眼鏡をかけ、燕尾服姿の老人のような男がいつの間にか立っていた。

 痩せこけた体で顔色は青ざめ、瞳は濁り気味で、よろよろとして、立っているのさえ苦痛そうで、どうみてもその姿は弱々しかった。


「誰だ! 」

 相手の外見に騙されてはいけない。ここにいきなり現れた事が問題なのだ。

 老人を注視するが、彼のキャラクターレベルが表示されない。ゲーム世界におけるプレイヤーについては、キャラクターレベル及び名前が表示されるのだが、彼からはそのどちらも表示されていない。システム上、そんなことはありえないはずなのだ。


 不意の侵入者に、瞬時に最高レベルの警戒態勢を取る。


 レイフェルは、アサシン系の職業の内、最上位にあたるマスタークロスという職に就いている。当然ながらレベルは、キャップ一杯のレベル150であるし、スキルも購入スキルも含め全て取得している。装備についてもギルメンの協力を得て、上級レアアイテムで固めているため、単体での戦闘ならばゲームワールドの中でもほとんど負けない自信はあった。


 ショートカットに登録したスキルをいつでも発動できる体勢を取る。


【ファントムメナス】発動。

 周囲20メートルに存在する、魔法や特殊アイテムを用いて存在を隠したものを視認できるスキルだ。周囲には今見える男しか存在しないことを確認。


 能力強化アイテムを使用。

 HP上昇、MP上昇、攻撃力上昇、防御力上昇、回避力上昇、詠唱速度上昇、HP継続回復、MP継続回復、敏捷強化のアイテムを瞬時に使用する。ステータス値が急激に増加する。


【ポイズンスモーク】発動。

 眼前の正体不明の存在には見えないだろうが、周囲に無色透明の霧が立ちこめる。今回選択した毒素は、身体的もしくは精神的作用により人を一時的に活動不能にする類のものを選択した。敵かどうかわからないのでいきなり殺傷能力の高いものを使うのを躊躇したのだ。やつが接近すれば、この毒素をもろに浴びることになる。


 念のため、【ダークイリュージョン】瞬間移動に似たスキルを発動準備態勢にしておく。

 相手がどの程度の敵であろうとも、接近と同時に瞬間移動し、相手の背後から致死攻撃をかけることができる。


 まず負けることはない。それは、これまでの対モンスター戦だけでなく、ギルド戦、PvPの経験からの結論だ。


 しかし……。


 準備を整えた状態で、彼の心に不安がよぎる。


 レイフェル達のギルド居城は、2,000平方キロの敷地のほぼ中央にあり、城に来るまでには結界で仕切られた複数のエリアを越えてこなければならず、そこにはアクティブ設定の強力な上位モンスターを大量に配置している。そして、当然ながらそのエリア事にNPCのガーディアンを設置し、それを倒さなければエリアマップ移動はできない。


 エリアBOSSそれぞれの強さは、プレイヤーレベルに換算するとレベル100を超すものばかりであり、それ以外にもそれぞれの属性の部下を複数控えさせ、戦闘は基本的にパーティを組んで戦うようにしている。それぞれがそれぞれの弱点を補完するような組み合わせにしているため、プレイヤーにとっては面倒くさい敵であることは間違いなく、レベル以上の強さを誇っているはず。

 そして、仮にそれらを倒したとしても、城の中には、さらに強力な神獣クラスの強さを持たせたNPCを各階層で警戒させている上に、守備側の戦闘に有利な条件付与、ギルドメンバー達が練りに練ったトラップが無数に仕掛けられている。


 まともにここまで戦闘を繰り返してやって来ると仮定すれば、平均レベル150の神器級のレア装備を全員が装着し、さらに消費アイテム使用無制限にした、特化パーティ50組が相互協力前提で挑んで、何とか1パーティがここにたどり着ける可能性が10%という程度の難易度を誇っていたはずなのだ。

 これは、ギルド攻城戦を数え切れないくらい繰り返し、試行錯誤した結果実現した守備力だった。終盤においては、突破率0%、難攻不落の城として他のギルドから嫌われていたくらいである。

 故に、ゲームプレイヤーがここを堕とそうとすることは非常に考えにくかった。得る物より失う物の方が遙かに多いということをみんな知っていたからだ。


 それ以前に、レベルキャップ到達したプレイヤーを200人も集める事自体、過疎化したこのゲームでは不可能なので、現実にはありえないのだけれど。


 それをたった一人でたどり着くなんて、ありえない。常軌を逸しているとしか思えない。そんな強いプレイヤーなど存在するはずがないのだ。


 すると、目の前の燕尾服の老人は何者なのだ?




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