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プロローグ ー オンラインゲームが終わる日

 アナウンスとともに、チャットメッセージが視界の下に流れる。



「こちらは創世アクシス・ムンディ・オンライン運営チームです。


 2002年7月4日よりサービスを開始しておりましたが、


 この度、2015年9月30日24:00をもちまして、


 サービスを終了させていただく事となりました。


 サービス開始以来「創世アクシス・ムンディ・オンライン」を


 ご愛顧いただいた多くのお客様に対しては、


 この度この様な結果となってしまいました事を心よりお詫び申し上げます。


 大変なご迷惑とご不便をおかけすることになり、誠に申し訳ございません。


 何とぞ、ご理解ご了承くださいますようお願い申し上げます。


 本日、24:00のゲームサーバークローズまで短い間ではございますが、


 「創世アクシス・ムンディ・オンライン」をお楽しみください。



 サービス終了までの間、有料アイテム、機能をご利用いただけます。


 なお、効果時間が発生するアイテムの扱いにつきまして、サービス終了時までに


 アイテムの効果が残っている場合や、アイテムが未使用の状態などの場合でも、


 返金や補填対応などは、一切行えませんのでご了承ください」





 そう……。


 こんなメッセージが流れるってことだけで分かるが、ここは現実の世界ではなく、ゲーム世界の中である。


 ここは、VRMMORPG(バーチャル・リアリティ空間で実行される大規模多人数同時参加型オンラインRPG)の一つ、「創世アクシス・ムンディ・オンライン」という一つの架空世界である。


 プレイヤー名「レイフェル」は、このネットゲームをプレイ中であるわけだ。


 この「創世アクシス・ムンディ・オンライン」というゲーム世界は、他のRPGで良く用いられているように、北欧神話をベースとした世界観で構築されており、神、巨人、人間、妖精、精霊、亜人、悪魔、アンデッドなどの多種多様な種族が存在し、それぞれがそれぞれの思惑の中、覇権争いを行っている設定である。その世界の住人としてプレイヤーが参加し、冒険や戦闘を行うロールプレイングゲームである。


世界軸(axis mundi)を創生しようというゲーム名からして、開発会社はかなりの資金を投入し、膨大な開発資金、宣伝費を投じて作成されただけに発表前からそのゲームへの期待値は大きかった。 


膨大に存在する種族は、更に分化して種族がおり、その種類については、最終的には300種を越えていた。


 ゲームプレイヤーは、一部例外種族や課金アイテム限定でしか選択できない種族もあったものの、人間以外の多数の種族を選択することもできた。また、RPGにありがちな多種多様な職業も選択でき、種族特有の職業を含むと500種類以上の職業から選ぶことができた。さらに転生することで種族の限界を超えた成長もすることが可能であり、課金アイテムを使用すれば、英雄クラスといえるレベルまで成長させることも可能であった。


 武器防具についても、先にリリースされている各種ゲームを参考に把握しきれないほどの種類があり、また、装備アイテムへのモンスターカード挿入による能力値の強化ボーナス制度、スキル付与も採用されていて、それらカードを組み合わせることにより、魔法攻撃付与、HP吸収、攻撃力UPなど様々なボーナスを得ることで更なる強さを求めることができた。


 また、モンスターとの戦闘だけになるとユーザーの飽きが早いことから、武器防具生産やアイテム開発、採掘や売買、ギルド作成およびギルド戦などの要素が逐次追加されていった。

プレイヤーはモンスターと戦い、装備やカードを入手して自らを強化してもいいし、生産を極め世界に一つしかない最強装備を目指しても構わない。ただ漫然と一日を自堕落に暮らすも良しといった自由度の高いゲームだったのだ。そのため用の様々なイベントや店も導入されていた。


 サービス開始当初は斬新だったフルダイブ型のおかげで、ベータテスト段階から1万人を越えるプレイヤーが参加し、正式サービスが始まってからは、同時接続者数が最大50万人に達した事もある超人気オンラインゲームだ。


 いや……かつては人気だったオンラインゲームというのが正解だな……。





 再びアナウンスが流れる。

 形式的に取り繕うだけのメッセージ。



 「ログイン中のプレイヤーの皆様にお知らせとお願いをいたします。


 「創世アクシス・ムンディ・オンライン」サービス開始以来、


 約10年の間の長きにわたりご愛顧いただき、


 誠にありがとうございました。


 大変、名残惜しいところですが、あと1時間で本サービスを終了しますので、


 ログイン中の皆様におかれましては、サービス終了時間までに、


 必ず、確実にログアウトを完了されますよう、よろしくお願いします。


 サービス終了と同時に、サーバをシャットダウン致しますので、


 回線切断後のおける「トラブル」等については、


 当方での責任は負いかねますので、


 何とぞ、なにとぞご注意下さいますよう、重ね重ねお願い申し上げます。




 それでは、長きにわたり、ご愛顧頂きまして本当にありがとうございました。


 また、どこかでお会いできることをお祈りいたしまして、ご挨拶とさせて頂きます。



 今後ともGAME O・I・Kが運営致しますオンラインゲームをご愛顧いたければ幸いです・・・。」


 無機質で形式的なメッセージが繰り返し流れ続ける。ちゃっかりと他のゲームの宣伝をしているところも嫌らしい。



 今の時間は、午後11時35分……。


 ログイン数は、ほとんど変化無しだ。


 サービス開始時から比べると寂しい数字ではあるけれど、最後の祭りということでここ数か月では想像もできない数のプレイヤーがログインしている。


 今ここに来ている連中は、本当にこのゲームを好きだった奴らに違いないと思う。


 個人的には、何とか彼ら彼女らに話しかけたいが、わざわざ探しに行くのも億劫だ。

 創世アクシス・ムンディ・オンラインの世界は、想像を絶するほど広い。そんな中、面識も無い人を探すのは、ほとんど不可能なのだ。実際に視認しない限りは、存在を確認できないのだから。チャットするにも名前を知らなければ、連絡も取れない。


 それに……。


 そもそも、そんなことを望んでいる人はいないだろう。みんな自分と同じように、一人でこのゲームの思い出に、楽しかった時代を名残惜しんでいるのだろう。

 自分もそんな華やかだった頃を懐かしみたいと思うけれど、ログインしているプレイヤーに見知った名前は無かった。

 

 ギルメンもフレンドも一人もいなかった。彼らと最後の接触を持ったもは1年以上前だから、当然のことだろう。


 椅子に深々と腰掛けて、来るべき時……世界の終わりを待つ。


 圧倒的な自由度があったこのゲームで、すべてをやり尽くしたわけではないけれど、このレベル、このギルメンの数でできることはすべてクリアしたと思う。……もちろん、攻略組といわれるような超課金廃人ギルドほどまではやり尽くしたわけではない。手に入れていない武器や防具、アイテムや魔獣を持っているわけではない。そんなの手に入れるためには、社会人では不可能なほどの膨大な時間と、驚くほど大量のリアルマネーが必要だったのだから……。特にサービス終盤には、多数の限定クエストのマップが追加されたが、そこには理不尽で異常なほど強いモンスターが配置され、一般ユーザでは10分も保たずに全滅させられる有様だった。課金しないと探索すらできない、しかし、制覇すれば超レアアイテムが手に入るという集金システムが構築されていた。


 だから、ネットの情報でしかどんな世界だったを知らない。公表されなかったマップは制覇した者しか知らないはずだ。

 どうせサービス終了させるのなら、課金者限定だったその世界を解放すれば良かったのにと本気で思った。そうすれば、もう少しは延命が図れたかも。……そう思って首を振る。


 馬鹿馬鹿しい……それももう済んだ話だ。


「にゃお」

 鳴き声がして、そちらを見ると一匹の子猫がいた。


 この猫の名前は、安易だけれどもニャットという。ゲーム上でのペットだ。コイツは子猫サイズの小さいなりしてレベルは86もある。このゲームにおいては、プレイヤーのレベルキャップが150であり、ペットは100であることから、レベルだけで判断しても、かなり強い部類モンスターといえる。さらにコイツは、期間限定マップの大規模レイド戦のボス制覇MVP賞品の一つとして入手した猫だから、その能力はレベル以上なのだ。所持しているプレイヤーもかなり少ないはずの、自慢のペットなのだ。


「おいで」

 呼ぶとすぐに駆け寄って膝の上に乗ると喉を鳴らす。

 ……ゲーム終了と同時に、こいつともお別れか。何も分からないまま、データとして消えていくんだろうな。そう思うと寂しくなる。


 ギルドメンバーとの思いでも、データと共に消去されてしまうのか……。

 ネットゲームの終わりは常にこうだ。寂しさだけが残り、後は何も残らない。


 ギルドの仲間みんなで共に戦い、共に苦労して築き上げたものが消えていくのだ。

 否、それ以上にその感傷を分かち合える仲間がすでにここにはいないこと、それがもっと寂しかった。


 もう彼らとは二度と会うことができないのだから。


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