第9話:転落
「おれ、このまま死ぬのかな」
1メートル先も見えない極寒の吹雪の中に慶の体はあった。
その体は雪に埋まり、意識はもうろう、自分の体から生気が抜けていくのがわかる極限の状態。
今にも三途の川も通行してしまうような死の一歩手前に慶の意識はあった。
そもそも何故このようなことになったかというと時間はかれこれ二時間程前に戻る。
慶とリーシャはオーシャンの薦めでここら辺で一番栄えているアリアに向かう為ジス村から飛行船に乗船。これが慶にとって不幸の始まりであった。
無事離陸しリーシャと共に眼下に広がる天険アイスナルキス山脈の雄大な大自然を見下ろしている時、慶の耳に不意に
「バキっ」という何とも不幸な音が聞こえたかった思うとそのまま飛行船から一直線。
結果今の状況にいたる。
「眠い・・でも寝たら」
風前の灯火のような精神を奮い立たせようとするが人としての命のリミットはもうすぐ近くまで迫ってきている。
「ラーメン、牛丼、ハンバーグ、せめて死ぬ前に一つくらい喰っておきたかったぜ・・・・ん?」
死に際に食べ物しか想像しないめでたい慶の視界のハジにふと、なにやら黒いものが映ったかと思い、振り向くと何か向こうの方に黒いものが立っているのが見えた。
「なんだアレ?」
よく見ようと目をこすりもう一度見る。
「アレ?」その黒いものは更に大きくなっている。
「アっレ〜?」
再度目をこすり見てみると目の前にその黒いものは立っていた全長2メートルは超えるだろうそれの顔部分に徐々に目をやる慶。
「ぎ、ぎゃぁぁああぁあ!!」
目を怪しく光らせる黒いものの顔を見て慶は絶叫の後、パタンと呆気なく気絶してしまった。