第4話:Spirit Gear
慶は暗い空間を落下し続けていた。
「どこまで落ちんだよ〜!?」
あのクリーム色の空間で扉に飲み込まれた慶はすぐに落下し始め、かれこれ2分程落下し続けている。
ふと、暗闇しかない下に僅かな光が見えたかと思うと暗い空間を抜け無数の光が瞬く無重力の空間へと飛び出した。
「ここは、宇宙か?」
僅かに光っていたのは宇宙に浮かぶ星であり、慶の眼の前には地球にそっくりな惑星がドンと構えていた。
大陸の形には違いがあるが海や自然。その美しさたるや圧巻だ。
フヨフヨと漂っていた慶の体が勢いよく地球のような惑星をぐるぐると廻るように引っ張られはじめ、段々と惑星に近付いていっている。
そのうち大気圏を突き破り、惑星を廻り続ける慶の体はやがて一筋の光となって一つの大陸へと降り注いだ。
しばらくして気がついた慶が回りを見渡すとそこは都会育ちの慶があまり見ることのないような巨大な木々に囲まれた樹海のような所だった。
起き上がろうとした時、左の手首に身に覚えのないブレスレットがしてあり、あのプフという男にもらった鍵とDestiny Gateを開けた時の鍵が取り外し可能なように付けてあった。
(夢じゃなかった・・)
まだどこかであれは夢だったんだと思いたかった自分が崩れていくのがわかった。
「驚いた・・人がいたよ」
一人落ち込む慶の後ろからした突然の声に振り向くと、きこり風の一人の男が立っていた。
「どうしたんだこんな所で」
相手からしてみれば当然の質問だ。こんな所に人がいるのだ。驚くのも無理はない。
しかし、慶からしてみれば即答できる質問ではなかった。こんな初対面にいきなり違う世界から来た何て言われても信じるわけがない。
「答えられない事情でもあるのかい?」
少し不信に思いだし、帰ろうとする男を慶は必死に引き止めた。こんな木しかないような所でまた一人になったら命の保証はない。まずは近くの人里に連れていってもらうのが得策だ。
「待ってください!事情は言えないけど、妖しい者じゃないんだ。オレをどこか近くの街とか人がいる所に連れてってくれ!いや、連れてって下さい!お願いします!」
必死に頼み込む慶。
武器も持たずに体一つのその姿に相手も警戒を溶いたようだ。
「いいよ。オレの村に連れてってやるよ。」
「ありがとうございます!!」
「オレの名前はアクヲだ」
そう言ってアクヲは慶に手をさしのベてくれた。
「神谷慶何て珍しい名前だな。漢字ってヤツで書くんだろ?日国の人なのかい?」
「いや、まぁはい。多分・・」
村までの道のりをアクヲとたわいない話しで盛り上がった。
しばらく歩くと木の大きさも見慣れたサイズになり小鳥もさえずってる。
見渡しても元の世界とあまり変わらない世界。
プフに散々脅かされたけど、この分なら死ぬことはないだろうと慶は軽く油断していた。
「見えてきた。あれがオレの村だ」
山の間にひっそりとある村。
非常にのどかな雰囲気だが、そこには不釣り合いな程美しい教会が建っていた。
「綺麗な教会だろ。君にはまずあの教会で教主様に会ってもらうよ。旅人は教主様に会うのが決まりなんだ」
実際に教会に着くと、遠くから見るよりかなり大きく高層ビル等を見慣れている慶でも思わず見上げてしまうくらいだ。
「教主さま〜?」
中は中で壁も床も蒼いクリスタルのようなものでできていて、天井から降り注ぐ光を柔らかく反射している。
奥には黒く巨大な十字架が吊され、その下には白い女性の像があった。
「なんじゃアクヲ?」
奥の扉から一人の老人が現れた。その老人はどこかあの公園であった老人に似ているきがした。
「教主様、旅人です。名前を神谷慶と言うそうです。」
「おぉ、そうか・・ん?」
教主は慶の左手首に着いている鍵を見て驚いた顔をした。
「旅の人、こちらへ来てくれ」
慶は教主に教会の奥の庭に面した小部屋に案内された。
「私の名前はオーシャンだよろしく。早速だが君のその手首の鍵。それは主神の鍵だな。世界を統べる主神しか持ちえないはずの鍵をどこで手に入れた?」
「それは・・」
「全てを話して欲しい。どんな寄な話であらうと聞こう。」
慶は全てを話した。
例え信じてもらえなくても誰かに聞いて欲しかった。
少しの沈黙のあとオーシャンが口を開いた。
「なら君は旅に出るのだな?」
「はい」
当然の返事だ。
「なら準備する必要があるな。」
「旅の準備ですか?」
「それもあるが、それだけではない。戦闘の訓練も必要になる。君はこの世界を甘く見ているだろう。太陽の光が降り注ぎ、のどかな世界だと。だが実際はそうではない魔が蔓延る危険な世界だ。武術の心得があるくらいではすぐに死ぬだろう」
オーシャンは庭に出ると立て掛けてあった一本の剣を手に取った。機械的で白いボディに赤いストライプが入ったそれには剣には必要不可欠の刃の部分がない。
「この剣はこの世の太古からの技と現代化学の融合が織り成す神秘の武器だ。」
「でも、肝心の刃がないじゃないですか」
「この世界にはルーンと呼ばれるエネルギー体が存在する。ルーンは万物に宿り、ルーンが無ければ生物はたちまち死に絶え、どんなに強固な岩も砂塵に帰す。そして人間は長い歴史の中で体内のルーンを操る術を身につけ、それを化学と組み合わせる事でさらに強力な力を手に入れた。それがこの、スピリット・ギア(S・G)だ」
オーシャンの右手の平に黄緑色の風が渦巻き、やがて一つの球体になると左手に持つギアの柄尻にそれを叩き込んだ。
と、同時にギアの等身から黄緑色の刃が吹き出し見事に武器の姿を表した。
「ふん!」
オーシャンの一振りに近くにあった木が真っ二つに引き裂かれた。
「すげぇ・・」
「君にはこれを覚えてもらう。リーシャ、リーシャよ」
扉から一人の女の子が現れた。腰までかかる黒髪が綺麗な女の子。
「なんですか?教主様」
「この少年にS・Gの使い方を教えてやってくれ」
リーシャの青い瞳と眼が会って慶はテレからか思わず眼を反らした。
「わかりました!こっち来て、え〜と名前は?」
「神谷、慶です」
「よろしく、慶くん」
丁度この頃この村の北西にある村が二体の魔獣より潰された。