世界最高予言者の日記より一部抜粋したもの。
世界立図書館に掲示されている物を一部印刷したものである。
私がその男に出会ったのは、確か35歳の誕生日を酒場で人知れず独りで祝っていた時だった。
田舎が嫌で何か才能があるだろうと故郷を飛び出し放浪するように諸国を周り、なんの才能もないのだと気付いた時にはもう30歳を越えていた。
この日は誕生日と言う事もあってか珍しく私の落書きのような絵が売れたこともあり、少々機嫌が良かったのだ。
その男は私に話しかけてきた時には既にベロンベロンに酔っていたようだった。酒瓶を片手に私の隣に座ってきたのだ。
男は持った酒を少し飲むと、アンタみたいに不幸な人は初めて見るよと言ってきた。
更に続けて才能に恵まれないとも言ってきた。
余計なお世話だ。
と、言ってやった。
なんで初対面のヤツに言われなければならない?ケンカでも売っているのか?
と、思いながらも内心、
当たっている。オレは見ただけで何の才能もないと分かるほどそんなに貧相な顔をしているのかと落ち込んだものだ。
男は落ち込んだ私を見て話を続けた。
私にはどうやら何事もそこそこ才能があるらしい。
だが決して一番になれるような才能はない。いわゆる器用貧乏を絵に書いたような男だと言われた。
それが不幸なのだと男は言った。
何事もまあまあこなせるが、特出したものがない。だから熱中出来るものが無く、ある程度までいくと飽きてしまう為、私のような奴はつまらん人生を送るか、自分の限界を計り間違えてどん底に落ちるしかないらしい。
男は笑って言っていたが、聞かされた方は落ち込むに決まっている。
そんな私を見て気の毒に思ったのか男は私に面白い話をしてやると言った。
男はこの世界が誕生してから現在に至るまで、更には未来の事までを事細かに話し始めたのだ。突拍子もなく奇天烈な嘘かホントか判らないような話しが小一時間程続くと、男は最後にある少年の話をし始めた。
それまでが大まかな歴史を辿るものだった為、少し違和感を覚えたが話を聞いた。
その少年は異世界からやってきて、この世界を滅ぼすらしい。
そこまで聞いて私は酒に呑まれて酔い潰れてしまった。
目を覚ますと男の姿は無く、店主に聞いても知らないと言われた。
私は記憶力にはいささか自信があったので男に聞いた話を書記にまとめると、それを早速古い本屋に売りに出した。
内容はおふざけだが面白さを買われてなかなか良い値段で引き取ってもらえる事になったのでその金で故郷に帰ろうと思う。
所詮は平凡が似合う男だと理解したからだ。
それにしてもあのローゼンと言う男、彼の話には何か形容しがたい説得力があった。
あの男にはまた会ってみたいものだ。
ガリレイ・シュトラーの日記より抜粋。