第15話:早く行け!
「おい、いいのかよあのままで?」
「あぁ、いいんだよあれで」
僅かに晴れ間が指した先には、何の処理もされていないそのままのベアヘッドの死体が横たわっていた。
ルーンによる再生能力を失い、息絶えた後には戦いで負った生傷から溢れ出した血が、そこだけ赤く染めていた。
「やっぱり墓くらい造ってやろうぜ」
「うるさい小僧だな。あのままでいいと言っとるだろうが」
自然に生き、自然に死んだ動物の亡骸に墓はない。
他の生物の餌になり、骨になっても大地に埋もれその糧になる。
それが普通なのだ。
ベアヘッドには最後くらい普通の動物としての死を全うして欲しい。
とのグリンたっての頼みでもある。
「だが狩人ってヤツは殺す為だけに狩りに出る事を固く禁じられた人間だだからコイツを貰ってきた」
ジャスは包みから三本の立派な爪を取り出した。
「すげぇ…」
黒く、鈍く光るそれは、剣ではないが剣気迫るといった感じか、ただの爪なのにそれは妙な迫力に包まれていた。
「オマエにも一本やろう」
触るのもためらう剛爪をヒョイと持ち上げて投げ渡すジャス。
投げられた方はビックリして思わず落としそうになってしまう。
「渡すならもっと普通に渡せー!!」
「それくらい受け取れハナタレが」
改めて爪を見回す。
「ホントに貰っていいのかよオレなんかが」
「いいんだよ。曲がりなりにもオマエのお陰なんだからな、それにあんなおっかないヤツだったが少しでもホントのヤツを知ってるヤツに貰ってもらいたいからな」
困り顔でグリンを見るとガウと一回吠えられた。
それが慶には貰ってほしいと言っているように聞こえた。
謎の空間
ベアヘッド。
強敵であった。
その身体能力は勿論の事、特筆すべき再生能力にカマイタチの様な物を発生させる技。
どれもが神谷慶にとっては驚異だったがそのどれもを弾き返す神谷慶自身の能力。
神谷慶がこの世界に来てから演じた命をかけた戦いは僅か数日間で二回。
これが元の世界の生活ではどれほど有り得ない事か、そしてその二回を両方とも生き抜いた事によって神谷慶が得た経験値がどれほどの物か自分自身でもわかっていないようだ。
今後もその足取りを追い、随時まとめて行きたいと思う。
著クライン・アルバーノン
「クライン、また神谷慶を見ていたのか?」
椅子に座り、レポートを書く青い髪のクラインと呼ばれる男。声をかけたのは赤い髪をした中学生くらいの少年。
「あぁ、ホッパー。いや、彼は実に面白い男ですよ。ローゼンが資格を与えたのも頷ける」
ふーんと興味なさげにホッパーはどこからか椅子を持ち出し、クラインの近くに座った。
「クラインがそんな風にしてんの久々に見たよ。その、神谷慶とか言うのそんなに面白い?」
「はい、非常に興味深く、人間の醜い馴れ合いの部分がよく出ています。そう、とても、ね」
クラインはガッと立ち上がると天井を仰ぐようにして眼を瞑る。
「あぁ、人間とはどうしてこんなにも愚かしく、醜いのか、馴れ合いを好み、使えない者を切り捨てるのを良しとしないその考え!まったく…」
クラインの掲げる手からナイフが飛び出すとレポートに書かれた顔写真に突き刺さった。
「殺したくなってしまう…」
「ヒュー、クラインコワーイ」
山小屋
「もう行くか」
「うん、色々世話になった。ありがとう。」
「まぁ気にすんな。こっちも世話になったしな」
「それから…これ大事にするぜ」
慶は腰に下げられた爪の飾りを触りながら礼をいった。
「これからの旅気をつけるんだぞ。その、なんだ、諦めたら諦めたでオレの弟子になっても構わんがな」
照れながらのジャスを見て一番笑ってたのはグリン。何が可笑しいか!?と赤らめながら怒鳴るジャスを見て慶も笑らってしまった。
「もう早く行け!」
ドンと背中を押されて慶は走り始めた。
「また来るからな〜!…ん?」
大きく手を振るジャスとグリンの横にベアヘッドが見えた気がしたが、
「気のせいだろう!」
世界有数の大山脈天険アイスナルキスを後にし、慶は一路アリアに向かう。
いきなりリーシャの出番が無くなり失敗したと思ってます。