第11話:勝手にしろ
二時間ほど小屋で休んでいるがジャスとグリンはいまだに帰ってこなかった。
慶が少し心配して窓から外を覗くも見えるのは雪ばかり。吹雪は止まるところを知らぬ勢いで吹き荒ぶ。
「吹雪、か・・」
狩人がどんな仕事かは知らない。が、こんな吹雪の中狩りに行くことなんてあるのか?等と考える慶。
ふと見つけた古ぼけたジャスの日記。
普通は少しぐらい躊躇するところを慶は何も考えずにその表紙を開き読み始めた。
最後に書かれたのは二十年前の春先らしい。
それからさらに一眠り。
目が覚めたのは扉をぶち破るかと思うほど力強く叩く音が聞こえたからだった。
眠気眼で扉を開けると、一瞬で眠気は吹き飛んだ。
「ガ、・・ウ・・」
ルーンにあてられ、少し緑がかった血を垂らしたグリンと、その背中に背負われた体中傷だらけ、息を荒くしたジャスの姿が飛び込んできたのだ。
「ど、どうしたんだよじぃさん!?」
中まで入るとグリンは床に倒れ込み、ジャスはボロボロの体を引きずり椅子に座るとすぐさま傷の応急手当てを始めた。
傷口に消毒液をぶっかけ荒々しく包帯を巻くと、フラフラの体でジャスとグリンは再び吹雪の山に行こうとする。
「ちょっと待てよ!そんな怪我してんのにまた行くきか?!」
「当たり前だ・・」
ジャスの虚ろな目つきで元気も無く、肩で呼吸するほど苦しそうに息をする様子は、次こそは命が危ないであろう事を予感させるには充分だった。
「待てよ、そこまでしなくちゃならない仕事じゃないだろ、もう休めよじぃさん」
「ガキは黙ってろ!!」
ジャスの一括に、吹雪の音さえ静まり返ったような気さえした。
「じぃさん・・?」
「・・・・行くぞ、グリン」
その様子を見ると慶はおもむろにコートを着込み、こんな吹雪の中外出しても最低死なないような格好をし始める。
「小僧、ついてくる気か?」
「当たり前だ、今度はオレも行く。こんな風に知り合いに死なれたんじゃ、あの時止めとけばよかった。みたいな後悔しちゃいそうでやなんだよね」
ルーンを意識的に傷口に集中させ傷を癒やすグリンを軽く小突くとジャスは扉を出たところで小さく呟いた。
「ふん、勝手にしろ・・」
吹雪の中を三つの影が歩いて行く。