第10話:ジャス&グリン
外は変わらず猛吹雪。
白く冷たい悪魔が山々を覆っている。
慶はとある山小屋のベッドの上でスースーと寝息を立てて寝ている。暖炉があり、外と違って暖かさに溢れた空間。
「ん、ん〜?」
やっと慶が目を覚まし起き上がると、暖炉に一人の老人が木をくべている。
「やっと起きたか」
慶が起きたことに気づいた老人は手をはたくと近くの椅子に腰を下ろした。
「じぃさんがオレを助けてくれたのか?」
「違う」
老人は立てかけておいた猟銃型のSGをとるとメンテナンスを始めた。長年使い込まれた感がする黒いSGだ。
「じゃあ、誰が・・え?」
その時、部屋のドアを開ける者がいた。慶の視界に初めに入ったのは温かそうなスープ。そして次に入ったのは二足歩行する黒毛の巨大な熊。
「うわぁあぁぁぁぁ!?コイツはさっきの」
「そいつがお前を助けた恩人だ」
「ガウ」
驚き後ずさりする慶を気にするわけでもなく熊はスープをベッド横の机に置いた。「命の恩人を怖がるとは失礼なやつだな」
熊は専用に造られたような巨大な椅子に座るとジッと慶のことを見ている。
「この熊が?ホントかよじぃさん」
「熊じゃないグリンだ。ついでにワシもじぃさんじゃなくてジャスだ覚えとけ」
机に置いてあるスープを手元に寄せ、一口すする。
「うめぇ・・」
見た目はただのコーンスープにしか見えないがニンニク等の食材がバランスよく配合されたプロの味だ。
「それを作ったのもワシじゃなくてグリンだ」
「すげぇ熊だな。何もんだよいったい」
「グリンは少しルーンにあてられているんだ。知能が上がり人語も理解するし料理だってする。安心しろ人は襲わん」
「ルーンに当てられるって?」
「オマエ旅人の癖にそんなこともしらないのか!?」
ルーンとは前述のとおり万物に宿るエネルギー体であり、万物はルーン無しには体を維持することすら出来ない。
しかしルーンには違う側面もある。
生物は生きているだけでルーンを消費する。
現在、この世界には大量のルーンが溢れている状況にあり、その主な原因としては自然破壊によるルーン消費量の低下が上げられる。
消費されずに残ったルーンは地下で液体になり臨界まで溜まると地上へと噴出、これに生物や物質が遭遇した場合あまりの高エネルギーに急激進化。
これに耐えきれず精神に以上をきたした生物を魔物や魔獣と呼ぶのだ。
「へ〜」
関心片手にスープをかっ食らう。
「こんな常識子供でも知っとるぞ」
ジャスは呆れ顔でSGのメンテナンスを続けていた。
狙いをつけ、何度もサイトの微調整をおこない入念に各所をチェックするその真剣な顔立ちは迫力に満ちている。
「ガウ」
しばらくしてグリンが時計を指差した。
「おぉ、もうこんな時間か」
よっこらせと老体を上げるとジャスは何かの準備を始めた。
「オマエはここにいろよボウズ」
「どこか行くのか?」
「狩人が外出する理由なんて決まっとるだろ」
猟銃のSGを軽く持ち上げる。
「狩りの時間だ」
「それならオレも連れてってくれ、助けてもらった例になんか手伝うぜ?」
「何言っとるかボウズ。素人がプロの仕事に首突っ込むとえらい目見るぞやめておけ」
「オレも・・あれ?」
急に慶の足がストンと崩れ落ちた。
「ほら見ろ、まだダメージがのこっているんだ雪山を舐めるなボウズが。ここで留守番だ」
慶はしぶしぶ引き下がり、ジャスとグリンは視界最悪の猛吹雪の中へと消えていった。