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Destiny Gate  作者: エア
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第1話:前夜

学校中に今日最後の授業終了の鐘の音が鳴り響く。


大抵の生徒は帰り支度をすませ担任が来るまでの短い間を友達と多和いもない話しをしているものだが、ここに一人の例外がいる。


神谷 慶。彼は一人本来は立入禁止の屋上で寝転がっていた。秋空を流れる雲をぼーっと見ながら一つ、大きな欠伸をかくと

「超ネムい・・」

と、一言呟いてそのまま寝てしまった。


数時間した後、あまりの寒さに眼が覚めた。眠気眼で起き上がり辺りを見回せば、すっかり日も暮れた秋の夜。全ての部活が活動を終え、僅かに明かりが着いているのは用務室だけだった。

慶はおもむろにポッケから携帯を取り出すと、そこに表示された時間を見て驚くと共にダッシュで家路へとついた。



現在の時刻は夜の7時53分。

「後、7分・・」

慶は全速力で走り続けていた。慶がこんなにも急いでいるのは、慶の家には厳守すべき規則があるからだ。


それは門限は例え、男子であろうと夜8時までというものだ。これを破れば空手師範の親父、神谷 陣八の制裁が待っている。

過去三回。それは今までに慶が地獄を見た回数。それを思い出しただけで全速力で走り続け、ほてった体にも寒気が走った。

しばらくして、慶の眼の前にここら辺では一番大きい公園の入口が見えてきた。この時点で残り時間は後4分、このままでは1分遅れてしまう。


しかし今眼の前にある公園を突っ切れば後3分で家に着くことができる。普通なら迷わず突っ切るが、慶は入口の前で立ち止まった。



北上台公園。

それがこの公園の名称である。

昼間は子供連れの母親達の社交場であり、園内に植えられた様々な木や花が季節を彩るごく普通の公園だが、一度夜になると話は変わる。

不良のたまり場となり今の不景気なご時世だと、首吊り自殺を謀る者や幽霊を見ただの通れば何かに絡まれること間違いなし、黒い噂が絶えない公園である。


今、慶の中では天秤がフラフラと揺れながらどちらがより重いか決めかねている状態だ。

公園を通るか、親父の鉄拳を喰らうか、


数秒考えると一つの結論が出た。

覚悟を決めた慶は全速力で公園の中へと入って行く。

できれば何も見ないように下を向きながら走る慶、広い敷地と生い茂る木々が外界との接触を無くし、一種の無法地帯とも言えるこの公園。


100メートル程走ると少し先の方で、慶が通る予定の道の端で一人の老人が3人の若者に暴行を受けているのが見えてきた。

老人は薄汚れた赤いニット帽を被ったいわゆるホームレスのようだった。

(うわ〜嫌なもん見ちったよ)

このまま走り抜けたいところだが、またしても頭の中で天秤がユラユラと揺れ始めた。

追い払おうと思えばやれないことはない。親父が空手の師範だけに慶自体の強さも中々のもの。


しかし老人を助ければ空手師範の制裁が、迷う慶。老人はもう眼の前に迫っている。

(オレには、関係ない・・)


そう思って老人の前を駆け抜けようとした時、一瞬、老人と慶の眼が合った。

慶は走るのを止めた。

「まったく、損な性格だぜ、」

自分の性根が思ったより腐ってなかった事にやれやれと思いながら、慶の眼に力が宿る。

「おい、アンタ達いい加減にしたら?」


「は?」


慶の呼びかけに三人組は暴行を止め、新しいオモチャでも見つけたような顔で慶の元へと歩みよってきた。

「なにオマエ?正義のヒーローのつもり?そんな真剣な顔しちゃってさバカじゃないの?」


「そんだけやれば充分だろ」


「なに言ってんの、まだまだ遊びたんねぇよ。なんならお前とも遊んで上げよう・・か!」


三人組の一人の拳が慶目掛けて飛んでくる。

「ヒャハッ!!」

他の二人はその様子を笑いながら見ていたが、二人の期待に反して男の拳は慶の顔面に届くまえに簡単にいなされ代わりに慶の拳が相手の腹に深々と突き刺さっていた。


「ぐわっ・・!?」

相手は慶の技の速さに何が起こったかもわからないと言った顔で腹を抑え、苦しみながら慶を見上げていた。


「早く帰れ、これ以上やられたくなかったら・・」


慶に睨まれ、他の二人もレベルの違いを感じとったのかそそくさと逃げて行った。

「ふぅ・・」


一息つき、老人の方を見ると、驚いたといった表情で慶のことを見ていた。

「大丈夫かじいさん?」


「あ、あぁわしは大丈夫だが、少年は随分強いんだな」


「まぁね」

携帯に目をやると既に8時の門限を5分程過ぎており、覚悟のうえとはいえ親父の事を想像するとため息が出てしまう。

「じゃあな、これからはあんまりこの公園には来ない方がいいぜあんなのばっかりいるから」

「待ってくれ!何か、礼をしたいんだが」


「いいよそんなの、悪いけど爺さん貧乏そうだし」


慶がこれから起きる制裁を想像してブルーになりながら歩み始めると、後の方で爺さんが何かをボソボソと口を動かしている。

「明日は・・家からでない方がいい」


唯一聞き取れた言葉に一瞬歩みが止まる。


「明日は家からでるな。良くない事が起きる。これが礼だ」


「なんだそれ?占いか?生憎そうゆうオカルトなのは信じない主義なんで」


「占いではない。予言・・いや、真実だ。部屋から一歩も動いてはならんぞ!さもないと少年は必ず死ぬ」


死ぬという単語に体が固まり、完全に歩みが止まった。

慶にとって、

「死」とはもっとも恐ろしい言葉だからだ。過去の、自分も死にかけ、そして自分をかばって親友が死んだ。その記憶がどんどんと蘇ってくる。「簡単に死ぬとかいうな、」


相手の軽はずみな発言に怒り心頭で振り向いたが、そこには先程までの老人の姿は跡形もなく消え去っていた。


「あれ?」


辺りを見渡しても誰もいない。

「もしかして今の爺さん、幽霊?いや、まさかそんな訳が」


無理に笑おうとしているが恐怖に顔が引きつって逆に恐い顔になっている。

「きっと、夢だ・・ハハ」


混乱した頭を抱えながら家路に戻った慶を先程の老人が遥上空から見下ろしている。

「それにしても死ぬには惜しい男だ。このまま成長すればいつか大業を成しえるかもしれない器だ」


老人は少し考えるとおもむろに右腕を前へ突き出した。すると、一本の木製かと思われる杖が現れ、その先端を力無くとぼとぼ歩く慶の方へと向けた。


「オン、アーク」


老人呟きに呼応して杖の先から無色透明のものが飛び出すと、それは慶の胸へと張り付いた。

「ワシの予言は必ず当たる。少年は明日死ぬ。だが資格を与えよう。それをどう使うかは少年次第だ」


空中に浮いている謎の老人の姿は都会の星も瞬かないような明るい夜空だというのに水が蒸発して水蒸気になるように跡形もなく消えていった。

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