表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Re:Set  作者: SIM
19/32

Re:コンタクト①

 鬼ごっこを生き残った二千三人の内の一人、小林こばやし稚流ちるは今でも信じられない。

 何故生き残ることができたのか。

 ゲームから何から、全てが夢ではないのか。そう思ってすらいる。

 本来なら稚流は、走ることはおろか、立つことさえままならないのだ。

 そんな稚流が、鬼ごっこで生き残った。にわかには信じ難い。

 奇跡的に、また歩けるようになったのが、生き残れた理由などとは。

「…………」

 何も言葉にできない。何だろうか、折角助かったというのに、ちっとも気持ちが浮かない。ブイは常に海の上に浮かんでいる。今はそんなことどうでもいい。

 感情が動かない。

 ああ、壊れたのか。

 などと、己の状態を客観的に把握し、納得する。

 目の前で仙道しんゆうの無惨な死を見せられ、穴を穿たれた感情に思考を巡らせた。

 戻る気配ないなー……なーんにも感じないや。

 八千人が死んだと言っていた。

 その事実を聞いても何も思わなかった。

 ああ、沢山の人が鬼に殺されたんだなぁ。

 とだけ。

 生きながら死んでいる。そう表現するのが正しいだろう。

 そんな稚流は、体育館で一人、歩けるようになった足を抱えるようにして床に座っていた。

 そうしてボーッとしていた時のこと。


「このゲームの存在を、リセットする……ッ!!」


「そして、死んだ人達を生き返らせる!!」


 最初からこの声の主はどこか違う気がしていた。

 稚流を含める大半の人間が、己の置かれた状況を理解できず混乱していた中で一人、疑問を《カミサマ》にぶつけていた。冷静に自らの置かれた状況を把握しようとしていた。

 不思議に思った。

 なぜこの人はこんなにも、生きようとしているのか。

 感情が動かない稚流は、この先死のうが生きようがどっちだって良い。

 確かに、リセットを願い、このゲームに参加させられた。だが、何度リセットしても、また目の前で仙道が死ぬかもしれないではないか。

 そんなの耐えられない。もう疲れた。いっそ死にたい。

 そう思い、鬼ごっこに臨んだのだ。

 だが、稚流は生き残った。

 逃げ回ったわけでもない。ただ街中にポツンと立っていただけだ。

 なのに、鬼は寄って来なかった。

 結果、歩けないというアドバンテージを持っていたはずの稚流は、なぜか歩けるようになり、しかも鬼が寄って来ないというまったく不思議しかない理由で今、こうして体育館にいる。

 なんとなく。そんなんで生き残ってしまったのだ。

 死を望めば、それを生が拒み。

 生を望めば、それを死が拒み。

 運命というものが存在するならば、稚流は運命に嫌われているのだろう。

 そう思うのも仕方が無い。

 それを受け入れた上で、稚流は……


 ──ぁ……


 涙を流していた。


「……クソッタレ」


 一人苦悩する少年を見ていた。

 凍った上に壊された、動かないはずの感情を揺らし。

 大粒の涙を……。

 あれ、止まらない。なんでだろう……悲しくは、ない。なのに、あれ?

 苦しそう。

 少年を見て、そう思った。

 そうか、私が悲しんでるんじゃなくて、あの人が……だからあたしが……んん?


 あれ?なんであたしが?


 そこで何かおかしいことに気付く。

 んんん?

 涙を流したまま小首を傾げる。

 なんかシリアスだった雰囲気が消え去った。

 あの少年がどこか苦しそうに見える。そこまではわかる。

 けど、なんでそれで稚流が涙を流しているのか。

 やっべえ、全然わからんよ……。

 涙が止まらないまま頭を抱える稚流。なんかシュールだ。


「──何泣いてんの……?」


 と、例の少年がいつの間にか目の前にきて訝しげにこちらを見ていた。

 目が合う。

 固まり、数秒。

 ……

 …………

 ………………


「あんたのせいだからあああぁ!!」

「はああああぁ!?」


 それが、稚流と景人のファーストコンタクトだった。

 それがインパクトありすぎて、稚流は気付かない。

 今、自分が『感情に任せて』叫んだことを。

 その起因は、少年、景人にあることを。


 それに気付いていたのは、ある一人だけだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ