Re:ロード④
Re:ロード④
「何を……と言われましてもねぇ」
まさか疑われたなんて言えるはずが──
「おまえが犯人ではないんじゃ、とか?」
──バレちゃってますね。
「まあ、似た感じですけどね。私の腕力でソフトボールを投げ上げることが出来るのか……と」
これは私の誤算だった。
「そうか……そりゃそうだよな……」
「まあ、誤魔化せたとは思うんですけどね。大丈夫だと思いますよ。まだ疑うようなら、私がもう一度、同じようにボールをぶつければ「ストップ」はい」
ストップをかけられた。緊急停止。
「なぜおまえはそこまでする?やってしまったのは私なんだ。わざわざ罪を被る必要はないだろう?」
なんだなんだ、この人。喋り方といい、中二病?強い事故責任感の持ち主だとは把握していたけど。
「気にしないで良いんですよ。私がただ自己満足でやってるだけなんだから」
私が、彼女が犯人だと思ったのは先生が話を切り出した時だ。
周りが『は?』という感じで反応した時、彼女だけは何の反応も見せなかった。その日の朝、いつもよりも早く来ていたこともあり、なんとなく怪しいと思ったのだ。根拠はない。朝早く来たのがただの偶然だったかもしれないし。
でまあ、その日の放課後。彼女が毎回外周を走っていることを知っていた私はカマをかけてみた、というわけだ。
結果はビンゴ。朝早い時間に来たのも、焦りから来るものだったらしい。こちらも正解。
やったね、普通少女の推理大正解。推理というより妄想だったけど。
「良い加減、普通であることが詰まらなくなって来た、ってだけですから」
「普通が詰まらない……?」
「はい。なんてゆーか、私は破滅願望者とでも言うんですかね?あ、今の中二っぽい」
「は、はぁ……」
普通であることが詰まらない。つまり、そろそろ退屈なのが限界に達したわけだ。
神童と呼ばれていた私には出来ない事などなく、周りからもチヤホヤされていた。まあ、それを面白く思って無かった人もいたみたいだけど。
そんな出過ぎた杭は、寄せ集まってできたでっかいハンマーに打たれ続けた。何度も、一度で引っ込まないなら何度でも、ネチネチと。
その現場を先生は見て見ぬフリをした。
そこで私は気づいた。気づいてしまった。
──あれ?私、この状況楽しんでない?
普通イジメられたら嫌がるのだろう。だけど、なぜか私は喜んで、否、悦んでいた。……え?
その事実に気付いた時、流石に自分でも引いた。ドン引き。
身体的苦痛はとっても不快だった。そこは普通に。だけど、陰湿なイジメとなれば私はなぜか心踊る思いだった。えぇぇえ……。
陰湿になればなるほど、愉快で愉快で堪らなかった。
……まあ、そんな普通じゃない小学生の私は、更なる陰湿なイジメを体験すべく行動に出た。
いや、まあ、したことは簡単。
もっと出ただけだ。杭をボンと外に出しただけ。
つまり……そのイジメグループの一人をボッコボコにしてしまったのだ。もっと恨みを買うように。
だがそれは失敗だった。ボコってしまった男子児童は病院へ運ばれた。私はさらに疎まれるように……とはならなかったのだ。
皆、私に恐怖を抱いてしまった。
イジメることをやめてしまった。
そんな私を両親は冷ややかに見つめ、私に酷い仕打ちをするかと思えば、何もせず。
私はその後は何も起こさず、見事普通少女となりましたとさ。
ん?ああ、冒頭に語ったアレ?嘘だよ嘘。人生と言うマラソンに障害はつきもの。まさにその通り。だけど、それが増えすぎてうっとい?逆だ。私を邪魔しようと必死になってる姿を眺めるのは愉しいし、私も逆境を楽しめる。それをエスカレートさせようとした結果、まあ失敗してしまったというだけだ。
……そう、それ!私はその視線が欲しいの!初っ端から騙された気分はどう?ムカつく?腹立つ?私がウザい?良いよ!その視線!それが目的だったの!さあ、もっと私を蔑め!
……こほん。
ま、そんな私も普通少女となって三年目となるわけですが。そろそろ退屈が大気圏を突っ切っている。その矢先に起きた正義漢狙撃事件。ありがたく便乗させてもらうことにした。
「そして私が犯人だと噂が流れれば、私に興味が湧き、絡んでくるのを邪険に対応すれば、私はウザがられ……完ッ北京ダック!」
「……え?なんだって?かんぺきんだっく?」
あら、気分が高揚してつい変なことを口走ってしまったようだ。
「はぁ……まあ、なんかおまえは普通なんかじゃなかったみたいだな」
「そうみたいですね」
普通という名の仮面を被った、精神的マゾみたいです。……改めて客観的に見ると、なんか凄いわ。
さてま、後はそれとなく私が犯人だと噂を広めるだけ……っと。一度広めちゃえば、先生も止めることは出来ないし。
「させないよ」
「なんでです?」
「罪を被ってくれたことは助かっている……だが、やはりこれは何かが違う気がするんだ」
「何がですか。責任とか言うやつですか?先生が私を犯人だと思ってるんだから、別に良いでしょう?」
「そういう問題じゃないんだよ……」
さっぱり意図が掴めない。
「多分、おまえの望むような展開にはならないと思うぞ?」
「へ?」
* * *
──なるほど。
確かに、望んだ展開にはならなさそうだ。
あの放課後から三日間。私は噂を広め続けた。そして、それは成功し、私が犯人だという認識に。
だが、何も起こらなかったのだ。
誰からも興味を持たれず、普通な日々が流れた。
「なんで……どうしてッ」
詰まらない。退屈。なぜ?なぜ私に何もしない?
放課後の教室で、モヤモヤする頭を抱え呻く。
「だから言っただろう……あれは事故で片付いてしまっているんだ。故意にやった可能性にまで頭が回るほど、この学校の生徒は聡明でない」
「現実味がないから……か」
「そういうことだ」
事故なら仕方ない。そういうヘタレな考え方が占めているというのか。
じゃあ何か?私は普通のままだと言うのか?
そんなの嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ。
「嫌だ、嫌だぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああ!!」
「お、おい、どうした!おい!」
私は普通なんかじゃない。そんな詰まらない存在なんかじゃない。もっと、もっと特別で、奇っ怪で、おかしくて、退屈しないモノ。
「落ち着──」
「うっさいッ!!」
近くにあった花瓶を掴み、少女に向けて殴りかかる。花瓶が割れる。中の水が飛び散る。その中に赤黒い液体が。ああ、やってしまった。傷付けてしまった。そんな気はなかったのに。私は狂ってる。狂ってる?あはは、普通じゃない。普通じゃないんだ。
「っ──」
「あはは、ごめんね、すみませんね、許してくださいね。私ちょっと狂っちゃったみたい。あはは、あはははは」
私はもう普通に耐えられない。
「あは、あはははは。もっと傷付けちゃうかも。ごめんね?ごめんね?」
何度も殴る。鬱憤を晴らすかのように。
「何をしているッ!!」
そんな私達の下に、正義漢が来た。
私はそちらを睨みつけ──
「──ヒッ!?」
──視線だけで教師を圧倒してしまった。
教師が私を見る視線に、恐怖を混ぜる。
ああ、またその目だ。私を恐怖として捉える目。私を普通に追いやった、不快な目。
そんな視線が──大嫌いだ。
結局世界はどうあっても、私に普通の仮面を被せたいらしい。こんなにも私は、狂っていると言うのに。
私は、夕陽に染まる教室を後にした。
* * *
手にこびりついた血を眺めながら、これからどうしようか考える。
私は狂っている。なのに普通。
どういうこと?わけがわからない。
この世界じゃ、私は退屈から抜け出せない。この世界には、私の居場所がない。
たった一日で私は変わってしまった。
退屈から抜け出すために頑張る私は、ある意味では普通で、ある意味では異常だった。
そんな日々は、楽しくてしょうがなかった。ここ数日の私はかなりテンションが上がっていた。それがフラグだったのかもしれない。私が現実を知るための、布石。
見事私は打ちのめされ、普通から抜け出せるという希望は打ち砕かれ、何もなくなってしまった。
「──あーあ、つまんないな」
────ピリリリリッ
「へ?」
ここ数年間、誰からもメールなど来たことがなかったケータイからメールの着信音が鳴り響く。
その珍しさゆえに、私はメールに興味を抱いてしまった。
差出人 リセットゲーム
宛先 草鹿 芙来乃
件名 Re:Game
本文
アナタのリセットしたいモノはなに?
「リセットゲーム?なんだそれ」
と言いながらも、私は他にすることもない。考えることもない。だから、このメールについて考える。
「胡散臭いなぁ。宗教勧誘か何か?……まあ、面白そうだし、暇だし、どうせもう何もないし」
試しに返信してみようかな。
内容は……そうだなぁ、こんなので。ポチッと。
ピロリーン、と電子音を鳴らし、送信完了のメッセージが届く。
その五分後、再びケータイにメールが届いた。
差出人 リセットゲーム
宛先 草鹿 芙来乃
件名 Re:Game Invetate
本文
"このつまらなく、退屈なセカイってやつをリセットしたいかも。"
承りました。あなたをゲームに招待します。
そんな内容の返信。……ゲーム?
「退屈から……抜け出せるかも」
えー、やっとプロローグ的なものが終わりました。多分。
狂ってしまうのに遅いも早いもない。そんなことを表現したかったんですけど、なんかスゲー急展開に見えてアレ。自分が一番ついてけてない。こわい。今回の話。
えと、まあ、とりあえず。
本編まとめる作業に入ります。少し更新スピード遅くなるかと。
以上、変なおじさん……もとい変な作者()でした。