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Re:Set  作者: SIM
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Rd:ロード②

 夏休みを目前に控えたある日。

 朝一番に登校し、教室の自分の席で悠々と読書をする私。簡単なモノだ。たったこれだけで、朝の教室という空間は支配できる。今現在の占有権は私にある。

 教室に足を踏み入れてくる者は皆、先客がいることに多少の動揺を見せ、居心地の悪い中教科書などを机に入れて行く。

 しばらく読書にふけっていると、段々と登校してくる生徒が増え始める。それと同時に、教室の占有権が私の手から奪われる。居心地の悪さに緊張していた空気が弛緩するのを感じた。

 親しい人間たった一人が、居心地の悪さを解消するのだ。その人数が増えれば増える程、比例的にその効果は高まる。

 ああ、面白い。なんて単純なんだろう。

 私一人で空間を支配できるのも面白い。それを、人数の多さで奪い返すクラスメイトの強がりも見てて面白い。朝の良い暇つぶしになる。たまに、いつもよりもかなり早い時間に来たりする生徒などを観察するのも楽しみの一つだ。今日は一人、いつもより早く登校してきた。

 パタン、と小気味良いは鳴らなかったが、最近お気に入りのファンタジーモノのハードカバーを閉じ、机の中に滑り込ませる。

 ホームルーム開始ぃー。


  * * *


 今朝のHRは……おっと、ホームランじゃないよ?朝っぱらから野球の話なんて暑苦しい。このクソがつくほど蒸し暑い日に泥臭い話をする教師がいたら私が滅多刺しにしてしんぜよう。


 まあ、ホームランの話だったのだが。


 今朝のHRホームルームHRホームランの話だったのである。ややこしいー。日本語って難しいね。日本語じゃなくてアルファベットだけど。

 話を戻そう。ええと、私が教師を滅多刺しにする話だっけ?違う?あ、そう。知ってる(爆笑)。

 HRのことだよね。わかってるわかってる。だからそのイラぁっとした視線を向けるのをやめてください。身震いしちゃうんで。ああっ、ゾクッとする!

 ……こほん。

 朝の挨拶や出席確認という毎朝よく飽きないよねーな行事を終え、突然私達のクラスを請け負う担任は、頭に見慣れない包帯を巻いた状態で唐突にこう切り出した。


「昨日、特大のホームラン打った奴とかいるか?」


『???』


 うーん。わけがわからない。

 話を要約すると……回想モード!しゃきーん。……なにこれだっせえ。


 道端に棄てられた煙草の吸殻を拾うとか、どこの暑苦偽善者だと言わんばかりの正義感の持ち主。『正義漢せいぎかん』の異名を持つ我が担任。名前はまだ無i……知りません。中学に入学して一年と四ヶ月程経つけど、知らないのです。私だってなんでも知ってるわけじゃないのです。そう、知ってることだけ。ちなみに私は眼鏡かけてません。……伊達眼鏡でもかけようか。

 そんな自分のクラスの生徒にも名前を覚えてもらえないような正義漢が昨日、放課後恒例の『学校周りのお掃除ロボット活動』(私命名)をしていたところ、空からひゅるるるるぅ〜と空気を裂きながら……なんと、隕石ソフトボールが降ってきた!!

 正義漢の頭に直撃。クリーンヒット。あれ?それもしかしたら死んだりしちゃう危険球じゃない?だってソフトとか言いながら野球ボールと硬さ変わらないし。むしろ質量大きい分野球ボールよりダメージあんじゃね?カッチカチやぞ。ハードボールに改名しろ。

 いや、まあ、教師は生きてたんだけども。そこで死んでたのなら、今日教室に姿を現したスーツ男は何者だという話。まさかのコピーロボット?HAHAHA、ここは二十一世紀です。巨大ロボットが撒き散らすウイルスに大量の人々が殺される血の大晦日が歴史となるようなこともないし、秘密どうぐミュージアムなんかに怪盗が予告状を送り付けるようなこともありません。そう、それが二十一世紀。平和代表。まあ戦争はなくとも浅草寺はあるんですけど!! じゃなくて、戦争はなくとも問題は山積みなのが二十一世紀なんだよね。

 その生きていた正義漢。血をダラダラ流すこととなったそうな。んでまあ、後の流れは察せるだろう。

 そのソフトボールはどこから飛んできたのか?それを知りたいのである。此奴こやつは。

 ちなみに『カキーン』とかそれ何かが凍ったような音じゃね?的な音は聞こえなかったと言う。ならなぜホームランの線疑ったし。

 で、なんでうちのクラスのHRでそんな話をしたかって言うと。

 うちの学校のソフトボール部、うちのクラスの女子しか在籍してないのよさ。不思議だわー。よく耳にする噂では、下級生の皆さんは『○○先輩がいるから入りたくない』だとか。嫌われてるよ、○○先輩。同級生からは『○○が入るって去年聞いてからソフト部とか入る気にならないわ』……何したの?○○さん。上級生の皆さんはこの時期にはもう引退してる。

 つまるところ。

 降ってきたのはソフトボールだった。ならばソフトボールの誰かの仕業ではないか。ということはうちのクラスの生徒ではないか。

 口には出さないが、そう推理したのである。うちの教師は。

 非常に短絡的。はっきり言おう。バカじゃねえの?

 まあ、誰かの仕業ではあるのだろう。ソフトボールが一人でに飛んで行くような事態があればそれだけで阿鼻叫喚な世界の完成。ソフトボールすげー。

 だが、それがソフトボール部の誰かである必要はない。ソフトボール部に全く関係ない者が、たまたま犯行にソフトボールを使ったのかもしれないし、ソフトボール部に罪を着せるためにわざとソフトボールを使ったのかもしれない。確かにソフトボール部の誰かの仕業という可能性もあるが。

「まあ、誰がやったのかはわからない。だけど、この中にいるのならどうか黙ったままでいないで欲しい。罪を背負ったまま生きて行くのは苦しいんだ。その苦しみを味わって欲しくない。以上だ」

 正義漢の、正義感に満ちた戯言でHRは終わった。


 回想終了。

 回想っていうより、私の中での記憶の整理に近かったかもしれない。よって、要約されていないかもしれない。いや、されてないな、断言する。

 さてと。一時限目が始まる。準備準備。私は授業態度は普通で、悪いわけではないのだから。

 準備しながら私は、放課後の予定を思案する。シアン化合物とは何の関係もない。こうしてシアン化合物のことを考えてしまったのだから思案の内に入ると言えよう。じゃあ、関係なくねえじゃねえか。あと、私はシアン化合物についての知識は全くない。名前だけだ。全くないわけじゃねえじゃん。

 なんていう駄考だこうを重ねてようやく決めた。ちなみに駄考なんて言葉聞いたことない。私が今造ったからだ。口にしなければ聞いたとは言えない。どうでもいい。


 取り敢えず、今日の放課後は──

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