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リレー小説「仮想彼氏・只今・戦闘中」

仮想彼氏・只今・戦闘中 第10回 アルカトラスの最終局面

作者: 采火

 リレー小説ですので1~9話を忘れずに読んで下さいねー。そろそろ終局へ向かいます。DIGクリエイティブアワード投稿作品。

 アルカトラスに踏み出した。

 凶悪犯のみがいる監獄。観光地のイメージとはちょっと違っていて、刑務所ということなのか、どろどろとした暗い通路を通る。薄暗くて歩きにくいけど、パックンの姿を必死に目で捕らえようとする。


「ぱ、パックン、ちょっと怖い……、かも」

「レイ、大丈夫。暗いだけだからさ」


 そうなのですかね、そう信じたいですね。だって、いい歳した女と言ってもお化け屋敷とか駄目なタイプですよ私。

 今更ですけども、怖いんですよ。


「敵はバッタバッタ殺すのに?」


 イトウさん、心を読まないでー!

 パックンの後ろにちゃっかりとポジションをとる。パックンの服を少しだけ握って。


「レイ、手。そっちより、こっちの方がいいよ」


 にこりと笑って、服を握る私の手を取るパックン。うん、紳士です。パックンはいつでも紳士です。

 高い天井、人が何人か並んで進める通路、両サイドを固める牢屋。奇襲をかけられるにはもってこいの場所である。

 私の衣装はやはり踊り子。なんだか場にそぐわない感じがして、少しそわそわする。


「馬子にも衣装ってね。よ、監獄のプリンセス」


 うるさい黙れ、極悪な囚人にでも食われちまえ。


「レイ、構えて」


 イトウさんに心の中で悪態をついていると、パックンに呼ばれる。私は日本刀を構えた。

 パックンもイトウさんも各々の武器を構える。パックンが一歩を踏み出した瞬間、通路の向こうから人影が一つ現れた。


「…排……除…シ……マ…ス………」


 オリンだ。

 目が虚空を漂い涎が垂れる。服も所々千切れ、髪もぼさぼさ。しかし、彼女の武器の大鎌はご健在のようでギラリと光る。

 暗闇でも分かる、変わり果ててしまった彼女の姿に知らず知らず嫌悪がにじみ出てしまう。


「あ、アレって……」

「オリン───」


 私は思わず口元を押さえ、パックンも唖然としている。


「禁忌の術だな、こりゃ」


 女に目がないイトウさんさえも苦笑だ。

 オリンの今の姿はまるで凶悪犯。このステージにぴったり過ぎるだろうが、結して喜ばしいことではない。

 以前イトウさんが言っていた言葉。


『死んだ人間に、別のナニかがはいってくる事になる。どうなると思う? 酷い事にしかならないね』


 この場合、システムの操り人形とでも言うべきか……。オリンはくるくると大鎌を回し「排除シマス」を繰り返す。

 これが実際に現実で起こったならば、中に入るのはいったい何なのだろう? システムではなく、悪魔、神、亡霊……。

 システムで良かったと思う反面、現実と照らし合わせてしまう思考が止まらない。

 オリンのようなAIならいいが、ゲームをプレイしている私の場合はどうなるのだろう? ゲームオーバーで最初からリセット? セーブポイントからのやり直し? それともオリンと同じ様に───?

 思考が悪い方へ向かう。負の連鎖。止まらない。くるくると歪んだ思考が絡み合って器用に廻っていく。


「ハァァァァァッ!」


 最初に動いたのはパトリックだ。オリンに向かって気合いと共に刃を振り下ろす。

 オリンは受け止めた。そして、軽々と押し返す。

 私はハッとした。隣ではイトウさんが呪文を唱えてるではないか。


「───照らす世界は闇より暗き・ライティング」


 イトウさんの手のひらに白い光が生まれる。段々と大きくなっていくソレを、イトウさんは頭上へ軽く放り投げた。

 隅から隅までを光で照らし、足下の不安を取り除く。

 よくよく見ればオリンの後ろ、狭い通路で何かが蠢いている。

 これは……。


「レイ! イトウ! オリンの後ろのヤツを頼む!」


 何十、いや何百もの操り人形が、武器を持って私達を待ちかまえていた。



♢♢♢♢♢



 こんな場面で乱闘になるのは必然的だ。私達は次々とかかってくる敵を、たったの二人で蹂躙した。


「駆けろ炎の道・バースト!」


 はじけた炎が導火線のように敵から敵へ繋がる。イトウさんの唱える呪文が完全に厨二病っぽいのですが、やはり漫画の影響ですかね?


「っ!」


 や、やば。今の背後からの攻撃、避けなきゃ死んでた……! 振り向きざまに逆に刺してやりますけども。

 これでまた一人。

 斬っても斬ってもキリがない。道徳的に問題ありすぎないか、このゲーム。対象年齢CランクどころかDランクだろコレ!

 地獄絵図、まさに地獄絵図。ただでさえ不気味な監獄が、余計に恐ろしい惨状となっている。


「…排……除…シ……マ…ス………」


 パックンは相変わらずオリンと戦っている。パックンの邪魔だけはさせない、私が雑魚を一掃する……!


「俺もいるけどー」

「人の決意に水を差すな───!」


 私の怒りは近くの敵へ。うん、キミにはなんの罪もないが、とりあえず死んでおいてね。

 ああ、パックン、怪我だけはしないでね。この前みたいなことは嫌だからね……。

 そこでふと、私は思考を止める。

 何かが、何かが足りない。

 何だこの焦燥感。何かが、いや誰かが───

 

 ラドクリフが足りない。


 私は辺りを見渡す。ラドクリフが見あたらない。


「システムコール! マップ!」


 私は敵のど真ん中でマップを広げる。


「ちょ、なにやっちゃってんのー!?」

「いいから私を守りなさい!」

「はあー!?」


 流石のイトウさんも虚をつく私の行動にはびっくりしたらしい。気にすんな、気になるなら私の心を読めや。説明する手間をかけたくないし。

 私は目を見開いてマップを見る。マップの反応する範囲にはラドクリフのアイコンがない。

 しかし。


「……? 何コレ?」


 マップの中に見慣れない部屋が一つある。ここは刑務所をテーマとした戦場。明らかに戦場とは外れて、細い通路がマップに映る。その先には何の用途で使われるのかが分からない空間が一つ。

 心が揺れた。

 パックンを置いて、コレを調査するか。それとも、パックンと共に戦うか。

 どうするべき? 考えろ、考えるんだ自分……。


「おい……!」


 イトウさんが声をかけてくる。


「ここは大丈夫だ。おまえのやりたいことをやれ」


 にやり、とニヒル笑うイトウさん。

 ……こんな人だから完全に憎めないんだよなあ。変態だけど。

 こくり、と私は頷いて、


「死ぬ気で頑張って下さいね」

「一言余計だな、おい」


 だってイトウさんですから。


「無駄口叩くなら戦うの辞めるぞ」

「……行ってきまーす!」


 聞こえないフリ、なのですよ。

 イトウさんならそこそこ信頼できるし……、信頼? できるかなあ、あの変態に。

 まあ、気にしないでおこう。イトウさんはパックンと仲がいいですし。

 私は日本刀を構える。秘密の部屋まで行くには距離がある。マップを見ながら、敵を倒しながら、危険を意識しながら。

 沢山のことを一度に行うには少し脳のキャパシティが少ない。ああ、一夜漬けとかしてた学生時代が懐かしい。あの頃は沢山のことを一度にやっても処理できた。テレビ見ながら、音楽聴きながら、課題やりながら。

 でも今回は命を懸けた戦いが含まれる。実際には死なないとは知っていても、そんな生ぬるい気持ちで挑む気なんかさらさら持ち合わせてない。


「チェストッ!」


 短く叫ぶ。これは決意の強さ。

 私は生きている。

 パックンのいるこの世界(ゲーム)で。



♢♢♢♢♢



 敵の群をうまくかわした私は細い通路に入った。

 マップを見ていないと気づかないような場所に入り口はあった。

 まあ、それでも気づく人は気付くだろう。通路にいきなり出現した本棚。動かして下さいと言ってるようなものだ。

 案の定、本棚の裏には隠し部屋の入り口があったわけですが。


「さ、寒いかも」


 露出してる肩を思わず抱く。両手を使うといざというとき武器が使えないのが難点だが。


「コマンドコール! マップ!」


 隠し通路を入るときに一度消したマップを出して周りの確認。人はいないようだ。けれど最近は怪しいモノが溢れてきているので、隠密忍者がいた場合はどうしようもないが。

 マップを見れば、もう少しで開けた場所にでれる。足下が危なくなるのでマップを閉じた。


「と、と、と……。ちょいと坂道ね」


 緩やかだが感覚が傾いていて、後ろから急に襲われたらひとたまりもないだろう。確実にバランスを崩す自信がある。


「あ、出口」


 出口が見えた。

 明るい光がこぼれる扉を開けると、そこは……


「───コンピューター?」


 一定間隔で鳴り響く無機質な機械音。大きな金属の塊。淡い光を点すモニター。

 一体何の為のものだろう?

 こんなふうに隠すように置いとくなんて。


「謎過ぎるわよ、このゲーム……」


 最早、何を目指しているのか分からない。ゲーム開発者は何がしたいんだ。いや、ゲーム開発者の趣味なのかこれは。

 そうやって部屋をぐるりと一周すると、


「れいこ」

「!」


 背中からかかった声に振り向くと、いつの間にかラドクリフがいた。

 ラドクリフがゆっくりと近づいてくる。え、でも。


 なんで私の名前を知ってるの?


 キャラネームの“レイ”ではなく本名の“れいこ”をラドクリフは読んだ。どういうこと?

 ラドクリフはAIではないの?


「れいこ、駄目じゃないかこんな所に来ては」


 私の戸惑いなぞ知らないとでも言うように、ラドクリフが声をかけてくる。


「あなた……、だれ? ラドクリフなの……?」

「つれないな……、って、ああ。こっちの世界ではレイだったな」


 ラドクリフが笑う。


「でもまあ、ここはキミがいてはいけないところだから、少し痛いが強制ログアウトさせるぞ?」


 スラリと腰から剣を引き抜く。いつもの大型の斧ではないからか、中世の騎士の姿が際立って見える。


「え……、あ……」


 声が出ない。

 恐怖が身体を蝕む。

 強制ログアウト=死。私の頭の中ではその式が反復されている。


(死ぬの?)

(死ぬとどうなるの?)

(私、オリンのようになるの?)


 違う。


(私は死なない)

(ただ現実世界に戻るだけ)

(戻ったらもう一度ログインすればいい)


 だから死のう。

 ラドクリフの死を受け入れてしまおう。

 だって怖いから。

 恐怖で身体が縛られていてうごけないから。

 仕方、ないから。


「いい子だ。キミなら世界を変えられる。しかし今は世界を変えてはならない」


 目前にラドクリフが来たとき、私はふと思う。そういえばいつもの注射を今日はしていなかったなあ、と。

 注射をしてないのに結構動けていたが、きっとそれは何かの偶然なのだろう。今、この時に身体能力の向上をと思って注射をしていたら別の結果になっていたかもしれないが。

 ラドクリフが剣を振りかぶる。

 振り下ろす。

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