魔能者
夜も更け、周りには一人見当たらない。
そんな、時間に一組の男女がいた。
「ねぇ、鎖眞【かりま】。さっきの人、大丈夫かな?」
鎖眞と呼ばれた少年。風城鎖眞【ふうじょう】は相変わらず自分の背中にくっ付いて来る少女、木城明日香【きじょうあすか】を疎ましげに見つめつつ答える。
「ま、手加減はしたし、アイツの体に『風力』を纏わせといたから大丈夫だろ」
風力。
それはこの世界でもっとも有名な能力、六大能力の一つである。
その他には、火力、水力、土力などがあり、読んで字の如く、火力は炎、水力は水の力を操る事ができる。
「そうだったの? なら平気かな」
鎖眞の言葉に納得したのか、安心したように明日香は鎖眞の背中に顔を埋める
そんな明日香を苦虫を噛み潰したように見やる鎖眞。
理由は当然。歩きにくいからだろう。
鎖眞のような、異能の力を使う人達は、魔能者と呼ばれる。
意味は『悪魔の様な能力を持つ者』。
と、なっている。
しかしそれは、今から約三十年前の事で、最近になり、名称の変更が考えられている。
なぜなら昔は、魔能者が世界でたったの数百人しかいなかったため、噂にしか聞かない一般の人々が魔能者を恐がり、その名をつけたのだ。
が、今現在、魔能者の人口は世界で約数百万人にも及び、特に大国は各国だけで数十万人もいる。
そのため、普通に生活をしていれば、魔能者と触れ合う機会が増え、一般人が魔能者を理解することで、極端に恐がらなくなったのである。
そこで人々の中に『悪魔の』などと差別を含む名称は不適切である。
と、言う考えかたが多くでてきた。
だが残念ながら、いまだに魔能者のことを恐がる者や、魔能を使って犯罪をおこなう者などのせいで、いまだに名称が変われないでいる。
「それにしても、さっきは、明日香大人しかったな。どうしたんだ」
木城明日香。
綺麗に整った顔立ちや、腰辺りまで伸びる美しい黒髪。
百点とまではいかないが、多くの男の目を惹きつける容姿はまさに美少女、と言わざるおえないだろう。
しかし、彼女もまた魔能者だ。
「うん? まぁ、鎖眞がいたから、何とかしてくれると思ったし、最悪はあの程度なら、俊殺できたから、様子見よーかなって♪」
『綺麗な花には棘がある』とはよく言ったものだが、まさに彼女にも当てはまる言葉だろう。
彼女はこの容姿から想像もできないような、実力の持ち主だ。
その力は、『全国中学生 魔能者大会』で優勝したほど。
この大会はすべての魔能者中学生が出場するため、自分の実力がはっきりと出る。
その大会での優勝。
これは一生誇ってもよいぐらいの成績である。
しかし、この大会には『出場していない生徒が数人いた』という噂があった。
すべての中学生が参加する。そんな大会に出場しない生徒。
もし、これが本当なら、それは一体どんな子供たちなのだろう。
そして、そんな生徒の正体を知っている彼女は、自分の成績など、どうでもよくなる。
そう感じさせるほどの何かをその生徒等は持っているのだろう。
そのため、明日香は一度もこのことを自慢した事がない。
きっとこの辺の事情はいずれ語られることになる。
「もうすぐ高校生か~」
鎖眞が無言で歩いていると、唐突に後ろにいる(もはや背中にいる。でも間違いは無いだろう)明日香が鎖眞にしゃべりかける。
そう。現在、四月五日。
後、数日で春休みを終え、晴れて高校生となる二人。
「だな。でも結局は通う校舎が違うだけで、場所は殆ど変わらないんだよな」
二人が通う中学は、聖条学園【せいじょう】は、中、高、大の一貫である。
この学園は世界的にも有名だったりするのでが、それもまた、この先で語られる事だろう。
そうこうしているうちに、目的地まであと僅かとなっていた。
「今更だがなんで俺たちは、こんなところに来なくちゃならんのだ」
そこは、裏路地を抜けた先にある、廃工場だった。
「しょうがないよ。学長からの直々な頼みなんだし……」
そういう彼女もあまり乗る気ではないようだ。
「はぁー。まあ、学長にはいつもお世話になってるし、しかたないか。
じゃ、明日香はここで待機してて、合図するから」
そういい残して鎖眞は、
跳んだ
いや、飛んだと言ってもよいかもしれない。
なぜなら彼は、棒立ちのまま、廃工場の屋根まで跳んだのだ。
涼しい顔をして。
十メートル以上ある高さを。
彼は一度、明日香の方を、その後、周りを確認してから屋根をゆっくり歩いていく。
依頼を完遂するために。
今回は説明が殆どになってしまいました。
次は、戦闘なども織り込むつもりですので、宜しくお願いします。それともう少し長めにしようかと……
感想やアドバイスなどをいただけると、とても勉強になりますのでもしよろしければお願いいたします。