Happy Birthday
いつもと違った感じで書いてみました。感想など頂けると光栄です。
青唯、誕生日おめでとう
久しく言われてない言葉。少なくとも10年は言われてない。10年前に親が離婚した。あたしが6歳の時。父も母もあたしのことを「いらない」って。小学生のあたしは親戚の所に居候した。そこでは叔母さんや従姉妹にいじめられ、小学校でも友達がいなかった。多分従姉妹の奴らが何か言ったんだろう。中学は行かなかった。年をごまかしてバイトし、金を貯めて、家を出た。叔母さんたちは何も言わなかった。
独り暮らし。めちゃくちゃ楽だった。バイトは大変だったけど、あいつらがいないから平気だった。
誕生日なんか忘れた。そう、言い聞かせていると本当に忘れてしまった。誰も祝ってはくれない誕生日。ううん、祝って欲しくなんかない。みんな、大嫌い。あたし以外の人間はキライ。
「こんちは、バイトちゃん。」
深夜、コンビニのバイトをしてると、にこやかな青年が話し掛けてきた。年は18,9歳。この人はよくここに来る人だ。
「はい?」
一応返事をしておく。なんたって大切な「お客様」。この男は優しく接すると付け上がってとんでもないことを口にした。
「俺、新条奏汰。俺と付き合ってよ。初めて見かけたときからスキだったんだ。」
シンジョウカナタ。名前が耳にこびりつく。何故?いやいやそれよりもあたしと付き合いたいとかどうかしてるだろう。彼の顔をチラリと横目で見ると無邪気な笑みを浮かべていた。ニコニコニコニコ…うっとうしい笑顔。
「何いってんの?バカじゃないの?」
それでもシンジョウカナタはニコニコニコニコ。あ〜もう!うっとうしい。;あたしはこういう能天気な奴が嫌い。ムカつく。半分は妬みだけどね。悩みが無さそうな奴。あたしとは正反対。
「確かにアタマは悪いけど、バカじゃないよ。君はとっても素敵!いっつも一生懸命働いてるし、お客様への対応もいいし。」
素敵とか面と向かって言う奴なんて初めて見た。ニコニコの青年。いや、少年?変な奴。
「あはっ、マジでバカじゃん。素敵って何よ?意味わかんない!」
あたしは気付いたら大声で笑ってた。深夜だったから客はそんなにいない。良かった。こんなに笑ったのは久しぶりだった。新条奏汰はそれでもニコニコしている。こいつと付き合ったら、退屈しないかなぁ?
「はは、あんたといたら退屈しないよね。決めた。あたし、あんたと付き合うよ。楽しそうだよ。あたしは神田青唯。よろしく。」
ノリで付き合うのは失礼かと思ったけど、暗い生活から抜け出したかった。他人はキライだけど、コイツなら好きになれるかもしれない。
「アオイ…ちゃん。かわいい名前。」
ニコニコ…
かわいいだって。かわいいのはそっちだよ。
「アオイは誕生日いつ?お祝いするよ。」
今日もニコニコ。あれから一ヶ月が過ぎた。今日は二回目のデート。話題が誕生日となった。奏汰の誕生日は7月7日。七夕の日。あたしは?
答えられない。覚えてないもん。
「覚えてない。」
不審に思ったかも知れない。引いちゃったかも。でも、奏汰はあたしの心配を破った。
「そうなの?じゃあ、10月1日。『あ』が一番初めだから『1』、『お』が『0』、『い』が『1』。」
そう言って勝手にあたしの誕生日を決めた。やっぱり、能天気。でも、退屈しない。ということはあたしの誕生日が一ヵ月後となるわけだ。奏汰なら祝ってくれる。
「アリガト。」
一ヵ月後
今日は奏汰は外せない用事があるらしい。おばあちゃんの命日だそうだ。同じ日になるなんて。奏汰のことだから、何も考えて無かったんだろうな。夜には逢いに来てくれる。
pululululu…pululululu
けたたましく電話の音が鳴り響く。
「はい?…え?」
あたしは全身の力が抜けていくのを感じた。「奏汰が…事故に遭って…」
電話の声は奏汰の母親。事故に遭って……即死。
「嘘。奏汰。お祝いしてくれるって言ったのに。まだ、付き合って二ヶ月だよ?あたしはまだ、奏汰の誕生日祝ってないよ。奏汰!ねえ、奏汰!!」
何度も何度も叫んだ。涙が止まらない。
あたしはいつのまにか疲れて眠っていた。
そんな中聞こえる声。
「Happy Birthday」
それはきっと奏汰の声―。
めちゃくちゃ予想できる話ですいません。